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狐の嘘と君の真  作者: 華宵 朔灼 / よぴこ
本編 -中学生-
39/59

27 襲撃と捕獲の話

 そんな最近の戯れの最中、昼食が終わって片づけようかとした時、その異変はやってきた。


 「………?」

 「どうしたー鉄?」

 「いえ、何か、ピリっと………ッ!!」


 玄関の所に置いてある靴を履こうとして、首の後ろを抑えた藍鉄は膝から崩れ落ち、土間に転げた落ちた。


 「鉄!?」


 ぐっと手に力を込めるが立ち上がれない藍鉄を見て駆け寄ろうとする蒼月だが、勢いよく開かれた玄関扉の方に目が行く。


 「蘇芳について上に報告したところ、妖狐の情報を少しでも得るためにしかるべき場所で拘束せよとの命が下った」


 その広い土間に入ってきたのは時雨。

 その後ろには、蒼月も見覚えのある時雨の部下の陰陽師たちの姿もある。


 「ッ! ……この術は、貴方の、仕業ですか!」

 「おかしいな、藍鉄。とても苦しそうじゃないかい?」


 苦しそうに立ち上がろうともがく藍鉄とにやにやと汚らしい笑みを浮かべる時雨の様子に、一歩も動けなくなった蒼月は眺めることしかできない。


 「………? これは、力を、吸い取る術じゃ………」

 「そう。妖の力を削ぐための術式だ。なんで、“人間”の君が苦しがって居るのかな?」


 時雨は土間に入ると、懸命に立ち上がろうとしている藍鉄の胸倉をつかみ上まで持ち上げる。


 「っ!! 鉄を放せ!」

 「うん? ああ、蒼もいたのか」

 「放せよ!」

 「放すのは構わないよ」


 目線まで持ち上げられた、宙に浮いていた藍鉄の体は支えを失い、体の自由が利かず畳の上に転がる。


 「!」

 「こらこら、そんなに殺気立たないでくれ。俺が使ったのは“妖怪”の力を削ぐ術式で、別に人間を苦しめる為にやってるわけじゃないんだよ? ほら、今だって蒼も俺も何ともないだろう?」


 ごほっ、と苦しげに息を吐く藍鉄に目をやり、時雨が放った言葉に混乱する蒼月。


 「これで苦しんでるってことは………いくら馬鹿でも分かるよね?」


 綺麗な笑顔を蒼月に向ける時雨。


 「で、でもっ」

 「認めなよ? 蒼、教えたろう? 邪な存在である妖は、人に擬態して常に敵対者の喉元に噛みつこうとしているって」


 土足のまま畳の上に上がる時雨。


 「やめっ」

 「ふん」

 「………ッ!」


 止めようとした藍鉄の手を踏みつけ、革靴特有の固い踵で踏みにじられ、藍鉄が声にならない悲鳴を上げる。


 「やめろよっ」


 無意識のうちに、近くにあった鍵代わりの木の棒を手に持って、蒼月は時雨に殴り掛かっていた。

 しかし時雨も陰陽師の端くれ、蒼月のまだ浅いその攻撃をやすやすと躱し、逆の足で振り下ろされた棒の先端を踏みつける。

 刀や木刀であったなら切り替えしができたかもしれないが、今蒼月が持っているのは丸く加工されたただの木の棒。力を込めてもかけられた時雨の体重に逆らうことはできない。


 「蒼、なんでそこまで肩入れする。友達だからか?」

 「っ! 本人から聞く! あんたは出てけ!」

 「………ふぅ。そこまで毒されているのか」


 大根役者のように、大きな手振りで呆れたとジェスチャーをした時雨は、袂から一枚の札を取り出す。


 「これは退魔札だ。これをお前に張り付けても何も起きないが………」


 側に寄ってきていた蒼月の額にその札を張り付けるが、その札はなんの効力も示さない。

 一瞬身構えたが、何も起こらないことに安堵して、変わらず強く時雨をにらみ続ける蒼月。


 「これを、藍鉄にくっつけると、だな………」


 蒼月の額から剥がしたその札を、今度はゆっくりと、確かにくっつけたのだとその眼に確かめさせるように、藍鉄の頭に押し付ける。


 「ぐっ。あ゛ぁあ゛あああぁ」


 眩いほどの光がその札と藍鉄から散り、藍鉄の口から苦しげな叫び声が上がる。


 「!?」

 「現実を見ろ、蒼。なんで、こうなるんだろうな?」


 にやりと、時雨は唇を歪ませる。


 「まさか………鉄、が?」

 「そのまさかだ。さて、藍鉄、蘇芳と共に私の屋敷に来てもらおうか」


 ぐったりとした藍鉄をその場に残し、土足のまま奥へと進んでいく時雨。


 「見つけた」


 厳重な封印が施された襖を開ければ、そこには布団の上に蹲り、陽炎のような耳と尻尾を生やした一人の少女。


 「連れて帰るぞ」

 「っ!」

 「ああ、“蒼”、お前は少し“眠ってろ”」

 「う、え………?」


 どうしたらいいか分からず時雨を眺めた蒼月は、目があった瞬間に言われた言葉通り、その場に崩れ落ちた。


 「はっ。お前は知り過ぎたから、なぁ」


 差し込む夕日に照らされた時雨の顔は、これからに期待を含ませる少年のような笑みをしながらも、その瞳の奥にはどす黒い欲の炎が渦巻いている。

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