26 需要と供給の話
春一番。
小規模の嵐が来る。
雷が鳴り、土に目覚めを告げ、風が吹き、空気が温かく微笑み、雨が降って、夜明けを告げる。
春の嵐。
それが、この村にも訪れようとしていた。
「で? ここはどうやったら解けんの?」
「ここは、この公式を使って………」
中学二年生は、そろそろ学期末のテストがあると言うことで、勉強の苦手な蒼月は、学校に行ってすらいない藍鉄に勉強を教わりに今日も山に登っていた。
「いや、それが分からないんだってば」
「そうですね………こうすれば解きやすくなりますか?」
小難しい言葉で書かれた陰陽師の文献を現代語に直しながら書き写している横で、至って普通の勉強をする蒼月。
「凄ぇ! これなら分かる!! やっぱ鉄将来教師とか目指したら?」
目をキラキラと輝かせて、新しい解釈が書かれた教科書の端を見つめる蒼月。
「いいえ、僕には陰陽師になるという目標がありますから」
未だに陰陽師として未完成だと、これからさらに頑張らなくてはならないと思いながら書き写しを進める藍鉄。
「てっちゃんなら何でもできるはずだよ!」
ばれてしまってからは別に気にすることはないと、妖狐化していない時のみ、術によって人形を喋らせて会話に介入する蘇芳。
その人形は、蒼月が母親からあまりものの生地を貰い、藍鉄がちくちくと一晩かけて縫った大作であったりする。見た目はとてもかわいらしいテディベアだ。
「あ、蘇芳! 誰ルートクリアしたの?」
「ふっふっふ! 今ちょうど月さんっぽい人のシナリオを三周し終わったのです」
「あ、じゃあ次が隠しルート?」
「はい! 隠しルートクリアで出てくるスチル見せますね!」
「はは、楽しみにしてる」
二人が何の話をしているのか分からないと肩をすくませた藍鉄は清書が終わったのか、ノートの表紙に本の題名と著者、書き終えた日付を書き加え、また新しいノートを開く。
「あ、そうだ。この前さ」
ボーンボーンと十二回、壁に取り付けられている振り子時計が十二時を告げる鐘を鳴らす。
同時に時計を見上げた蒼月と藍鉄だったが、蒼月の腹が大きな音を立てて鳴ったため、藍鉄はくすくすと、蘇芳が操るテディベアは腹を抱えて大笑いする。
「お昼ご飯にしましょう」
「むぅ………あ、俺の母さんが弁当作って来てくれたからそれ食おうぜ」
藍鉄も蘇芳も小食で、いつも余った分の弁当は取っておいて翌日の昼に食べてるから、と母親を看破した蒼月が持ってきた弁当の数は二個だ。二個だが、その大きさはいつにもまして大きいのだが。
「そういや、今蘇芳がやってる恋シュミ、鉄が買ってきたんだろ?」
「そうですが………」
話しかけられたため、ちぎりに箸を置き話を聞く姿勢をただす藍鉄。
その姿に苦笑して、食べながらでいいからと言った後。蒼月は気になったことを話し始める。
「売ってるとこに行って、なんて店員さんと話したの?」
実はもともとギャルゲーはやっても乙女ゲームの方は手を出してい無かったのだが、主人公を男か女か選んで、そこから更に異性攻略できるゲームを一番初めに蘇芳に渡してしまったことから、わざわざ乙女ゲームを店頭に買いに行っていたことがある蒼月。
流石に友人に見られて、その時は友達へのプレゼントだと言ったが恥ずかしくて二度と行く気は起きず、最近はすべてネットで落としているのだが、その恥ずかしかった記憶を友人とも共有できるかと思い聞いたのだ。
「普通に店員さんにお願いしましたよ? 僕の妹が欲しいと言っているので、適当に良さそうなものを選んでください、と」
藍鉄は実際に言った言葉と共に返すが、あまりにも素直な返答が来たことで、恥ずかしがっていた自分が恥ずかしいという不可思議な状況に陥る蒼月。
「皆さんいろんな作品を勧めてきましたけど………」
「え? 皆さん?」
「はい」
「店員さん?」
「そうですよ?」
自ら行ったときは、特に店員と話しかけずに普通のRPGの下に隠しながら購入し、表面を見られてクスッと笑われたと言うのに、こいつは言われなかったのかと何となくやるせなくなる。
「ってか、オススメ聞いたの?」
「ええ。当店人気ナンバーワンと書かれていたものは大抵月さんが買ってきてくれていたので………店員の女性たちにオススメを聞きました」
俺の時は大抵男性で、冷たい目が怖かっただなんて言えない蒼月。
「あ、だからかなー」
「………蘇芳は何か気が付いたのー?」
「うん。月さんが買ってきてくれるのは本当にいろんなキャラクターを攻略するんだけど、てっちゃんの買ってきてくれたものは、だいたいてっちゃんに似たキャラクターが第一攻略対象なんだよね」
二人は腹を抱えて笑い、何がおかしいのか分からないと藍鉄は首を傾げた。




