24 訪問と和解の話
中学の帰り道、頭の中でどうやって謝ろうかと反芻していた蒼月は、家に帰り、リュックサックを投げ捨てると、母親の怒声を背中に受けながら、藍鉄のいる山の上の小屋へと走る。
「………!」
その途中、聞こえてきたのは男の怒声。
聞きなれたその声は、いつも妖狐への恨みを肯定してくれるそんな声で。
蒼月は、考えるより先に、木の影に隠れた。
「だから、蘇芳は妖狐じゃない! 何度言ったら分かってくれるんですか!!」
いつも一つにまとめている髪はばらばらと広がり、髪を振り乱して叫ぶ藍鉄の頬には裂傷が付いている。
その目の前にいるのは時雨と、時雨の屋敷で見たことがある二人の陰陽師。
「じゃあこの凄まじい妖気はなんだ? お前の力が強いことにま前から疑問に思ってるが、この妖気はお前から出ているわけでもあるまい」
妖気が見えない蒼月は、首を傾げるばかりだが、藍鉄の青い顔と、時雨の焦点のあっている笑い顔に、陰陽師には見えるものがあるのだと考える。
「蘇芳は妖狐の呪いを受けているからと前にっ! か、勝手に入らないでください」
「押さえておけ」
「ぐっ」
時雨は戸口の前に立つ藍鉄を押しのけ、向ってきた藍鉄を連れの陰陽師に押さえさせる。
無様に転がった藍鉄は、地面に体と頭を押さえつけられ、地面に飛び散る。
「悪いけど、調べさせてもらう」
その硬質な声に、蒼月は隠れていた陰から見える位置に身を乗り出した。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
「………月、さん?」
時雨の戸口にかけられた手は、蒼月の一言で止まる。
「へぇ? 蒼、何か知ってるのか?」
サッと顔を青ざめた藍鉄の顔を見てにやりと笑い、蒼月の言葉を待つ時雨。
「確かにアレは、妖怪見たいだった」
ザリッと、動こうとしたが動けない藍鉄が地面をこすり、さらに強く頭を押さえ付けられる。
その姿が目に入り、蒼月はギュッと目を閉じた後、時雨を真っ直ぐ見つめて言う。
「でも、確かに人だった。………寝ている彼女が起きたのは俺のせいだ。彼女には安静が必要だと思う。だから、静かにしておいてもらえないかな」
蒼月のその言葉に、時雨は顎に手を当てて少し考えると、藍鉄と蒼月を見て、ただ一言、帰るぞ、と言って山を降りて行った。
「っ………」
藍鉄は立ち上がり、服に付いてしまった石や土を払う。
まだ垂れる鼻血を袖でふき、ぺこりと蒼月に頭を下げる。
「月さん、助けてくださって、ありがとうございました………」
「鉄………」
「はい」
「やっぱり、さ。心の底からお前らを許すことは俺にはできねぇんだ」
「………はい」
自然と藍鉄の頭が垂れる。
「でもさ、」
ふと、目の前に蒼月の足が見えて、藍鉄は目線を上げる。
「その、今まで仲良くしてきたことは嘘じゃないし、だから、その………」
ぽりぽりと頭をかいて、目じりを下げた蒼月は藍鉄を見てはにかむ。
「良ければだけど。これからも、よろしく?」
差し出された手。
藍鉄はその手を呆然と見つめ、蒼月が手を引っ込めるべきかと悩み始めたところでぐっと握りしめる。
「僕で良ければ。よろしく、お願いします」
はにかみあう二人。
「あ、早く止血!」
「鼻血ってなかなか止まらないんですよね………」
いつも通りの雰囲気が、小屋の前で繰り広げられた。




