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狐の嘘と君の真  作者: 華宵 朔灼 / よぴこ
本編 -中学生-
34/59

22 偉大なる母の話

 家に帰った蒼月は、母親に言われて、自分が雨の中歩いて帰ってきたことを知る。


 「もう、風邪ひいたらどうするの!」

 「え、あ………」

 「フード被っても、防水じゃないんだから、もっと早く帰って来なさいよね」


 タオル持ってくるからそこで待ってるのよ。と言われ、フードを取りながら目線を下に移す。

 コートから、ぽたぽたと、水滴が床に落ち、じわりじわりと水たまりが広がっていく。


 「もう、コートは脱いでよかったのに………」


 バサッと頭にタオルがかけられ、少し乱暴に、それでも優しく水気をふき取られ、何だか欝だった思いが軽くなっていく気がする蒼月。


 「ほら、洗濯機に入れちゃうから、全部そこで脱いじゃいなさい」


 コートを脱がされ、タオルに包んでそれを持っていく母親の背を見送り、横を見ると、そこにはいつも父親が出勤前にネクタイを結びなおす姿見が置いてある。


 「俺は………」

 「まだ脱いでなかったの!? ほら、バスタオル。全部脱いで早く風呂場に向かいなさい!」


 姿見から目線を母親に戻し、元気に話しかけてくる母親に、問う。


 「ねえ、母さん」

 「なあに?」

 「俺、今ここにいる? ちゃんとここに立ってる?」


 雨に濡れたせいでぺったりと垂れた髪から、水滴が滴る。


 「………何馬鹿なこと言ってるの。蒼月はここにいるでしょ」


 バサッとバスタオルが頭を覆うようにかけられる。


 「私の息子の蒼月はちゃんとここで………水を滴らせるいい男を演出してるわっ」


 ごしごしと、また頭を拭かれて頭が揺れる。


 「………はは、まだ少年だから良い男ではないかもよ」

 「あら? 私とあの人の子供よ? 将来有望な少年じゃない!」


 早く服脱いであったまらないと、本当に風邪をひいて明日からの学校行けなくなるわよ! と言われ、玄関先で服を全部脱ぎ捨て、バスタオルに包むと、全て洗濯機の中に詰め込み、沸してあるお湯をかぶる。


 「あったかい………」


 冷たすぎて感覚をなくしていた足先にぴりっとした痛みが走り、じわじわと温かさが広がっていく。

 体を流して、風呂に浸かれば、サバ―っと音をたてて水が排水溝へと流れ出ていく。


 「蒼月、あったかいー?」

 「うん、あったかいよ」

 「あ、今靴持ってくるから、お風呂であったまりながら洗っちゃいなさい。泥だらけだったから」


 パタパタと走る母の足音に苦笑して、体があったまっても、なかなか暖まらない気持ちにイラつく。


 「蒼月ー………どうしたの泣きそうな顔して」


 泥だらけの靴を持った母親が、浴槽の扉を開けて入ってくる。


 「勝手に入るなし」


 顔を半分お湯につけ、ブクブクと泡をはきだすと、上から苦笑気味の声が降ってくる。


 「長風呂もダメだからね? 温まったら体洗って、まだ温まって体流してから出てくるのよ」

 「分かってるって!」


 早くでてけとお湯を飛ばせば、笑いながら去っていく母。

 きっちりと置いてある泥だらけの靴に苦笑して、腕だけ出して靴を持ち上げれば、その下に水が沁みないように周りをセロハンテープで固定したファイル。


 「は?」


 夕飯のメニューと、靴の洗い方がびっしりと書き込まれた母のよくわからないメモに、蒼月の顔は笑っていた。

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