21 死者と生者の話
更に白くなった藍鉄の様子に、蒼月は首を傾げる。
藍鉄の頭の中には、ある日の情景が流れていた。
まだここに来たばかりの頃、まだこの小屋に居ついて時が経っていなかった頃のこと。
「月さん」
「うん?」
真っ白になった唇をかみしめて、言葉を絞り出す藍鉄。
「妹さんの名前、………黒星、さんですか」
「そうだけど………なんでそれっ、まさか」
「蘇芳が、魂を食べた………女の子の、名前です」
「は………」
まるで地面がなくなったような、何もかもが崩れ落ちていく感覚を味わう蒼月。
「ごめんなさいっ、僕は、側に居たのに、止めることができなかったっ!」
藍鉄の頬に涙が伝う。
「………」
逆に蒼月は言葉を理解して、その瞳に薄暗い炎を宿す。
「!でもっ、蘇芳を、蘇芳を恨まないでやってください!!」
蒼月が藍鉄を通り越して襖の向こうを睨みつけたのを感じて、少し体をずらし、その視線を断ち切る。
「………それは………そんなことっ、今更ッ!」
「どうか! 僕は大切な妹を亡くした月さんの気持ちを、痛みを、理解することはできません。けどっ、妹を持つから、妹を亡くした痛みは想像できます!」
初めて聞くそんな荒げた声に、蒼月はびくりと身をすくませる。
逸れた視線は、はっきりと相手藍鉄を見て、話を聞く。
「僕が月さんなら。月さんなら、きっと蘇芳を憎むでしょう。憎んで憎んで、殺したくなるでしょう」
「だったら」
一歩踏み出す蒼月に、懸命に戸口に立ちはだかる藍鉄。
「でもっ、蘇芳は………蘇芳は呪われた身なんです!」
「………」
妖狐に、呪われたんです。
「今の彼女自身でも抑えられないそんな呪いを、幼い彼女がどうして抑えられましょう」
「………」
その呪いは強力で、今でも蘇芳の体を蝕んでいます。
「憎んでもいい、恨んでもいい。でも、それは彼女ではなく、止められなかった僕に………黙ってそれを見届けた僕に、その思いをぶつけて下さい」
僕を殺してくれても構いません。
「………」
「蘇芳ではなく、僕を………」
「分かってるんだよ」
その怒りが、その憎しみが、僕を殺すことで収まるののなら。
僕を殺してくれて構いません。
「お前らが悪くないって、そんなことは分かってるんだっ………でもっ」
「月、さん………」
ふらふらと何か支えを求めるようにふらつく蒼月を支えようと藍鉄が一歩踏み出せば、今度は蒼月が一歩後ろに下がる。
「………しばらく、頭を冷やさせてくれ」
藍鉄が目線を上げれば、蒼月の目線が下がる。
答えを聞かずに、コートのフードを深くかぶり、蒼月は山を下っていく。
「………はい。答え、待ってます」
蒼月の背が見えなくなるまで見送った後、藍鉄はそう呟いて、家の中へ入っていった。
ちろちろと舐める赤い炎は、とても冷たく感じられた。




