15 会議と狂気の話
会議場で話された霊災の実害はかなりひどいものだった。
人食いの鬼の伝説が残る村の話がネットで広がり、度胸試しとして訪れた若者が偶然通りかかったとされる妖に憑かれ、同じように度胸試しで来ていた若者の魂とその体を食べ、その妖力を増していて、すでにその土地の担当陰陽師では対処できないから早くどうにかして欲しい、と本庁に言が来たらしい。
「そう言う訳で、まだその疲れた青年は生きている。その意識が残っているかは不明だが、その両親も生存を希望している為、今回の仕事は鬼を剥がして青年を助けることが目標だ」
そういったところでスクリーンに映し出されていた映像が、遠くから様子をリアルタイムで映し出している映像へと変わる。
昼過ぎ。
太陽よりも月の方が大きく霊力を扱うことができるため、本来は月の出ている時間に修祓は行うのだが、月が出ているということは同時に妖力も高めてしまう為、今回のような危険とされる霊災の修祓になると力を持つ者が集められて妖力が弱まる日の光の下で修祓を行うのだ。
普通の陰陽師ではその力を十全に扱うことができないだろうが、ここに居る連中は違う。
安全の為何人もの人が呼ばれているが、無茶を通せばこの程度の霊災、単独で解決させてしまえるだろう。
「何か質問はあるかね?」
しかし、単独で解決させてしまうと、報酬はその一人にしか支払われず、声をかけられなかった人は唇を噛むしかなくなるのだ。
当然そうなれば文句も出てくるだろう。
それをなんとか回避して、安く、しかも最少の被害に収めるために、本庁は有力者全員に収集命令を駆けて、迅速に解決させるのだ。
「本当に生きてんの? もし生きてたとしても精神が崩壊してたら剥がれないだろ? それに、もう同化してしまってる恐れがある」
この会議には多くの者が参加する。
ホテル無料宿泊の代わりにこの会議の参加を義務付けられ、それ以降修祓に参加するかどうかは集まった者たちに意思による。
「それは私が保障するわ。まだこの魂は輝きを失ってない。私にしか見えないのかもしれないけど、輝いているというのは精神が崩壊していない証よ。まだ、助けられる」
藤菜がその質問に答える。
この中で藤菜の発言力はかなりのものだ。
普通よりもかなりの霊力を保持しているが故に見えてしまう魂の輝き。昼夜問わずそれが見えてしまう眼を持ってしまっている藤菜。命の根幹である魂を見ることができる藤菜にとって嘘は通用しないし、その藤菜の目をだませるのは、藤菜以上の霊力を持つ者だけ。
陰陽師の排出については有力とは言えない家だが、多く有力な巫女を輩出してきた藤菜の生家でももっとも強い霊力を産まれ持った藤菜は、今では本庁お抱え巫女である。
「それで、藤の姫はいったいどのような作戦を?」
「それは残ってくれる人が決定してから話すわ。ここで言う必要はないと思う」
本庁のお抱えとなる前からはっきりしていた物言いのおかげで、この場にいる者全員の信頼を得ていると言っても過言ではない。ただ単に本庁に報告されて仕事を得られなくなるのを恐れる者も多いのだが。
「他に質問は?」
「この周りに人はいないんでしょか?」
睨まれようと気にせずに藍鉄は意見を述べる。
その眼はスクリーンに映し出された光景が広がっている為、睨まれている瞳など目に入っていない。
「一応結界は張ってあるが………」
「スクリーンの左下、木陰で影が動きました。動物であればいいですけど、人だった場合………」
「なんだとっ!?」
急いで電話をかける解説者に、集まった者は小声で情報を交換し合う。
「確認した所」
電話が終わる頃、そう、ちょうどその発言が行われた時。
「また一人、度胸試しで検問をかいくぐり中へ入ったようだ」
遠距離からこの部屋のスクリーンに映し出した式紙の目をあざ笑うかのように、一人の青年と、共に来たのであろう二人の女性が遠目に映る。
「参加する者は残ってくれ。移動中に作戦を伝える」
鬼に憑かれ化け物と変貌した青年は、度胸試しで来た青年を引き裂き、魂と共にその肉体を喰らった。
その状況を間近で見てしまった女性たちは、その様子をただただ眺めている。
「解散!」
バッと全員が立ち上がり、いくつかのグループに分かれてどうするかを判断し、参加する者は必要なものを持って、トラックの後ろの、真っ黒に染められた会議室のような内部設計になっているコンテナに乗り込む。
すでに必要なものを持ってきていた藍鉄は、一番最後までそのスクリーンに映る狂気を見続けていた。




