12 架空の恋愛の話
藍鉄は、蒼月が積み上げて行った携帯ゲームを蘇芳と一緒に消化していた。
最近蘇芳も携帯ゲームにはまってきたようで、藍鉄が全く面白いと思わなかった画面の中のキャラクターと恋をするお話を楽しんでは、次に蒼月が来た時に持ってきて欲しいと藍鉄に望むようになった。
「ね、てっちゃん。ほら、この人かっこいいでしょー!」
「え? そうなの?」
「もー、ほらこの人、私たちより年上らしいけど、てっちゃんみたい!」
ゲームの中の画面を見せられても、よくわからないと首を傾げる藍鉄に、蘇芳はムスッとすると、そのキャラクターのことについて語り始める。
熱く語るその姿に、妹の行く末を心配してしまう兄である。
「どう? 分かった?」
「全然」
「うーん………あ、私声しか聴いてないけど、この人月さんに似てると思わない?」
素早く変わった画面。
本当に慣れ親しんでるなと思って、その画面の中を見れば、こちらに向かって二カッとほほ笑む顔に傷が付き、ズボンと服の裾をたくし上げている男性の絵。
「随分壮絶な人生を歩んできた顔だね」
「もうっ! ゲームにそんな壮絶な人生なんてないの!」
「そうなの?」
「そうなの!」
で、どう? こんな感じ? と聞いてくる蘇芳に、藍鉄はじっくりとそのキャラクターを見直し、言う。
「確かに髪はツンツンしてるし、こうやってよく袖をたくし上げてるな。傷はないけど」
でもこれから訓練してたらこんな風に傷ができるかもしれないな、と藍鉄は考える。
「へー………後は? 似てるとこない?」
「そうだな………ああ、いつも笑顔だぞ」
「そうなんだ!」
キャラクターの表情一覧という所を見つけて、その場所を見てみれば、なんとも表情豊かな顔が出てくる。
「そうだな、表情の変化が激しいのもこのキャラクターとの共通点かもしれない」
「へー! あ、てっちゃんのキャラクターは本当に無表情なんだよー」
「………はい?」
藍鉄に似ていると言われたキャラクターの表情一覧という所を見て見れば、確かに動いていない表情筋。
「僕はこんなに無表情かな?」
「私と話してるときは少し動いてると思うけど、てっちゃん家族以外と話すときほんとに顔動いてないよー」
妹である蘇芳に言われ愕然とする藍鉄。
せめて愛想笑いを覚えた方が良いかもしれないと本気で思うのだ。
「てっちゃんのキャラクターはねー一番最初に落としたの!」
「うん? シューティングゲームじゃないだろ?」
落ちる、という表現に、恋に落ちるなんて考えない藍鉄。
文学小説を少しは読んでいる藍鉄だが、殆どは昔の陰陽師の文献であったり、最近の法律や社会事情についてであったり、とにかく蘇芳が普通に暮らせるようになる、というのが目標な藍鉄にとって、恋愛に興味を持つ時間などない。
「もー、一応恋愛ゲームなの! 架空の男の人と恋するゲームなの!」
「はいはい。僕にはその楽しみが全く分からないよ………」
ため息をつく蒼月。
同じく蘇芳もため息を付くが、その方向性は全く逆である。
「あ、女の子と恋するゲームもあったよ」
「ああ、月さんはそういうの好きらしいな」
ゲームの山からシュミレーションタイプの物を抜き出してきて並べる蘇芳。
蘇芳の部屋の半分はゲームが占めていると言う状況だが、それに文句を言う者は誰もいない。
「へー。てっちゃんはしないの?」
「画面の向こう側に興味はない」
「えー? “もしかしたら好きになる娘がいるかもよ?”」
いい悪戯を思いついたと蘇芳は少し笑って、そう言う。
「ゲームの中のキャラクターより現実の人間の方が好きだな」
笑ったことに気が付いても、なんで笑ったか分からない藍鉄は、思ったまま蘇芳の台詞に返す。
「“でもほら、私みたいな可愛い子もいるんだし”」
「は? 蘇芳の方が可愛いだろ」
真顔でそう返す藍鉄に、蘇芳は下を向き肩を震わせ、堪えきれないと笑う。
「………ぷっ。あっはっはっは!」
「うん? なんか変なこと言ったか?」
「てっちゃん、このキャラクターと同じこと言ってるー!」
布団の上で笑い転げる妹を心配そうに、でもここまで興味を持つものがあったのだと安堵しながら、藍鉄はその様子を見つめる。
そんなに似てるのかと、改めてそのゲームに目をやり、笑顔の練習をする藍鉄に蘇芳は腹を抱えて笑うのだった。




