05 祭りで社の噂話
村では月に一度、何かしらの理由をつけて祭りが行われる。
昔この村を守ってくれた神様に捧げる祭りの名残らしく、朝から晩まで村の者全員が集まってどんちゃん騒ぎを繰り広げるのだ。
「母さん。俺あっち行ってくる」
「分かったわ、迷惑だけはかけちゃだめよ」
「分かってるって!」
蒼月も、一家そろって祭りに参加している。
なかなか休みの取れない蒼月の父も、むしろ会社側がこの日だけはどんなに大変でも有給休暇以外で有給を取らせてくれると不思議がるが、陰陽が浸透している現代において、この村の祭りはそれほど昔から重要なものだと取り上げられて来たと言うことがわかる。
村でお祭りに興じている者のほとんどはすでに何のための祭りだったかなど覚えてすらいないのだが。
「それでなー」
「じーちゃん!」
この村で唯一の若者である蒼月は、物怖じしない性格のおかげもあって、村ではかなり可愛がられていた。
小さい村では村全体が家族のようなものだ。
蒼月の家族が一番若いこともあって、本当の孫のように蒼月は可愛がられている。
「お? 蒼月じゃないか」
「なんか話してた?」
「蒼月もここで聞いてけ」
そこで話されていたのは、陰陽師の入れない山中にあると言い伝えられている社の話。
「陰陽師って、時雨サマも入れないの?」
「俺も無理だな」
「うわっ」
「驚くなよ少年。あの社のある山とその周囲の峰はすべてうちの管理してる土地なんだ。入れなくて困ってるくらいなのさ」
蒼月を抱きかかえている老人のさらに後ろから、お神酒を煽って話に加わってきたのは、この村を守護している陰陽師の時雨。
「あれ? その山に藍鉄っていうのが住んでんじゃないの、っすか?」
「無理に敬語を使う必要はないさ………藍鉄が住んでるのはその隣の峰だな。藍鉄も陰陽師の端くれだ。山の中には入れないさ」
山は陰陽師も妖怪も寄せ付けず、何の力も持たない一般人が迷ってどうしようもなくなった時、その社は扉を開くらしい。一晩軒の下で眠ると、まるでそこに社なんてなかったかのような森が広がると言う言い伝え。
「実際に社を見たって連中は多いけど、結局その社が扉を開くのは困ったものがいた時だけ。もしかしたら、優しい妖の仕業なのかもって言われてたりもするな」
一升瓶を手慰みにもてあそびながら、時雨は眼鏡の奥でじっと蒼月の反応を見る。
「へー」
蒼月の瞳の奥が燃えた。
時雨は口を歪めたくなる思いを必死に抑えながら、その薄暗い炎に油を振りかける。
「でもいいか。あの山の中は陰陽師でさえ行けないんだ。危ないところに子供が一人で行くなんて危険を冒してはいけないよ。いいね? 絶対にだ」
「分かってるさ、時雨サマ」
蒼月がぷくーっと頬を膨らましながらそう言ったのを見た時雨は、また別の村人たちの集まりを冷やかしに行く。
「蒼月、時雨様がおっしゃる通りだ。何があるか分からないから、あの山に近づいてはいけないよ」
「もーじーちゃんたちまで! 行かないってば!!」
さらに頬を膨らませる蒼月に、周囲は可愛い可愛いと頭をわしゃわしゃと撫で、今年の収穫はうまくいきそうだとか、いつも通りの祭りの様子に戻っていく。
「ふん、俺は陰陽師じゃないけど、子供じゃないんだ! 山に入って社を見つけるぐらいできるもんね!」
時雨の思惑通り、蒼月は大人への対抗心を大きくさせて、次の休みの計画を立て始める。




