04 兄妹の現状の話
時雨さんは、メガネをかけていてひょろりと背が高く、その眼に欲ばかりを映し出すような人。
はっきり言って、僕は時雨さんが嫌い。
まぁ、嫌いだけど嫌いって言っちゃいけないから、とりあえず苦手な人だって言ってる。本人に言ってもへこたれてくれないからもういろいろ聞き流してるけど、そろそろ妹と二人だけの生活の邪魔を止めてくれないかな………。
「―――なんだけど、一緒に行ってくれるよね?」
「すみません、最近妹の調子が悪くて、遠出には付いていけません」
話の途中から妖狐の目撃情報はどこに行ったのかな?
結局遠くの狩場に出張しなくちゃいけないから、経費削減と時雨という陰陽師を本庁に売る為に弟子として同行しろと、しかも倒すのは全て任せるから周囲の警戒は任せろなどと。ふざけないでいただきたい。
「それに、僕の方でもいくつか仕事が入っていまして………」
そんな不機嫌な顔をしないでくださいよ。
「今回の同行は断らせてください」
妹の様子が心配だから早く帰りたくてスパッと断ってしまったけど、普通に返してもらえるかな?
早く帰りたい。
「うちの土地に勝手に住み込んだ奴が、俺らの援助を断ろうってのか?」
援助なんて受けた覚えがないですけど?
陰陽師が管理できない山で、僕らの今住んでいる小屋、普通の人から見れば屋敷ぐらいの広さらしいけれど、そこに村の人が住んで管理していたらしい。
随分前にあの小屋に住んでいた人もなくなって、空き家になっていた所で僕らが住み着いて、今に至るわけだけど、僕らはこの村の住人として登録されてないし、この村に帰属しなければならないわけでも、この村に帰属したいわけでもない。
僕の帰る場所は妹が、家族が居る場所だ。今妹はあの小屋から出られないから、あの小屋が帰る場所になっているだけだ。
「申し訳ありません」
そうやって全部言えたら、いいのにね。
僕がまだ十四歳で、無力だから。
陰陽師は十五歳の誕生日と共に成人が認められるから、あと一年は耐えないといけない。
「ふん。………そう言えば、蘇芳の呪いはどんな感じなんだい?」
「どんな感じ、とは?」
ああ、目に欲が滲み出てますよ、時雨さん。
「あの小屋に居ないでこの村に降りて来れば、蘇芳の呪いの解き方も早く分かるんじゃないか?」
「いえ………人にうつるかもしれない呪いなので、村の人にもしものことがあったら僕では責任が持てませんので」
責任問題にしてしまえばその欲に少しの歯止めがかかるのを知ったのは五年ほど前。
それまでは本当に断るのが大変だった。
時雨さんの屋敷の人曰く、蘇芳にかかっている呪いを解いて、新種の呪いを解いた博士として陰陽庁に申し出て自分の名を売りたいのだとか。
自分の身に呪いでもかけて売り歩けばいいんじゃないですかね。
「それならば仕方ない。早く帰って蘇芳の世話をするといいさ」
「ありがとうございます」
蘇芳が歩けないほど憔悴するなんて、呪いの進行は早まるばかりだ。
早く解決策を見つけないと………一番簡単な解決策は取りたくないから。
「それでは、失礼しました」
早く帰ろう。
そうだ、蘇芳の好きなものを持って帰れば少しは調子も良くなるかもしれない。
「“狼”」
向かうなら三つ先の山かな。




