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第4話 鑑定



あれから、倒れた父に付き添って医務室へ向かった。


医者によると、貧血によって倒れただけらしい。


しばらく休めば問題ないとのことで、俺は父を残して自分の部屋へ戻ってきた。




「…………」




一人になったところで、改めて状況を整理する。




「俺はあの時、死んだよな……」




八十五歳。


家族に囲まれて、人生を終えた。




「それで異世界に転生した」




ここではアーク・フォン・ヴェインとして五年間生きてきた。




「魔法がある」




前世では物語の中にしか存在しなかったものが、この世界では当たり前のように存在している。




「子爵家の長男らしい」




父、バルド・フォン・ヴェイン。


この土地を治める領主。


そして俺は、その長男。




「それで……権能をもらった」




…………。




ダメだ。


とんでもない状況すぎて、頭がこんがらがる。




「…………あ、権能」




そこで思い出した。




権能授与の儀で授かった――《鑑定》。




周囲を静まり返らせた挙句、父親までぶっ倒したクソ権能だ。




「…………使ってみるか」




せっかく貰ったんだ。


何ができるのかくらいは確認しておきたい。




俺は近くにあった机へ意識を向ける。




「《鑑定》」




すると――




頭の奥で、機械的な声が響いた。




《木の机》


《木で作られた机》




「…………」




机を見る。




もう一度、表示を見る。




「見りゃ分かるわ!」




思わずツッコんでしまった。




いやいや。


もうちょっと何かあるだろ。


木の種類とか。


作られた年代とか。


職人の名前とか。




…………。




気を取り直そう。




次は鏡だ。




「《鑑定》」




《鏡》


《綺麗に磨き上げられた鏡》




「…………はぁ」




そりゃそうだよな。




父が倒れたのも納得できる。




その程度なら、本当に魔道具で十分じゃないか。




「…………ん?」




鏡を見る。




当然だが、そこには俺が映っている。




…………待てよ。




鏡に映った自分へ《鑑定》を使ったら、どうなるんだ?




前世でも、気になったことはとりあえず試してきた。




試さない理由はない。




鏡に映った自分へ意識を向ける。




「《鑑定》!」




《名前:アーク・フォン・ヴェイン》


《年齢:5歳》


《種族:人間》


《権能:《鑑定》》


《特記事項:なし》




「おお……!」




できた。




直接見ているわけじゃない。


鏡に映った俺でも《鑑定》できる。




「なるほど……」




つまり、目に映っているものであれば、間接的でも《鑑定》の対象にできるってことか?




ちょっと楽しくなってきた。




こうなると、色々試してみたくなる。




俺は部屋の壁に掛けられている剣へ意識を向けた。




「《鑑定》」




《鉄の剣》


《鉄を原料にした剣》




「…………まあ、そんなもんだよなぁ」




期待した俺が馬鹿だった。




父が倒れたのにも納得がいく。




ハズレだ。




まごうことなきハズレだ。




とはいえ、《鑑定》そのものは妙に楽しい。




次は何に使おうか。




部屋を見回す。




そして、壁に取り付けられた灯りが目に入った。




蝋燭……ではない。




そういえば、これはどういう仕組みなんだ?




「《鑑定》」




《魔導灯》


《魔石を利用して光を発生させる魔道具》




「…………ん?」




さっきより説明が詳しい。




魔導灯。




魔石を利用しているらしい。




「魔石ってなんだ?」




そう考えながら、《魔石》という部分へ意識を向ける。




すると――




《魔石》


《魔力を蓄積する性質を持つ結晶》




「…………え?」




表示が変わった。




偶然か?




もう一度。




魔導灯へ意識を戻す。




《魔導灯》


《魔石を利用して光を発生させる魔道具》




そして今度は――




どうやって光ってるんだ?




そう考えながら《鑑定》する。




すると。




先ほどとは違う情報が頭の中へ流れ込んできた。




「…………!」




俺はしばらく魔導灯を見つめる。




もしかして。




この《鑑定》――




ただ物の名前を教えてくれるだけじゃない?




最初に机へ使った時、俺は何も考えていなかった。




だから、




《木の机》


《木で作られた机》




それだけだった。




でも魔導灯を見た時。




俺は「どういう仕組みなんだ?」と思った。




すると、魔石を利用しているという情報が出てきた。




さらに。




「魔石って?」




そう疑問を持てば、魔石についての情報が出てくる。




「…………なるほど」




少しずつ分かってきた。




俺は頭の中で、《鑑定》について整理する。




一つ。




意識を向けた対象に《鑑定》を使うことで、情報を得られる。




二つ。




目に映っているものであれば、鏡越しでも《鑑定》できる。




そして三つ。




表示された情報に疑問を持ち、さらに意識を向けることで――




より詳しい情報を引き出せる。




「…………これ」




もしかして。




使い方次第では、かなり便利なんじゃないか?




正直、父や家臣たちには悪いが――




俺にとってはありがたい。




なにせ俺は、この世界について何も知らない。




アークとして五年間生きてきた記憶はある。




だが、それだけだ。




政治。


歴史。


魔法。


権能。


魔物。


この世界の常識。




知らないことだらけだ。




そんな俺にとって。




知りたいことを調べられる《鑑定》は――




案外、悪くない権能なのかもしれない。




そんなことを考えていると。




トントン。




部屋の扉をノックする音が聞こえた。




「アーク様!」




扉の向こうから使用人の声がする。




「バルド様がお目覚めになりました!」




「父上が?」




どうやら目を覚ましたらしい。




俺はもう一度、自分の手を見る。




《鑑定》。




まだ何ができるのか、全然分からない。




でも――




「……面白くなってきたな」




少なくとも。




ただのハズレと決めつけるには――




まだ早そうだ。

偶数日に3話ずつ投稿予定です

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