第3話 権能授与
「ッ――!!」
突然、頭に激痛が走った。
痛い。
頭の中を直接かき回されているような痛みだ。
「ぐっ……!」
ここは……どこだ?
いや、違う。
知っている。
僕は教会にいる。
今日は五歳になった子供が《権能》を授かる――権能授与の儀。
祭司が僕の頭に手を置いた。
その瞬間だった。
激痛と共に、ここではない世界の記憶が一気に流れ込んできた。
学校。
大学。
仕事。
家族。
妻。
子供。
孫。
ゲーム。
出口。
おっちゃん。
そして――
病院の白い天井。
「ありがとう……」
そう言って、俺は死んだ。
八十五年間の記憶。
それが、この世界で生きてきた五年間の記憶と混ざり合っていく。
俺は――。
俺は……誰だ?
「――アーク・フォン・ヴェインに権能が与えられた」
祭司の声が教会に響いた。
アーク・フォン・ヴェイン。
…………。
そうだ。
僕は――
いや。
俺は。
ヴェイン家の長男。
アーク・フォン・ヴェインだ。
「…………転生?」
思わず小さく呟いた。
前世の記憶。
そして、アークとして生きてきた五年間の記憶。
どちらも間違いなく俺の記憶だ。
どうやら俺は、死んだあと別の世界に生まれ変わったらしい。
しかも――
この世界には、前世には存在しなかったものがある。
《権能》だ。
この世界では五歳になると、教会で《権能授与の儀》を受ける。
そして神々から、その人間に適した《権能》を一つ授けられる。
簡単に言えば――
異能力だ。
例えば《火》に関する権能を授かれば、火の魔法を扱えるようになる。
《剣》に関する権能なら、常人を超えた剣技を扱えるようになるらしい。
もちろん、誰もが強力な権能を授かるわけではない。
何の役に立つのか分からないような権能を授かる者もいる。
そして――
今日。
俺にも、その《権能》が与えられた。
「祭司!」
後ろから大きな声が響いた。
「アークの権能はなんなのだ!?」
振り返る。
そこには一人の男が立っていた。
年齢は四十代くらいだろうか。
顔色が悪く、どこか病弱そうな男だ。
…………誰だ、このおっさん。
そう思った直後。
アークとしての記憶が教えてくれた。
父だ。
バルド・フォン・ヴェイン。
この辺り一帯を治める領主。
そして――
俺の父親。
祭司がゆっくりと口を開いた。
「アーク様に授けられた権能は――」
教会の中が静まり返る。
父も。
周囲の家臣たちも。
祭司の言葉を待っていた。
「《鑑定》でございます」
「…………」
誰も喋らない。
さっきまでざわついていた教会が、不自然なほど静かになった。
…………鑑定?
なんだそれ。
俺としては意味が分からない。
だが、周囲の反応を見る限り――
あまり良い権能ではなさそうだ。
「…………《鑑定》だと?」
父が呟いた。
明らかに落胆している。
「そんなもの……魔道具でもできるではないか」
おい。
五歳の息子に対して、割と酷いこと言うな。
俺だって今授かったばかりなんだから、そんな顔されても困るぞ。
「…………」
父は額に手を当てる。
そして――
「父上?」
フラッと身体が揺れた。
「お、お館様!?」
そのまま。
バタンッ!!
父が倒れた。
「お館様!!」
「バルド様!!」
「誰か! 医者を!!」
周囲の家臣たちが一斉に父へ駆け寄る。
…………。
え?
俺の権能を聞いただけで倒れたの?
《鑑定》。
どんだけハズレなんだよ。
「アーク様!」
甲冑を着た兵士が俺へ駆け寄ってくる。
「お館様を医務室へお運びします!」
「アーク様もご一緒に!」
「あ、ああ……」
俺は言われるがまま、その場を後にした。
前世の記憶が戻った。
異世界に転生していた。
魔法がある。
俺は領主の息子。
そして、神から権能まで授かった。
その名も――
《鑑定》。
「…………」
情報が多すぎる。
とりあえず。
一つだけ分かったことがある。
どうやら俺の二度目の人生は――
かなり面倒なことになりそうだ。




