第13話 魔力残滓①
お仕事の関係上、手つかずだったんですがやっと投稿できました
セバスとの稽古を終えた俺は、街の鍛冶屋へ向かっていた。
「ねぇ、セバス! 刀あるかな!?」
「ほっほっほ。どうでしょうな」
セバスは立派なカイゼル髭を撫でながら答える。
「何せ東方の国のもの。私にも分かりませんな」
「あるといいなぁ……」
刀。
前世では日本に住んでいたこともあって、やっぱり憧れがある。
それに、この世界の鍛冶師が作った刀がどんなものになるのかも気になる。
そんなことを考えながら歩いていると、街の外れまでやってきた。
「ここですかな」
セバスが足を止める。
目の前には、一軒の鍛冶屋があった。
正確には、ここへ来る途中にも鍛冶屋はいくつかあった。
だが、セバスがわざわざ連れてきたのがこの店だ。
何か理由があるんだろうか?
店へ入ると、鉄と煤の匂いが鼻をつく。
壁には剣や槍。
奥には大きな炉も見える。
だが――
人がいない。
「…………?」
店、やってるのか?
そう思った瞬間。
「ガレス!」
セバスが店の奥へ向かって叫んだ。
「生きてるか!?」
「…………」
え?
俺は思わずセバスを見る。
誰?
普段の落ち着いたセバスからは想像もできない声だった。
すると――
「うっるせぇぇな!! 寝てんだよ!!」
奥から怒鳴り声が返ってきた。
「…………」
鍛冶屋で寝るなよ。
ドスドスと重い足音が近づいてくる。
「んだよ、セバスかよ!」
そして――
「ん?」
奥から出てきた男が俺を見る。
「なんだ、てめぇ。ガキなんか連れて――」
でかい。
第一印象はそれだった。
大柄な身体。
太い腕。
分厚い胸板。
ゴリラみたいな逞しい男だ。
鍛冶仕事だけでこんな身体になるのか?
「…………」
それにしても。
なんだ、このセバスの態度。
普段のセバスからは考えられない。
もしかして――
友人なのか?
俺も前世では、出口やおっちゃんと話す時はこんな感じだったっけな。
「…………懐かしいな」
「アーク様?」
「なんでもない」
セバスは男へ向き直る。
「生きていましたか。元気そうで何よりです」
「おう。見りゃ分かんだろ」
「それは結構」
そしてセバスは――
ニヤリ。
ものすごく意地悪そうな顔をした。
「ところでガレス」
「あ?」
「こちらの方をガキ呼ばわりしましたな?」
「…………?」
「この方は、アーク・フォン・ヴェイン様ですぞ」
「…………」
ガレスの動きが止まった。
「我がヴェイン家の御嫡男をガキ呼ばわりとは……」
セバスが顎に手を当てる。
「不敬罪で打首ですかな?」
「…………え?」
ガレスの顔が青ざめた。
「あっ!? えっ!?」
さっきまでの威勢はどこへやら。
「こ、これはこれはアーク坊ちゃまでしたか!!」
ガレスが勢いよく頭を下げる。
「大変失礼いたしました!!」
「知らなかったとはいえ、とんでもねぇことを……!」
そして――
「打首だけは勘弁してくだせぇ!!」
「…………」
うわ。
出た。
この雰囲気。
俺、これ苦手なんだよなぁ。
別に偉そうにしたいわけじゃないし。
そもそも、ガキなのは事実だ。
「大丈夫だよ!」
「へ?」
「そんなことで不敬罪になんてしないから!」
「頭上げて!」
「ほ、本当ですかい?」
「本当、本当」
ガレスがおそるおそる顔を上げる。
額には大量の汗が浮かんでいた。
…………。
セバス。
絶対わざとだろ。
「それより、セバス」
「はい」
「この人は?」
「ああ。紹介がまだでしたな」
セバスがガレスを指す。
「彼はガレス」
「元ヴェイン領騎士団長にして、現在は鍛冶師」
「そして――」
一拍置いて。
「私の腐れ縁です」
「誰が腐れ縁だ!!」
ガレスが即座に噛みついた。
元騎士団長!?
どうりで逞しいわけだ。
「俺とセバスは騎士だった頃の同期なんだ……です」
「…………」
「昔っから、事あるごとにぶつかり合って喧嘩してたんだ……ですよ」
「…………」
無理してる。
めちゃくちゃ無理して敬語を使ってる。
「…………ガレスさん」
「あ、はい! なんでしょうか坊ちゃま!」
「いつも通りの喋り方で大丈夫ですよ」
「…………いいのか?」
「うん」
次の瞬間。
ガレスの顔が明るくなった。
「おお! さすが坊ちゃま!」
バシン!
ガレスが自分の膝を叩く。
「心が広い!」
そしてセバスを見る。
「セバス! てめぇとは大違いだな!」
「…………」
セバスがニッコリと笑う。
「ぎゃあぎゃあと喧しいですね」
「打首になれば少しは静かになったでしょうに」
「だからお前は一言余計なんだよ!」
「…………」
なんというか。
セバス。
めちゃくちゃ楽しそうだな。
普段、俺や父上といる時には絶対に見せない顔だ。
「さて」
セバスが咳払いをする。
「今回ここへ来たのは、貴方を揶揄いに来た――というのもありますが」
「あるのかよ!」
「アーク様が武器をご覧になりたいと仰いましたので」
セバスはわざとらしく言葉を区切る。
「仕・方・な・く!」
「貴方の店へ連れてきて差し上げました」
「だから一言余計なんだよ!!」
「…………」
仲がいいのか。
悪いのか。
お互い喧嘩を売って。
売られたら必ず買って。
ああ言えばこう言う。
…………。
犬猿の仲?
いや。
多分。
こういうのを腐れ縁っていうんだろうな。
「で?」
ガレスが俺を見る。
「アーク坊ちゃまは、どんな武器を探してるんだ?」
待ってました!
「刀ってありますか!?」
「…………刀?」
ガレスの表情が変わった。
さっきまでのふざけた様子が消える。
「…………」
腕を組み、難しい顔をする。
「アーク坊ちゃま。悪い」
「ない?」
「ああ」
ガレスが首を横に振る。
「刀は東方の国で作られてる武器だ」
「俺も話くらいなら聞いたことがある」
「ただ――」
ガレスが壁に掛けられた剣を見る。
「製法は向こうじゃ秘匿されてるらしくてな」
「俺はおろか、この辺りで作り方を知ってる鍛冶師なんて聞いたことがねぇ」
「…………そっか」
ないのか。
ちょっと期待してたんだけどな。
「そんな顔すんなって!」
ガレスが豪快に笑う。
「刀はねぇが、他の武器なら揃ってるぞ!」
「本当?」
「おう!」
ガレスは自慢げに店の中を指差す。
「剣、槍、斧、短剣」
「一通り作ってる」
「元騎士団長だからな。作り方だけじゃなく、使い方も分かる」
なるほど。
鍛冶師として武器を作っているだけじゃない。
実際に戦場で武器を使っていた人間でもあるのか。
それなら――
かなり面白そうだ。
「なんだったら、武器について俺が教えてやるよ!」
「いいの?」
「おう!」
刀がなかったのは残念だ。
でも。
この世界の武器について知るには、これ以上ない相手かもしれない。
「お願いします!」
「任せとけ!」
ガレスが豪快に笑った。
こうして俺は――
元騎士団長の鍛冶師、ガレスから。
この世界の武器について教えてもらうことになった。




