第14話 魔力残滓②
「さてと! 説明する前に、工房裏の試し切り場に行くか!」
ガレスはそう言うと、俺たちを工房の裏へ連れていった。
そこには藁束や木の的。
そして、使い古された鎧がいくつも並べられていた。
「まずはこいつからだな!」
ガレスは壁に掛かっていた一本の剣を手に取った。
「兵士が使うとすれば、まずはこれだ」
幅広の両刃剣。
修練場で兵士たちが使っているものと、ほとんど同じ形だ。
「両刃だから斬る、突く、防ぐ。なんでもござれだ!」
そう言いながら、ガレスは剣を構える。
そして――
「ふんっ!」
刹那。
ドゴォォォン!!
「うわっ!?」
轟音と共に、試し切り用の鎧が吹き飛んだ。
地面を転がった鎧は、胸の部分が大きくひしゃげている。
「まあ、鎧を着た相手だと綺麗に斬るってより、こうやって叩きつけるような使い方も多いな」
「…………」
いや。
参考にならない。
完全にガレスの馬鹿力でひしゃげてるだろ、これ。
「お次はこいつだ!」
ガレスは剣を戻し、今度は一本の槍を手に取った。
「実際のところ、集団戦じゃこっちの方が重要だな」
「剣より?」
「あったりめぇだ!」
ガレスは即答した。
「好き好んで敵に近づく馬鹿がいるか!」
「届くなら長ぇ方がいい!」
「…………たしかに」
身も蓋もないが、ど正論だ。
「それにな」
ガレスは槍を軽く回す。
「こいつは武器の心得がなくても、突くだけならそれなりに扱える」
「何十人、何百人で並んで一斉に突き出しゃ、それだけでも脅威になる」
なるほど。
個人の強さだけじゃなく、兵士たちが集団で使うことを考えれば、剣より槍の方が都合がいいのか。
「それに――」
ガレスが槍を構えた。
「突きの威力は強力だ!」
ドゴォォォン!!
「…………」
鎧の胸に。
大穴が空いた。
「どうだ!」
「…………すごいですね」
いや。
それは槍がすごいんじゃなくて。
ガレスがすごいんじゃないのか?
「後は、よく見るのはこいつだな」
続いてガレスが取り出したのは――
弓。
「弓か」
「おう」
ガレスは慣れた手つきで矢をつがえる。
「こいつは遠くから敵を攻撃できる。それだけでも十分強ぇんだが、使い方も色々ある」
「例えば、敵の後ろにいる魔法使いを狙いたい時なんかは――」
ガレスが斜め上へ弓を向ける。
「こうやって高く撃つ」
「ああ」
これは分かる。
矢を山なりに飛ばして、遠くの敵を狙う。
前世でやっていたシミュレーションゲームでもよく見た光景だ。
「何十人、何百人で一斉に撃てば、敵の頭上から矢を降らせることもできる」
うん。
ここまでは分かる。
「そして――」
ガレスが弓を構えた。
ギリギリギリ――。
弦が引き絞られる。
「弓は――」
パァァン!!
矢が放たれた。
次の瞬間。
ガンッ!!
一体目。
ガンッ!!
二体目。
三体目。
四体目。
「…………は?」
そして――
五体目の鎧に矢が突き刺さった。
「貫通力にも優れる!」
「…………」
いやいやいやいや。
おかしい!!
剣はまだ分かる。
槍も百歩譲って分かる。
ガレスが化け物みたいな腕力をしてるんだろう。
でも。
矢が鎧を四枚も貫通するのはおかしいだろ!!
弓を引く力が強ければ、多少は威力も上がる。
それくらい俺にだって分かる。
だが、これはそんな次元じゃない。
「…………」
何かある。
流石に武器そのものに、何か仕掛けがあるんじゃないのか?
こういう時こそ――
《鑑定》。
俺はガレスが持っている弓へ意識を向けた。
《トレントの弓》
《トレントの木材から作られた弓》
《魔力残滓:残り十二秒》
「…………ん?」
魔力残滓?
なんだ、それ。
聞いたことがない。
俺は急いで、鎧に刺さった矢へ目を向ける。
《鑑定》。
《鉄鏃の矢》
《鉄製の鏃を用いた矢》
《魔力残滓:残り四秒》
「…………」
こっちにもある。
しかも――
減ってる?
俺が見ている間にも。
三秒。
二秒。
一秒。
そして。
《魔力残滓》の表示が消えた。
「…………なんだこれ」
間違いない。
さっき矢を撃った時に何かが起きている。
なら――
「ガレスさん」
「あ?」
「ガレスさんって、魔法使えます?」
「…………はぁ?」
ガレスが眉間に皺を寄せる。
「俺が、ちんたら魔法唱えてるようなヒョロヒョロ野郎に見えるか?」
「いや、そこまでは言ってないけど……」
「魔法なんざ、生まれてこのかた一度も使ったことねぇよ」
魔法は使えない。
じゃあ――
権能か?
俺はガレスへ意識を向ける。
《鑑定》。
《名前:ガレス》
《年齢:69歳》
《種族:人間》
《権能:なし》
《特記事項:武器の申し子/剣帝/槍鬼/弓鬼》
「…………は?」
権能――なし。
じゃあ、さっきの《魔力残滓》は何なんだ?
…………。
いや。
その前に。
剣帝。
槍鬼。
弓鬼。
「…………」
こいつも大概化け物じゃねぇか!!
セバスが《剣鬼》だったはずだ。
それより一つ上の《剣帝》。
しかも槍と弓まで。
元騎士団長って聞いた時点で強いとは思ってたけど。
強すぎるだろ!
「…………」
待てよ。
魔法は使えない。
権能もない。
それなのに。
ガレスが使った武器には《魔力残滓》が残った。
ということは――
武器の熟練度が上がると、無意識に魔力が宿るのか?
それとも。
熟練者は、知らないうちに身体の魔力を武器へ流している?
あるいは――
もっと別の何か?
「…………分からん」
疑問は増えるばかりだ。
「アーク様?」
セバスの声で我に返る。
見ると、セバスが自慢のカイゼル髭を撫でながら、心配そうにこちらを見ていた。
「先ほどから黙り込んでおられますが、何かありましたかな?」
「…………」
どうする?
話してみるか?
いや。
まだ俺自身、何を見ているのか分かっていない。
もう少し調べてからでも遅くない。
「いや! なんでもないよ!」
「左様ですか?」
「うん!」
俺はガレスを見る。
「ガレスさん、ありがとう!」
「おうよ!」
ガレスが豪快に笑う。
「武器のことなら、またなんでも聞いてくれ!」
「はい!」
その時。
「そういえば、ガレス」
セバスが何かを思い出したように口を開いた。
「あ?」
「アーク様に鍛錬用の木剣を作ってくれませんか?」
「木剣?」
「ええ」
「今使っている兵士用のものでは、アーク様には少々長いようでしてな」
「なるほどな」
ガレスが俺の身体を見る。
「確かに坊ちゃまには、ちとでけぇか」
「お安い御用よ!」
そう言うと、ガレスは工房へ戻っていった。
◇◇◇
数分後。
「お待たせ!」
ガレスが一本の木剣を持って戻ってきた。
「こんなんでどうだ?」
「おお!」
受け取ってみる。
軽い。
何度か振ってみる。
「すごい! 振りやすい!」
長さも重さもちょうどいい。
「ありがとうございます!」
「いいってことよ!」
ガレスは嬉しそうに笑った。
「それと――」
「ん?」
「坊ちゃまには、こいつもやろう!」
ガレスが背中に隠していた、もう一本の木剣を差し出した。
「…………!」
片刃。
そして、僅かに反った刀身。
不格好ではある。
だが――
どう見ても。
刀だ。
「本物を見たことがねぇからな」
ガレスが頭を掻く。
「噂で聞いた話と、俺の想像だけで作ったもんだから不格好だが」
「よかったら持ってけ」
「…………」
俺は木刀を受け取る。
握る。
構えてみる。
「…………おおおお」
いい。
めちゃくちゃいい。
「ガレスさん!!」
「お、おう?」
「ありがとうございます!!!!」
「そんなに喜ぶか?」
「喜ぶよ!!」
やはり。
身体が五歳だからなのか。
それとも。
男という生き物は何歳になっても変わらないのか。
分からない。
ただ一つ言える。
ジャパニーズ・カタナ。
日本刀には――
ロマンがある。
いくつになっても。
こればっかりは、止められない。
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