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おいたが過ぎましてよ



 殿下に好いてもらっていると考え違いをしていたのだわ。


 (わたくし)の『皇城にいる碧色の蛇が好き』という、渾身のアシストを受けても、好きだと仰ってくださるわけでもなく、ご自分がその碧色の蛇だと打ち明けてくださることもございません。


 それどころか、このところの殿下は、上目遣いにチラチラこちらを伺うばかり。


 あの薔薇の花束の言葉は、本当にお茶が美味しかったというだけだったのでしょうか。


 これ以上、(わたくし)に出来ることがあるのでしょうか。哀しくなって参りました。


 あの白媛様は、殿下に婚約を迫られるほど愛されてらっしゃいましたのに。


 (わたくし)は、何の言葉も戴けず、信頼もしていただけないまま、殿下と婚姻を迎えるのでしょうか。


 東屋に向かう気になれません。

 本日のお茶席は、具合が悪くなったことにして、帰ってしまいましょうか。



「何、しょぼくれた顔してんの?」


「また貴方ですの」


 また第3皇子が現れましたわ。


「酷い言い草だなぁ、助けてやろうと思ったのに」


「どういう意味ですの?」


「ああ、ちょうどいい。ちょっと待ってろ」


「はい?!」


「任せろ」


 木に登ったかと思うと、第3皇子が青い大蛇になって戻って参りました。


 なんて大きな蛇かしら。

 第3皇子の蛇の姿を拝見するのは初めてね。

 まさに、ザ・大蛇ですわ。

 緑華殿下の仰る通り、強くて美しい蛇ですのね。



「ちょっと? どうして(わたくし)の腰に巻きつくの?」

 


 第3皇子(大蛇)の意味不明な行動に戸惑っておりますと、緑華殿下が息を切らして走って来られました。



「来るのが遅いと思ったら! 何してるんですか!」



 前半を(わたくし)に、後半を第3皇子(大蛇)に向けて仰ったかと思うと、ぐいぐいと第3皇子(大蛇)を引っ張ります。


 第3皇子(大蛇)は素直に連れられていきました。



『どういうつもりですか! 彼女は俺の婚約者ですよ! いくら兄上でも許しません! 翠鈴は私のものです!』


 離れたおつもりなのでしょうが、声が大きいので、丸聞こえですわ。

 殿下のお怒りが嬉しくてたまりません。



 ようやく戻って来られたわ?!

 なぜ緑華殿下は蛇になっておられますの?

 意味がわかりません

 ここは殿下の告白の流れではなくて?


 碧色の蛇(緑華殿下)は、(わたくし)をじっとご覧になったまま、するすると首に巻きつき、頭を胸に寄せました。


 殿下、大胆ですのね。顔が熱いですわ


 碧色の蛇(緑華殿下)は、そんな(わたくし)の顔をもう一度ご覧になって、


  カプッツ


 (わたくし)の胸を噛んだ!?


   破廉恥ですわ!


 そう申し上げようとしたのですが、何故か、身体が痺れて動けませんの。身体も熱くなってまいりましたわ。いったい、どういうことですの?






 目が覚めますと、見知らぬ寝台の上。


 身体も怠くて────!? は、裸ですわ?!


 何がなにやら、身体は怠くて、腰は痛いですし、下腹部には強い違和感もあります。

 おまけに、赤い花のような跡が身体中に散っていて、シーツには紅い染みがくっきりと。



 …………明らかに事後、ですわよね?


 うっすらぼんやり記憶もございますし。



 最後に見たのは、(わたくし)の胸を噛む殿下。そして、この、殿下のものと思われる寝室。どう考えてもお相手は緑華殿下ですわね。


 はっきり覚えていないのは残念ですけれど、初めてのお相手が殿下だということが嬉しいですし、初めてを殿下に差し上げられたのも、幸せですわ。


 胸が高鳴って痛いくらいですの。

 ですが、その殿下はどちらに?


 どなたかの怒声が聞こえます。


 『あんたっていう人は! いったいどういうおつもりですか! 婚約しているといっても、翠鈴様はお嫁入り前のご令嬢なのですよ? 公爵様に何と申し開きなさるおつもりですか! いくら翠鈴様がお好きだからと言って、甘淫毒(伴侶の媚薬)まで盛るなんて! 』



 側近の方に殿下が説教されているようですわ。

 まあ、側近の方の仰ることも当然ですので、仕方ございません。


 ですが、『甘淫毒(伴侶の媚薬)』とは?

 殿下が胸をお噛みになったとき、身体が痺れて熱くなったのは、その毒のせいなのかしら?




 閉じていた扉が細く開いて、その隙間から、碧色の蛇がするすると出て参ります。


 そのまま寝台にあがった蛇は、瞬く間に殿下に姿を変えました。



「……もうわかっていると思うけど、俺は蛇なんだ。君が庭園で見たという碧色の蛇は俺なんだ。今まで、言わずにいて申し訳ない」


「殿下…」


「おまけに、蛇の姿の兄上が、君と一緒にいたのにカッとして、甘淫毒(伴侶の媚薬)まで使って君を抱いた」


「……」


「こんなことをして、言う資格はないのは分かっている。でもどうか、わかって欲しいんだ。

翠鈴、君が好きだ! 俺は蛇だけど、蛇の俺でも良ければ……俺の、妻になって貰えないだろうか?」



 一息に、謝罪と求婚をされた殿下はスッと視線を逸らされ俯きました。


 念願の愛と秘密の告白に、求婚までしていただいて感動で涙が止まりません。



「殿下、やっと打ち明けてくださいましたのね。(わたくし)、存じておりましたの。殿下が碧色の蛇だと存じておりましたの。殿下が私を信じて打ち明けてくださるのを、ずっと待っておりましたのよ?

私も、心からお慕いしておりますの。

ですから殿下、蛇でもいいかなんて仰らないで?

私は蛇になる殿下が好きなのです。

蛇の殿下も人の殿下も、私の愛しい殿下ですわ。

どうか、私を殿下の妻にしてくださいませ」



 涙でいっぱいの殿下が頷いてくださいました。


「殿下、お慕いしております」


「翠鈴!」



 ええ?!殿下、(わたくし)、初めてでしたのよ? お待ちになって? 殿下? ああ、聞こえてらっしゃらないわ



「殿下………………あっ、んっ」





 次に目覚めたときには日が暮れていて、殿下に見つめられておりましたの。





 

『甘淫毒(伴侶の媚薬)』は、蛇の皇族男性が、営みの際、伴侶に痛みを拾わず、ただ快感だけを感じて貰う為のものです。

 牙から出す媚薬ですが、伴侶の為のものなので、それ以外の者を噛んでも毒しか出ません。

そのため『伴侶の媚薬』と呼ばれています。


お読みいただき、ありがとうございました。

あと、1話かそれくらいで終わります。

どうぞ、お付き合いくださいませ。



※薬の悪用を推奨するものではありません。念のため。

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