湖デート 悶えますわ!
「殿下、殿下! 起きて下さい!」
「う?!」
「う、じゃないですよ、起きて下さい、翆鈴様がお見えです!」
「何だと!」
ガバッと跳ね起きたかと思ったら、
しおしお とベッドに戻っていく主。
「翆鈴も…蛇が嫌いって……」
昨日の会話を思い出したのだろう。
溜め息をついて着替えを投げる。
「そんなことおっしゃってません! あんな態度とっても、会いに来て下さったじゃないですか! とっとと着替えて下さい!」
「待たせたな」
「いえ、私が早く来すぎたのですから」
「そうだな! して、約束もないのに何用だ?」
今日もお口が、可愛らしいですわね
「はい。今日は一日暖かいと聞きましたので、湖までご一緒したいとお誘いに参りましたの」
「湖?」
「ええ。湖畔に日向ぼっこにピッタリの場所がございましてよ」
「…い、いや、遠慮しておく」
「ぽかぽかでお昼寝に最適でしてよ」
「しかし、眠ってしまうと、少しな」
「あら? 何かいけないことでも?」
「……」
「私、お昼も用意させてますの」
「しかしな」
「お仕事に差し障りがありまして?」
「いや、そんなことはない……が」
「私、父に、殿下と湖に行くと言って参りましたの。すぐに帰りましたら叱られてしまいますわ」
ぐすっ、ともうひと押し。
「わ、わかった! 湖だな、湖!」
チョロくていらっしゃる。お可愛らしいこと。
「なかなかの景色ではないか」
馬車の中で、チラチラ此方を伺いながら、寝たふりをしていらした殿下も、ご機嫌なご様子に。
人のお姿のままなので、寝たふりだとバレておりますのに。吹き出しそうでしたわ
「殿下、こちらに」
「う、うむ」
「お食事はお気に召しまして?」
「ああ…あれは旨かった……」
「ようございました」
「………」
「殿下?」
ぽかぽかの陽気と満腹で、眠くなってしまわれたのでしょう、みるみるお姿が変わっていかれます。
「何て、お美しい蛇なのでしょう!」
頬擦りされた令嬢のお気持ちが分かりますわ
慌てて飛んでいらっしゃった殿下の側近の方には、構わないと手で合図して下がらせます。
あとで、口止めしなくてはいけませんわね
殿下が! 私の膝で! ああ、至福ですわ!
少し眩しいのでしょう、蛇の殿下が、私の膝に乗り、日傘の陰に入られました。
悶えておりますと何やらメモが差し出されます。
『殿下にはご存知だと言わない方がいいですか』
抜けてても、皇子の側近ですわね。
メモにすぐに頷いて見せますと、何やらニヤッと笑って親指を立ててきました。
協力者ゲットですわ。でも、この方、主を騙して構わないのかしら? 変な主従ですこと。
膝の殿下がモゾモゾしだしたので、慌てて目を瞑ります。
殿下が膝をおりる感触がしました。
ごそごそするので服を着ておられるようです。
少し見たい気も……淑女の誇りが邪魔ですわね。
「う、ごほん………翆鈴嬢?」
起きたふりも大変です。
「申し訳ございません。眠っておりましたわ」
「そ、そうか。よく眠っていたのだな?」
「はい。お誘いしておきながら………」
「まったくだ! いや、いい。この日和だからな」
(殿下、シャツの後ろが出ておりましてよ)
慌てて着られたのでしょう、シャツの乱れに気がつかない殿下に、また少し好きになりました。
( いつ、私に打ち明けて下さるのかしら?
少し切ないですわね )
予定通り、殿下の蛇のお姿が拝見出来たので、満足して馬車に戻ります。
道中、また寝たふりの殿下に、笑いを堪えるのが苦行でしたわ。
お読みいただき、ありがとうございます。
緑華殿下の一人称は、公的「私」、私的「俺」となっています。




