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“元”暗殺者の転生譚!  作者: 浅野陽翔
夏休み、帰郷
112/217

悪ふざけ

 翌日の、昼頃のこと。

 ユウシアは、王城の屋根の上に寝そべって、ただただボーッと――俗に言う、日向ぼっこをしていた。

 スキルというのは、本当に便利なもので。【隠密】か【偽装】をしっかり使っておけば、こんなところにいてもまず見つかることはないし、まして問題になることなんてあり得ない。ユウシアは、入学前ここで暮らしていた頃から、この場所がお気に入りだった。

 ――ただ、一つ問題があるとすれば、

「なんだかんだで、丁度いい季節に来れないんだよなぁ……。今は夏だから暑いし、前は冬から春にかけてだから肌寒いし……暖かい時に来たいなぁ。――ん?」

 ため息混じりに独りごちたユウシア。下から何か聞き覚えのある声が聞こえた気がして、起き上がり城門の方を覗き込む。

(【五感強化】)

 強化したのは、視力と聴力。声の発生源を捉えるよりも先に再びそれが聞こえ、疑念が確信に変わる。

(あれは……)

 すぐに姿を発見したユウシアは、城の裏手から飛び降りた。


++++++++++


「ごきげんよう、リル様、フィル様。それに、ユウシアさんとアヤさんも」

「「ひっ」」

 丁寧なその挨拶に、ユウシアとアヤの口から小さく声が漏れる。鋭く睨まれ、もう一度声が。

「お久しぶりです、殿下方。……そして、初めましてだな、ユウシア君、アヤ君。ラムル・マクロードだ。娘が世話になっている」

 ユウシア達の前で軽く会釈するように頭を下げたのは、ラムル・マクロード侯爵。ジルタ王国内有数の有力貴族で、リリアナの父親だ。

 ……そう。つまり、彼の隣にいるのは――先程ユウシア達にとても丁寧な挨拶をしたのは、“娘”――リリアナで。

(何よ。あたしがお嬢様っぽい振る舞いをしているのがそんなにおかしい!?)

 という意思が、ビシビシ伝わってくる。とりあえず首を横に振っておくユウシア。ソンナコトハナイヨー、と小さく呟いておくのも忘れない。……片言なのは、ツッコんではいけないのだ。

「――特にユウシア君、君のことはよく聞いている。娘からね」

 と、ラムルの話はまだ終わっていなかったようで、そんなことを。

「はい?」

「いや何。昨日帰って来てからというもの、君の話ばかりなんだ。……いや、入学前からだったかな。入学試験を満点で合格した男の子がいる、というものから始まり――」

「お、おおおお父様!? な、何をっ!」

 焦るリリアナ。しかしラムルは止まらない。

「――そういえば、武闘大会の時助けてもらった、とも言っていたな。……照れたように、頬を染めながら」

「にゃぁっ!?」

 ついに涙目にすらなり始めたリリアナ。ラムルは苦笑して彼女の頭をポンポンと叩く。

「では、私は陛下と話をして来る。リリアナはここで皆といるといい」

 そう言って部屋を出ていくラムル。彼がいなくなった後の室内は、どこかいたたまれない雰囲気に。

(居づらい……とてつもなく居づらい……!)

 ユウシアは、なんとなくリリアナから目を逸らしながらそんなことを考える。

 と。

「……さいよ」

 リリアナから、小さく声が。

「……こっち、見なさいよ」

 自分のことを指しているような気がして、ゆっくりと視線をリリアナに戻すユウシア。彼女は、顔を真っ赤にして涙目になりながらユウシアを見ていた。

「……ユウシア」

「はい、なんでしょう」

「忘れなさい」

「え?」

「今の! お父様が言ったこと全部! 忘れなさい! いいわね!?」

「ハイッ!」

 反射的に返事をしてしまうユウシア。怖いんだから仕方ない。

「……ところでリリアナは、なんでここに来たの?」

 話題を変えようと思ったのか、アヤがリリアナにそう問いかける。軽く咳払いをするとそれに答えるリリアナ。

「詳しくは知らないわ。お父様が国王陛下に呼び出されたとかで……あたしは、ついでに皆に挨拶したいからって連れて来られたの」

「お父様が……?」

 リリアナの説明に首を傾げるリル。ラムルが呼び出される理由に心当たりがなかったのだ。

「フィル、何か知っていますか?」

「いや、私も何も。今朝の父上の様子から見るに、何か悪いことがあった訳ではないと思うが……そういえば、父上は姉上とユウシアをしきりに気にしていたな」

「ん? そうだった?」

「……ユウシアは知らないだろうな。ずっと姉上の方しか見ていなかったし」

「いやっ……そんな、ことは……」

「そうか? 私にはずーっと見つめ合っていたように見えたぞ。なぁ、アヤ?」

「え? いつものことじゃん」

「「…………」」

 当然のように言うアヤに、ユウシアとリルが思わず黙り込む。

「……ユウシアとリル様は、父親を前にしても変わらないのね……」

「変わらない。何一つとして変わらない」

「っていうか、周りの目を気にしなくていい分もっと悪化してるよね」

「……そんなこと、ないと思うんだけどなぁ……」

「そこまでくっついているつもりもないのですが……」

「「「本人達が無自覚なだけ」」」

「「うぐっ……」」

 三人に全く同じ言葉を返され呻く二人。

「っていうか、リル、まだくっつき足りないの?」

 リルの発言から、呆れたように言うアヤ。ユウシアはそれに――

「リル……もっと俺といたいなんて」

「あっれ変な方向に解釈されたぞぉ?」

「ユウシア様……出来ることなら、いつでも、いつまでも……」

「さすがに、これはわざとやっていると思うんだ、私は」

「ユウシア、ちょっと悪ふざけが過ぎるわよね」

「あ、バレた?」

 面白がるように笑うユウシア。

「ユウシア様……わたくしは、本気ですわよ?」

 しかしリルは、真剣な表情でそんなことを言い放つ。

「リル……俺も、同じ気持ちだよ」

「ユウシア様……」

「リル……」

「ほっといてどっか行こうよ」

「「賛成」」

 この時、部屋を出る三人の少女は揃って死んだ魚のような目をしていたと、その場に通りかかった使用人は語る。……気になって部屋に近づいてみたところ、途端に口の中が甘くなる謎の症状に見舞われた、とも。

 イチャイチャタグ付けたからってふざけ過ぎた自覚はある。直す気はない。

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