悪ふざけ
翌日の、昼頃のこと。
ユウシアは、王城の屋根の上に寝そべって、ただただボーッと――俗に言う、日向ぼっこをしていた。
スキルというのは、本当に便利なもので。【隠密】か【偽装】をしっかり使っておけば、こんなところにいてもまず見つかることはないし、まして問題になることなんてあり得ない。ユウシアは、入学前ここで暮らしていた頃から、この場所がお気に入りだった。
――ただ、一つ問題があるとすれば、
「なんだかんだで、丁度いい季節に来れないんだよなぁ……。今は夏だから暑いし、前は冬から春にかけてだから肌寒いし……暖かい時に来たいなぁ。――ん?」
ため息混じりに独りごちたユウシア。下から何か聞き覚えのある声が聞こえた気がして、起き上がり城門の方を覗き込む。
(【五感強化】)
強化したのは、視力と聴力。声の発生源を捉えるよりも先に再びそれが聞こえ、疑念が確信に変わる。
(あれは……)
すぐに姿を発見したユウシアは、城の裏手から飛び降りた。
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「ごきげんよう、リル様、フィル様。それに、ユウシアさんとアヤさんも」
「「ひっ」」
丁寧なその挨拶に、ユウシアとアヤの口から小さく声が漏れる。鋭く睨まれ、もう一度声が。
「お久しぶりです、殿下方。……そして、初めましてだな、ユウシア君、アヤ君。ラムル・マクロードだ。娘が世話になっている」
ユウシア達の前で軽く会釈するように頭を下げたのは、ラムル・マクロード侯爵。ジルタ王国内有数の有力貴族で、リリアナの父親だ。
……そう。つまり、彼の隣にいるのは――先程ユウシア達にとても丁寧な挨拶をしたのは、“娘”――リリアナで。
(何よ。あたしがお嬢様っぽい振る舞いをしているのがそんなにおかしい!?)
という意思が、ビシビシ伝わってくる。とりあえず首を横に振っておくユウシア。ソンナコトハナイヨー、と小さく呟いておくのも忘れない。……片言なのは、ツッコんではいけないのだ。
「――特にユウシア君、君のことはよく聞いている。娘からね」
と、ラムルの話はまだ終わっていなかったようで、そんなことを。
「はい?」
「いや何。昨日帰って来てからというもの、君の話ばかりなんだ。……いや、入学前からだったかな。入学試験を満点で合格した男の子がいる、というものから始まり――」
「お、おおおお父様!? な、何をっ!」
焦るリリアナ。しかしラムルは止まらない。
「――そういえば、武闘大会の時助けてもらった、とも言っていたな。……照れたように、頬を染めながら」
「にゃぁっ!?」
ついに涙目にすらなり始めたリリアナ。ラムルは苦笑して彼女の頭をポンポンと叩く。
「では、私は陛下と話をして来る。リリアナはここで皆といるといい」
そう言って部屋を出ていくラムル。彼がいなくなった後の室内は、どこかいたたまれない雰囲気に。
(居づらい……とてつもなく居づらい……!)
ユウシアは、なんとなくリリアナから目を逸らしながらそんなことを考える。
と。
「……さいよ」
リリアナから、小さく声が。
「……こっち、見なさいよ」
自分のことを指しているような気がして、ゆっくりと視線をリリアナに戻すユウシア。彼女は、顔を真っ赤にして涙目になりながらユウシアを見ていた。
「……ユウシア」
「はい、なんでしょう」
「忘れなさい」
「え?」
「今の! お父様が言ったこと全部! 忘れなさい! いいわね!?」
「ハイッ!」
反射的に返事をしてしまうユウシア。怖いんだから仕方ない。
「……ところでリリアナは、なんでここに来たの?」
話題を変えようと思ったのか、アヤがリリアナにそう問いかける。軽く咳払いをするとそれに答えるリリアナ。
「詳しくは知らないわ。お父様が国王陛下に呼び出されたとかで……あたしは、ついでに皆に挨拶したいからって連れて来られたの」
「お父様が……?」
リリアナの説明に首を傾げるリル。ラムルが呼び出される理由に心当たりがなかったのだ。
「フィル、何か知っていますか?」
「いや、私も何も。今朝の父上の様子から見るに、何か悪いことがあった訳ではないと思うが……そういえば、父上は姉上とユウシアをしきりに気にしていたな」
「ん? そうだった?」
「……ユウシアは知らないだろうな。ずっと姉上の方しか見ていなかったし」
「いやっ……そんな、ことは……」
「そうか? 私にはずーっと見つめ合っていたように見えたぞ。なぁ、アヤ?」
「え? いつものことじゃん」
「「…………」」
当然のように言うアヤに、ユウシアとリルが思わず黙り込む。
「……ユウシアとリル様は、父親を前にしても変わらないのね……」
「変わらない。何一つとして変わらない」
「っていうか、周りの目を気にしなくていい分もっと悪化してるよね」
「……そんなこと、ないと思うんだけどなぁ……」
「そこまでくっついているつもりもないのですが……」
「「「本人達が無自覚なだけ」」」
「「うぐっ……」」
三人に全く同じ言葉を返され呻く二人。
「っていうか、リル、まだくっつき足りないの?」
リルの発言から、呆れたように言うアヤ。ユウシアはそれに――
「リル……もっと俺といたいなんて」
「あっれ変な方向に解釈されたぞぉ?」
「ユウシア様……出来ることなら、いつでも、いつまでも……」
「さすがに、これはわざとやっていると思うんだ、私は」
「ユウシア、ちょっと悪ふざけが過ぎるわよね」
「あ、バレた?」
面白がるように笑うユウシア。
「ユウシア様……私は、本気ですわよ?」
しかしリルは、真剣な表情でそんなことを言い放つ。
「リル……俺も、同じ気持ちだよ」
「ユウシア様……」
「リル……」
「ほっといてどっか行こうよ」
「「賛成」」
この時、部屋を出る三人の少女は揃って死んだ魚のような目をしていたと、その場に通りかかった使用人は語る。……気になって部屋に近づいてみたところ、途端に口の中が甘くなる謎の症状に見舞われた、とも。
イチャイチャタグ付けたからってふざけ過ぎた自覚はある。直す気はない。




