許可
タグに「イチャイチャ」と「バカップル」を追加してみた。……だって、そうじゃない?
――時は流れ(と言う程経ってもいないが)、一学期最終日。
教室に入ってきたヴェルムは、さっさと教壇に立つと口を開く。
「はい、という訳で、明日から夏休みですね! 面倒な注意事項とかは騎士を志す皆さんなら問題ないと信じることにして、充実した休暇を過ごせるようにとか月並みなセリフを言ってみるヴェルム先生です! 通知表だとか宿題だとかは全部ここに置いておくので、各自持って帰ること! 僕は今すぐにでも休みたいので! さらばッ!」
気づけば、ヴェルムは姿を消していた。
『……えー……』
クラスメイト全員から、全く同時に、そんな声が漏れる。
と、そこへ。
「学長!!」
ガラッ! と大きな音を立てて開いた扉の先にいたのは、この学校の副学校長であるクレア・ハイビス。眼鏡のよく似合う、秘書、といったような、落ち着いた雰囲気の女性だ。……今のように、息を切らして、柳眉を逆立ててさえいなければ。
「あれは……学長、また丸投げして……!」
クレアは、机の上に置かれた通知表や宿題の山を見て、更に語気を強める。普通に怖い。
「……失礼。学長はどこへ?」
一つ咳払いをして問いかけてくるクレア。クラスメイト達の視線は、必然ユウシアの方へ。なんとなくクラスのリーダー的な存在になっていたりもするし、全力で移動するヴェルムを追えたとするならユウシア以外あり得ないからだ。
もちろん、と言ってはなんだが、一応ヴェルムの行き先を気配で追えていたユウシア。大体の方向でよければ、と前置きしてから答える。
「まるで逃げるように、図書館の方に行きましたよ」
「ありがとうございますッ!!」
消えたと錯覚しそうな速度で走り出すクレア。日々ヴェルムを追いかけて鍛えられた脚力は彼女の自慢だ。……あまり自慢したくない理由ではあるが。
「先生……仕事、ほっぽり出したんだろうなぁ。『生徒達は休みなのに僕は仕事なんておかしい!』とか言って」
呆れたように言うユウシアに、リルとフィルが苦笑する。確かに言いそうだ、と、ヴェルムと付き合いがそこそこ長い二人は思ったのだ。……そして、実際図星だったりする。今頃早くもクレアに発見され焦って逃げているヴェルムは、人知れずくしゃみをしていた。
「それじゃ、さっさと配っちゃおうか。……どさくさに紛れて宿題他の人に押し付けたりは禁止だからな」
ユウシアの言葉に、やべっ、みたいな顔をする者が数名。とりあえず彼らはマークしておくユウシア。
「終わったら……まぁ、帰っちゃっても平気でしょ」
どうせ担任は消えちゃったんだし、なんて考えつつ、ボソッと呟くユウシア。それを耳聡く捉えたクラスメイトから歓声が上がり、机の上の物は一瞬にして消えてなくなった。……ついでに、教室から人影もほとんど消えてなくなった。
「……現金だなぁ、皆」
いつものメンバーだけが残った教室内で、ユウシアはまたも呟いた。
++++++++++
夏休み初日。ユウシアとアヤは、リル、フィルと共に王城に戻ってきていた。ユウシアとしては、ここで二、三日過ごした後、森のログハウスへと帰省する予定である。
「おぉ! 娘達よ、よくぞ戻って来た!!」
とりあえず挨拶を、ということで訪れた国王の自室。そこで待ち構えていたガイルが、リルとフィルの二人に飛びかからんばかりの勢いで抱き着こうとして――あっさり躱された。
「へぶっ」
ガイルは、勢いのままに壁と熱い口づけを交わした。
「お久しぶりです、お父様」
「三ヶ月程度だがな。……父上、無事か?」
「う、うむ……」
顔をさすりながら振り返るガイル。心なしか、鼻頭が赤くなっている。……物理的な要因で。
「ユウシア君に、アヤ君も。よくぞ戻って来てくれた」
「いえ……俺達にとっては、ここも家のようなものですから」
ユウシアの言葉に頷くアヤ。
「そうかそうか。うむ、その通りだな」
ガイルも、嬉しそうに頷きを返す。
と、そんな彼に、ユウシアは真剣な表情で口を開く。
「……あの、へいっ……義父さん、一つ頼みがあるんですが……」
陛下、と言いかけて言い直したせいで台無しだが。
「頼み?」
「はい。俺はもう少ししたら帰省する予定なんですが……その時に、リルも連れて行く許可を頂けないかと」
「ユウシア様……!」
祝勝会の時にした約束を覚えていてくれたのか、と、嬉しそうな表情でユウシアを見るリル。ユウシアはそんな彼女の頭に手を乗せ、
「俺が誘ったことなんだから、覚えてない訳がないじゃないか。リルとの約束なら尚更」
「ふふっ……もう、ユウシア様ったら」
突如現れた桃色空間。
「……姉上とユウシアのこれは、父親を前にしても顕在なのか……」
「まして、その父親は王様なのにね……」
「……フィルよ。この二人は、いつもこんな感じなのか?」
「大体」
「Oh……」
ガイル、何故かネイティブな発音に。
「「――ハッ」」
ただただ嬉しそうに、楽しそうに見つめ合っていた二人だったが、やっと周囲の状況に気がつき、全く同時に軽く咳払い。そんなことでも笑みが溢れる。……どうやら、まだ微妙に終わっていなかったらしい。
「……ユウシア君。続きを」
「あ。……えぇと。それで、俺の実家なんですが……少し特殊な場所にありまして」
「特殊な場所?」
「はい。ジルタ王国最南端の大森林――“魔の森”です」
「「「なっ……!」」」
ユウシアの口から飛び出たその名に、ガイル、リル、フィルの三人が驚きの声を漏らす。リルも、ユウシアの実家が危険な場所にあるとは聞いていたが、まさかそれがこの国で最も危険な――いや、世界中で見ても五本の指に入る危険度を誇る場所だとは聞かされていなかったのだ。
「……ユウシア君。それは、本気で言っているんだな? 私の愛娘を、よりにもよって死と隣り合わせの僻地へと連れて行くと、そう?」
「はい。もちろん家自体は安全な場所に建っていますし、彼女の身の安全は俺が保証します。命に代えても、傷一つ付けさせはしません」
「……それが、出来ると?」
「出来ます。伊達に十五年間あの森で過ごしてはいません」
「……そうか」
決然とした表情で断言するユウシアに、ガイルは考える。ユウシアが向かおうとしているのは、危険な魔獣の蔓延る魔境。しかし、彼の実力はガイルも武闘大会の優勝という形で知っている。それに彼は、リルを護り抜くと、そう言った。ならば――
「……分かった、信じよう。しかし、命に代えて、というのは無しだ。必ず二人一緒に、傷一つない状態で帰ってくること」
「分かりました、約束します」
「よろしい。ならば、リルを連れて行くことを許可しよう」
「お父様……! ありがとうございます!」
リルの笑顔を見て、ガイルは思った。
(……許可しなかったらしなかったで、リルが怖い)
ユウシアが絡むと、自分の娘は豹変しそうな気がするガイルであった。




