魔王様によるいぐざみねーしょん
お久しぶりです。
相変わらず伏線を回収しつつまた散りばめてます。
「魔王様、あの人間とも魔族とも判断のつかない男は何者ですか?」
クマからの言葉に、現実逃避から強制的に帰還する結果となったことを恨む。筋違い?そんな馬鹿な。
そーですよねー、若鷹は一応国の王子的存在だから、保護しなきゃならんのよね。なんて面倒なことをしてくれたのだこの猛禽類は。もう、猛禽類は総じて厄介ごとしか持ってこないのか。とある貴族の坊ちゃんしかり。その場合ヤギも忘れてはならない。
「魔王の息子らしいよ」
「魔王……って、今どの国にも年頃の王子はいないが」
「あ、魔王=国王なのね」
それにしても、私が知らない国―――黒竜国の存在は、なんだったんだろう。
黒靄の言葉で気になることといえば沢山あったけども、私の国に関してはたしか
(「僕の国を超えた先には、新たな大陸があることをお互い知ってるよ。知らないのは、月竜国だけ」)
(「正解。ぼくら魔王しか知らないんだよ。
本来は、魔王の引き継ぎ…もしくは、他国の魔王から知らされるんだ。
これは人間側も同じで、『王』のみが知っているんだ。・・・・・・まあ、僕らにとってみればいい迷惑だよ」)
とか言ってたっけ。
月竜国だけ知らされていない、ってことは月竜国の住民には認知されると困るってことだよね。
そう考えれば良いかもしれないけど、『知らないのは月龍国だけ』と『魔王しか知らない』が矛盾している気がする。
『知らないのは月竜国の魔王だけ』と言われたのならまだ納得できる。
でも、彼は国民単位での認知を挙げた。
だとすると、私に知られてはいけないことがある?
部下は何かを隠しているってことか。
そもそも、門番という存在自体が理解できていないのだから、彼の言葉を鵜呑みにすることはよくないよね。でも、かといって得た情報をすべて切り捨てるというのも良くないことだ。
それに、この世界が二重構造だというのもよくわからない。
黒靄の件はおいおい考えるとして、目下の部下の懸念を晴らすことにする。
「ほかに質問は?」
「ありすぎて、まず何を上げていいかわからないのだが」
間髪いれずに返ってくるテディの答えに、なるほど質問はないということかと判断してナディへと話を降る。そうそう、ようやっとクマのことをテディと言えるようになったんだよね。
「じゃあナディからどうぞ」
「この男も何故我が国にいるのですか?」
「ついてきちゃったんだから仕方がないでしょ。はい、次アリーちゃん」
状況を整理しようと唸っている大蛇に声をかけると、予想外だったのか纏まりのない言葉を絞り出すように言葉を発する。
「色男が増えるのはいいんだけど、魔王の息子ってどういうことなの…。
竜の方々とは異質な存在のように感じるんだけど」
「竜の方々……ああ、奴らのことね」
「魔王様、そんなこと言ってるとバチが当たるわよ」
「人に仕事押し付けて惰眠を貪ってやがる爬虫類には礼儀なんていらないと思うの、わたし」
「惰眠じゃないわよ!あの方々の眠りはこの世界に必要なんだから、っていうか爬虫類じゃないわよ恐れ多いわね本当に!」
誰か黙らせて頂戴、とヒステリックに叫ぶアリーちゃんには申し訳ないが、私は一応最高権力者であるからそれは無理だと思う。
「不敬罪で財産全て没収して国への強制無償奉仕活動ただし無期限、を行わされてもいいならやっていいけど」
ちなみにもうすぐ100名を突破しますが、そんな栄えある役目に就きたいか君たち?
一斉にふるふると首を横に振る兵士たちに、私は満足げにうなずく。余は満足じゃ。
「そもそも、こちらに来て日数の経っていない私が君ら以上に知ってるわけないでしょ。
ラキアス―――そこの男は黒竜国の息子であることは決定事項。文句があったとしても受け付けないから」
私と白靄の契約内容にケチがつけられるもんなら、報復を覚悟なさい。
にこり、と聴衆を見回して発言すると、全員口をつぐんで顔をそらす。
私を責める君たちだけど、どう考えても情報の隠蔽を行っているあなたたちは悪くないわけ?なんだかイライラしてきた。君主としてあるまじき姿だから我慢しなくては、とこらえているとナディからまたひとつ質問を向けられる。
「それで魔王様、どうして他国で術を使うことになったんですか?」
「自己満足の結果」
「……その自己満足に至る経緯をお尋ねしているのですが」
なんだよ冗談も通じないのか。
「あの結末を認めたくなかったから。
私は『気まぐれ』。非難される謂れはない。
魔王は忠実にならなければならない。私はそれが『衝動』なだけ。
それを求めたのはアナタたちで、私の性質を変えたら困るのもアナタたち。それに、
干渉者は権利を行使し続けなければ、その存在意義はなくなるでしょう?」
あと、私を利用しようとした奴らに対する意趣返しも含んでいる。老鷹と亀王子め、ざまあみやがれ!
「じゃあ、あの男の性質が変化したのはどうしてですか」
ナディアスはその場にいたから、若鷹の変化は目の前で見てるから質問してみたってことかな。
でも、私の言葉に何の反応も示さないってところが、ずるいよね。
「うーんとね、旅をしている間にその変化は起こってたんだよ。
私の記憶では城にいた時、彼の容姿は王子と同レベルだってジェームズの親友君から聞いたの。それが、魔王との対峙になった時にジェームズは『王子が見劣りするレベル。でも団長と競ってる感じ』って。
これって、ラキアスの容貌が変化したってことでしょ。
…とまあ、どちらにしろ白靄が子供を産むことは決まってたんだよね。
その父親が国王か黒靄の違いだけ。」
結局、私の視界においては若鷹の容貌は変化がなかったけど………多分これは無意識のうちに周囲に溶け込ませようとした結果だろうか。人として生きていくのなら、身近な人間に似た姿を取ろうっていう。それがたまたま老鷹であっただけで。
もしくは、私に優しい『人物判別』によるもののどちらか。
ネタばらしに似た内容を聞いたナディアスは「騙したんですか」と呆れた表情をする。
騙す?心外だなあ。
「どうしてよ。前国王の子を産んでないでしょ。」
私は本当のことを言ってないだけで、嘘はついてない。
それでもナディアスは腑に落ちない表情を崩さない。
はっきり言って、私が彼女の過去に介入すること自体、無料奉仕のようなものだからとやかく言われたくないのだけれども。
これは私と彼女だけの問題であって、いくらナディアスが同情しようとも口をはさむ権限はないんじゃないかな、あの子の恋人じゃあるまいし。その恋人さんも私に対して何も言わなかったわけだしさ。
それでも縋るナディアスが面倒くs……ウザったかったので、この話はおしまい、とばかりに言葉を投げかけることにする。
「まあ、ね。君が私に対して物申したいことがいろいろあると言ったって、
もう過ぎ去ったことなんだからあれこれ言ったってしょうがないでしょう?」
「魔王様!」
「あーうるさいうるさい。
レオン、ラキアス行こう」
「はっ」
私がそう促すと、レオンは無言で尾をくゆらせて右脇に、ラキアスは返事とともに距離を縮め、半歩下がった左斜め後ろに付き従った。何だこの独裁者スタイル。
「よろしかったので?」
「まあめんどくさいからいいかなあって。これ以上私に負担を押し付けないでほしいんだよね」
『(主は不器用だな……だからこそ、従いたいと思うのだが)』
「本当に」
「レオンなんて言ったの?」
クスリ、と笑うだけで答えないラキアスにローキックをお見舞いした。
痛さを感じないかのようににこやかな表情を浮かべるラキアスに、私はなんとも言えない気持ちで話しかける。
「あのさ」
「なんでしょう」
「怒ってない?」
「怒る?なぜでしょうか」
「だって、私はあなたの親を勝手に操作して変えてしまったから。信じていた血縁関係を壊してしまったでしょ」
私のしたことは、若鷹にとって全く褒められたことではない。
ナディとの会話で、ラキアスがいつ糾弾してくるのか待っていたけど、肩透かしを食らった。
「私は、望まれない出自だと思っていたんです」
ラキアスは唐突に語り始める。
「表では前国王が父と言われておりましたが、母の不義により生まれた存在だと。
私が物心ついたときにはすでに母は亡くなっておりましたから、どちらを愛していたのか知りませんでしたし、母の故郷も知りませんでした。」
ずいぶん重い話題だ。
居心地悪く身じろぎした私に気づかず、若鷹は右翼を広げる。窓から指す光が当たり、細やかな輝きを放って視線を奪う。綺麗だな、とすんなりと思えた。
「でも、貴女のおかげで自分の出自を誇ることが出来るようになれたんです。
私が貴女にできることは、あの銀髪野郎よりは少ないでしょう」
誰だナディアスのことか。お前ら本当に仲が悪いな。
「あの時私に手を差し伸べてくれた貴女にできる、唯一のことです。
貴女のおかげで私は、貴女を支える術を手に入れることができました。
私は、それがうれしい」
なんとも気まずいことだ。
まるでプロポーズされているようで、むず痒い。
私がしたことをその被害を被ったであろう存在に是も非もなく肯定されることが、なんだか心苦しく感じる。
(馬鹿な男)
かろうじて心中で吐露した言葉は、不思議と苛立ちを立たせない。
本当に、変な男。理解ができない若鷹の思考は、きっと頭を開いたとしても謎のままなのだろう。
でもそのラキアスの存在は、この国では少しだけ心地よかった。
今回の明らかな伏線はアリーちゃんの言葉ですね。もろ分かりデスヨネー。
若鷹の方は、小話的な番外編で明らかになります。