第10話:集団戦闘の盲点
「来やがったな……中堅ギルド『鋼鉄の誓い』の本隊だ。人数はおよそ五十」
鉱山の最南端エリア、狭い坑道の入口を見下ろす高台で、ハックが双眼鏡を握りしめながら身を縮こまらせた。
先陣を切るのは、重厚な全身鎧を纏った熟練のタンク陣。その後ろには整然と並ぶ魔法職と弓兵。初心者ギルドのような無計画な突撃ではない。前衛が壁を作り、後衛が火力を叩き込む――正攻法の「集団戦闘」の陣形だ。
「レン、あいつらマジだ……! 装備のランクも上の世代だし、連携も段違いだよ! 正面からぶつかったら一瞬で押し潰される!」
「当たり前だ。正面から殴り合うつもりなんて最初からない」
俺は冷静に『鋼鉄の誓い』の進軍ルートを見つめた。
人数の多い中規模ギルドには、集団だからこそ生じる最大の弱点がある。それは「指揮のタイムラグ」と「攻撃判定の密着」だ。
「アイアン、狭窄ポイントへ前進。ハックに作らせた『大型煙幕弾』を坑道内で爆発させろ。視界を奪う」
「了解(了解)」
「アーチェ、フィア。俺の合図で『ヘイト撹乱』の連動を開始する。敵の指示役を混乱させるぞ」
――ズザーーーッ!
坑道の奥から猛烈な黒煙が吹き出し、進軍していた『鋼鉄の誓い』の前衛陣を呑み込んだ。
「くそっ、視界が! 慌てるな、前衛は盾を構えてラインを維持しろ! 魔法職は範囲攻撃準備!」
敵の指揮官が叫ぶ。だが、それこそが狙いだった。
視界が遮られた状態で大集団が狭いエリアに固まると、プレイヤー同士の当たり判定が邪魔をして「即座に陣形を変えられない」というシステムの仕様が発動する。
「フィア、今だ。あえて敵前衛の真ん中に『小回復』を飛ばせ」
「はいっ!」
フィアが魔法を放つ。煙の中で敵前衛の一人が予期せぬ回復を受け、システム上のヘイト計算が狂い始める。さらにそこへ、アーチェが暗闇の中から正確無比な狙撃を叩き込んだ。
チュドッ! チュドッ!
「ぐわっ!? どこから撃たれた!? 後衛か!?」
「違う、前衛の陰からだ! いや、ヘイトがバグってる! 誰を攻撃すればいいんだ!?」
集団が大きければ大きいほど、一箇所のミスから生じる混乱は全体へ伝染する。
指示が届かず、味方同士で押し合い、自慢の数の暴力はただの「身動きが取れない人の山」へと変貌していった。
「よし……集団の機能が麻痺したな。アイアン、ハメ行程(フェーズ2)に入るぞ」
混乱する五十人の大軍を前に、俺たちの『オフライン軍隊』は一切の無駄なく、完璧な狩りを開始した。




