第11話:完封のロジック
「落ち着け! 前衛は散開しろ! 魔法職、テキトーに撃つな! 味方に当たるぞ!」
黒煙の中で敵指揮官の怒号が響く。だが、狭い坑道で五十人もの大集団が一度混乱に陥れば、そう簡単に統制など戻らない。
「散開……ね。狭窄地形での集団散開は、衝突判定のスタックを引き起こす。一番やっちゃいけない指示だ」
俺は冷静にその失策を観察していた。
プレイヤー同士が重なり合い、身動きが取れなくなった前衛の頭上を越えて、アーチェの矢が容赦なく降り注ぐ。
チュドッ! チュドッ! チュドッ!
「ぎゃあああっ!? どこから……っ!?」
「後衛! ヒーラーは何やってんだ! 回復しろ!」
「無茶言わないでください! ターゲットラインが遮られてて魔法が通らないんです!」
大所帯ギルドの強みである「手厚い回復ライン」は、味方の身体が障害物となって完全に遮断されていた。
そこへ、アイアンが重厚な足音を立てて踏み込む。
――ガキィィィン!
「ガハッ……!? なんだこの衝撃……パリィの反射ダメージか!?」
身動きの取れない敵前衛に対し、アイアンはただ「攻撃を100%パリィし続ける壁」として立ちはだかる。
狭い坑道では、アイアン一人を突破しない限り奥へは進めない。そしてそのアイアンのHPは、フィアの完璧なディレイ管理ポーション回復によって1ミリたりとも減らなかった。
「MPディレイ、よし……ポーションの待ち時間、よし。フィア、完璧なタイミングだ」
「はいっ! レンさんの指示通りなら、絶対に誰も傷つけさせません!」
完全な詰み(チェックメイト)。
人数が多いからこそ身動きが取れず、ステータスが高いからこそパリィの反射ダメージで自滅していく。
『鋼鉄の誓い』の誇る集団戦闘は、システムの仕様を突き詰めた俺たちの前で、ただの巨大な肉の壁へと成り下がっていた。
「ひ、ひぃぃ……撤退だ! 撤退しろーーッ!」
指揮官の悲鳴のような撤退命令が響く。
だが、俺は冷ややかな眼差しでダガーを引き抜いた。
「逃がすわけないだろ。お前たちの高ランク装備とドロップ資材は……俺たちの軍隊をさらに強くするための『補給物資』なんだからな」




