第12話:破綻した絶対
「退却だ! 後衛から順に引け! 装備を捨ててでも逃げ切れ!」
「……チッ、甘いな」
俺はダガーを構え、潰れかけた敵陣の側面へ踏み込もうとした。
だがその瞬間――グラりと足元の視界が歪む。
「レン、危ない……ッ!?」
ハックの悲鳴と同時に、坑道の奥から猛烈な爆炎と爆風が吹き荒れた。
『鋼鉄の誓い』の指揮官が、撤退ラインを確保するために自爆覚悟で持ち込んでいた「広域破壊スクロール」をヤケクソで起動したのだ。
ドガァァァァンッ!
崩落する岩石が坑道を完全に埋め尽くす。
アイアンが即座に俺の前へ割り込み、大楯で土砂を受け止めたため俺たちにダメージはない。……だが、煙が晴れた時には、敵の姿も、落ちるはずだった大量の高ランク装備も、すべて土砂の向こう側へと消え去っていた。
「逃げられた……? 資材の回収も、不可能か」
計算外だった。
捨て身の広域破壊アイテムという、コスト度外視の力押し。統制を失った集団だからこそ起きた「予測不能の暴走」が、俺の完璧なハメ工程を土壇場で破綻させたのだ。
「レン、大丈夫!? 怪我はない!?」
フィアが青ざめた顔で駆け寄ってくる。
アーチェも悔しそうに弓を握りしめ、土砂の山を睨みつけていた。
「ごめんね、レン……わたしがもっと早く矢を射込めてたら……」
「いや、アーチェのせいじゃない。俺の読みが甘かった」
結果として防衛には成功した。だが、戦果はゼロ。
『鋼鉄の誓い』が生き残りを連れて逃げ帰ったことで、最南端エリアの情勢は最悪の形で塗り替わる。
「……レン、地上から広域マップの通知が来たよ」
ハックが端末を見つめながら、声を震わせた。
「『無名機関』が中堅ギルドを退けた噂が広まって……『あそこには本物の激レア資源がある』って誤解された。天狼を含めた大手ギルドの本隊が、鉱山地帯全体を完全封鎖するために動き出した……!」
逃げられたことで「莫大な戦利品」が得られず、軍隊の急激な強化はストップ。
それどころか、戦線は一気に肥大化し、最南端エリアは大手強豪たちが血眼で群がる超高リスク地帯へと変貌してしまった。
ここに留まって戦い続けるのは、ただの泥沼だ。
「……撤退するぞ」
「え……!? ここを捨てるの……?」
驚くハックに対し、俺は冷徹に、そして静かに告げた。
「固執するのは愚者のやることだ。資材が得られない以上、この場所の価値は消えた。……『無名機関』はこれより鉱山エリアから全面的に撤収する」
一度頂点から降り、影へと潜る。
完璧だった戦術が崩れた敗北を噛み締めながら、俺たちは築き上げた拠点を捨て、新たな潜伏先へと舵を切った。




