第26話:破滅の果てと、絶対の死
壊滅の音は、あまりにも唐突で、そして残酷に響いた。
「フィア、右からの単発スキルを――」
「言わせないよ!」
レンの叫びを遮るように、天狼のアサシンが影から滑り込んだ。極限まで研ぎ澄まされた間合い管理。フィアの回復の詠唱判定が完了するわずか数フレーム前、その頸椎へと無慈悲な刃が突き刺さる。
「あ……れん……さ……っ」
フィアの瞳から光が消え、無数の光の粒子となって砕け散った。絶対的な回復ラインの崩壊。それが、盤面すべての終わりを告げる引き金だった。
「フィア! ……くそっ、クレイ! 前前線を固定――」
だが、命令が届くよりも速く、天狼の魔法職が放つ高威力の極大魔法がクレイの胸部コアを直撃した。いくら環境操作に特化していようと、生身の精鋭たちが緻密な連携で繰り出す火力の集中砲火には耐えきれない。
ズドォォォォンッ!
「魔導コア、破壊判定……ッ! レン、逃げ――」
ハックの悲鳴も途中で途絶えた。過熱したトラップの暴走と敵の範囲攻撃に巻き込まれ、ハックの小さな身体が光となって消滅する。
「させない……っ! ボクが、レンを守る……!」
梁の上からアーチェが狂ったように矢を連射する。だが、敵の前衛はボイスチャットでミリ秒単位のカバーに入り、盾で矢を弾きながら距離を詰めた。一瞬の隙。次の瞬間、アーチェの身体は大剣の旋風に呑み込まれ、空中で散った。
「アーチェ……!!」
「ガキィィィンッ!!」
最後に立ちはだかったのはアイアンだった。
ボロボロになりながらも大盾を掲げ、レンの前に肉の壁として仁王立ちする。だが、100%パリィの硬直時間を知り尽くした天狼のトップアタッカーたちが、連続攻撃の合間に正確なガード不能スキルを叩き込んだ。
パリィの判定が途切れ、巨大な大盾が粉々に砕け散る。
「アイアン……っ!」
無言のまま、アイアンは最後に一度だけレンを庇うように庇い倒れ、そのまま眩い光となって消えていった。
静寂が、狭い地下水道の最奥を包み込む。
足元には何も残っていない。絶対防壁も、精密な狙撃も、無限の補給も、自作の環境操作も。レンが前世の知識と最適化で組み上げた『オフライン軍隊』は、熟練のゲーマーたちが誇る狂おしいまでのプレイスキルと結束の前に、全滅した。
「終わりだ、オフライン軍隊」
天狼のリーダーが、冷酷な眼光とともに大剣を振りかぶる。
逃げ場のない行き止まり。HPはすでに瀕死(赤ゲージ)。ダガーを握るレンの指が、悔しさと絶望で強く震えた。
「俺の……最適化が……敗けた……のか……?」
ザシュッ―――。
冷たい刃がレンの胸元を深く穿ち抜く。
視界が急速に赤く染まり、あらゆるステータス表示が「0」へと落ちていく。浮遊感とともに、意識が底なしの暗闇へと引きずり込まれていく。
前世の知識を駆使し、無敵を誇った『オフライン軍隊』の男は。
熟練ゲーマーたちの圧倒的な壁の前に、完璧な敗北を喫し、静かに息絶えたのだった。




