第25話:限界の領域と肉体の壁
「……チッ、動きを完全に予測されているだと!?」
レンの冷酷な呟きが、激しい衝撃音の中に掻き消された。
クレイが放った広域の粘着波。システム上の「判定」としては完璧なはずの空間制圧だった。しかし、最前線に躍り出た『天狼』の精鋭たちは、判定の瞬間に極めてシビアな『緊急回避フレーム』を合わせ、わずかなグラフィックの隙間をすり抜けて距離を詰めてきた。
「無駄だ! BotのAIがいくら最適化されていようが、行動パターン(アルゴリズム)の限界はある!」
天狼のトップアタッカーが放つ流麗な連続斬撃。その一撃一撃は、システムの理論値を追及したアイアンの「100%パリィ」の僅かな硬直時間(硬直フレーム)を完璧に把握し、判定が途切れるコンマ数秒の隙間に正確に叩き込まれていく。
「くっ……!? アイアンの防御ラインが押し込まれている……!?」
ハックの悲鳴が暗闇に響く。
アーチェが梁の上から間髪入れずに放つ牽制の矢すら、彼らはボイスチャットによるミリ秒単位の音声連携で瞬時に「盾役のカバー」と「回避の軌道」を分担し、最小限のダメージで受け流してみせた。
「フィア! バフの再展開とデバフの重ね掛けだ!」
「は、はいっ! ……でも、相手の動きが速すぎて、ターゲット指定が……っ!」
フィアがポーションを煽り、絶え間なくバフを維持しようとするが、天狼の魔法職たちはシステムの「ヘイトログ」を逆算し、フィアが回復魔法を打つ寸前の『詠唱判定のラグ』を狙って位置を特定、間接的な衝撃波で詠唱を妨害し続ける。
どれだけ攻略本の知識を叩き込もうと、Botはあらかじめ組み込まれた最適解の命令に従って動くシステムの一部に過ぎない。
対する『天狼』は、幾多の死線をくぐり抜けてきた生身のゲーマーたちだ。アドリブで状況を判断し、仲間のコンマ一秒の動きに合わせて完璧なカバーに入り、システム上の「不可能」を己の反射神経とプレイスキルで力ずくで突破してくる。
「ハック! あまりの全トラップを起動! この部屋全体を地獄に変えろ!」
クレイの魔導コアが限界を超えて熱を帯び、過剰な密度のトラップが狭い部屋を埋め尽くす。
だが、天狼の勢いは止まらない。彼らは一人がトラップの犠牲になれば、その瞬間に生じる判定の「安全時間」を即座に共有し、犠牲を最小限に抑えながら着実に足元を詰めてきた。
逃げ場のない狭小な最奥エリア。出入口は完全に封鎖され、退路など最初から存在しない。
そして静かに、敗北は近づいていった、、、、、、、、、




