第15話:闇に潜む捕食者
「おい、本当にこんな汚え地下水道に『無名機関』の隠れ家があるのかよ?」
「ああ。『鋼鉄の誓い』が鉱山で取りこぼした激レア素材の保管庫がここにあるって噂だ。あいつらが指を咥えて指を指してる間に、俺たち『血塗られた鉄鎚』が横取りしてやるのさ」
湿った石造りの通路に、ジャラジャラと重苦しい金属音が響く。
侵入してきたのは、中堅ギルド『血塗られた鉄鎚』の探索部隊・三十名。レベルと火力を誇示する横暴な連中であり、暗闇の危険性すら意に介さず、ズカズカと奥へ踏み込んできていた。
「レン、奴らだよ。噂を嗅ぎつけて真っ先に突っ込んできた」
天井の梁の陰、暗闇に身を潜めたハックが、通信ポーション越しに小声で報告を入れる。
「『鋼鉄の誓い』の失敗を踏まえ、今回は逃走ルートの遮断を最優先にする。ハック、隠し扉のロックを起動。退路を完全に塞げ」
「了解! ……カチッとな」
遠くでガチャン、と重い石扉が落ちる音が響いた。
「ん? なんだ今の音は……!? おい、後ろを確かめろ!」
警戒した敵が引き返そうとするが、すでに遅い。
彼らが足を踏み入れているのは、ハックが改修を重ねた『完全分断エリア』だ。水路に仕掛けられた粘土質の塗料が、松明の火に反応して一気に黒煙を巻き上げる。
「ゴホッ、ガハッ!? 毒煙か!? ヒーラー、解毒だ!」
「だ、ダメです! 状態異常じゃなくてただの『視界阻害オブジェクト』扱いだから、解毒魔法が対象を認識しません!」
広域破壊アイテムで強引に突破された前回の反省は、すでに織り込み済みだ。
今回は爆発物を使われても地下水道の構造そのものが衝撃を逃がし、逃走用の通路だけを物理的に崩落させる二重の罠を張ってある。
「アーチェ、後衛の詠唱を全てキャンセルさせろ。アイアン、煙の中から圧力をかけろ」
チュドッ! チュドッ! チュドッ!
「ぎゃあああっ! 暗闇から矢が……! どこだ、どこにいる!?」
「前が見えねぇ! 爆発物を投げろ! 壁ごと吹き飛ばして――」
「言っただろ、学習しない奴らだって」
暗闇の中から、レンが冷ややかにダガーを閃かせる。
爆薬を取り出そうとした敵の手首を正確に穿ち、アイテムを水路へと叩き落とした。
「この暗闇と狭小空間じゃ、お前たちの自慢の火力も、自爆覚悟の力押しも……何一つ届かない」
一度の撤退を経て、より冷酷に、より完璧に研ぎ澄まされた『オフライン軍隊』のハメ盤面。
静かな地下水道が、中堅ギルドの悲鳴で埋め尽くされていく。




