↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
52/145

行き詰まりの仙台藩

「それでは、評議を始める」


仙台藩の重臣たちが集まる大広間。

議事を取り仕切るのは安倍清右衛門。商人出身ながら藩財政を預かる男である。

議題は例年と変わらない。


『膨れ上がった借財をどう返すか』

重臣たちは口々に意見を述べるが、結論は毎年同じだった。


『江戸への米売り』

仙台藩最大の収入源であり、唯一の延命策。


やがて評議は終わり、重臣たちは満足そうに席を立つ。

清右衛門はため息をついた。


(このままでは、立ち行かぬ)

結局、今年も誰も新しい策を出さなかった。

江戸では「変わらぬ政策こそ至高」とまで言われているらしい。


まったくそんな言葉、犬にでも食わせてしまえばいい。

変わらねば立ち行かぬ。それが見えておるのに、誰も舵を切ろうとせぬ。


苦虫をつぶしたような表情を浮かべながら、清右衛門は筆を執る。


膨大な米の管理。

江戸への輸送。

借財の算段。


奉行たちがさばききれなかった仕事は、自分が背負うことになる。

すべてが清右衛門の肩にのしかかっていく。

その時、小姓が耳打ちした。


「林家の方がお見えです」

清右衛門は眉をひそめる。


(林家……)

その名を聞いて真っ先に浮かぶのは林喜二郎だった。

藩医の家に生まれながら、商売と産業で成果を上げ続ける異端児。


清右衛門は以前から彼を高く評価していた。

特に米沢との商圏を築いた手腕は、まさに見事だった。


(あの喜二郎が、儂に用だと…?)

清右衛門は、何度か喜二郎を取り込もうとしたことがある。


だが喜二郎はどんなに良い条件を提示しても、首を縦に振らなかった。

おそらく、藩の管理下に入ることを嫌ったのだろう。


それでもよかった。


才能ある者が藩内にいるだけで価値はある。

とくに喜二郎が関わった堰の周辺は、仙台有数の穀倉地帯へ変わっていた。


あの実績だけでも、並の役人では到底及ばぬ。

その林家が、自分に面会を求めてきた。

しかも、この時期に。


(何かあるな……)

清右衛門は客間を用意させた。


本来ならここまでする必要はない。

だが喜二郎の話なら聞く価値があった。




清右衛門は、喜二郎を迎える準備を整えた。


彼は質素倹約な人物だと聞く。

ゆえに茶は用意しているが、茶菓子ではなく握り飯を用意した。


これから時間をかけて、じっくりと話し合いたい。

たとえ日をまたぐ話し合いになろうとも構わない。

仕事が積もろうとも、翌日まで眠らずに筆を執ればなんとかなる。


この仙台藩を救う一手となる話し合いになるならば、いくらでも身を削る覚悟だった。

しばらくして襖の向こうに人の気配がした。


「入れ」

小姓が、静かに襖を左右に開く。

頭を下げる人影が三つ。

左右にいるのは男、一人は名主だ。


(なに……?)

だが清右衛門の目を引いたのは中央の人物だった。


身なりの整った武家の娘。

しかし羽織っているのは、女子物ではなく武士がまとう外套だった。



喜二郎ではない、女子だ。

一瞬の失望と困惑を押し込み、清右衛門は言う。


「面を上げよ」

娘は静かに顔を上げた。


「お初にお目にかかります。林喜二郎が姪、お鈴(りん)と申します」

その瞳は驚くほど強かった。

清右衛門は思わず息を呑む。



「本日は叔父に代わり、お話に参りました」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。