行きはよいよい、帰りは恐い
それから数日が過ぎた。
鈴はいつも通り寺子屋へ通い、川沿いの道を通って家へ帰る。
(ちょっと、なんなの。もう)
またいた。
通りの向こうに、菅笠を被った男が一人。
あからさまに姿を見せることはない。ただ、目の端にふとした瞬間、入ってしまうだけだ。
探しているのは「スズ」という人のようだから、自分には関係ないのだが、気になってしまう。
それが連日続くと、身に覚えのない罪で白洲へ引き立てられるような、落ち着かない気分だった。
(父上…ううん、叔父上に相談しよう)
そう思った矢先、鈴は人混みの向こうにも見覚えのある菅笠を見つける。
あの日の菅笠の男と、その一派だった。
男達は無言のまま、近付いては来ない。
ただ遠くから何かの様子を窺っているだけだった。
菅笠の向きが、いつの間にか自分へ揃っていた。
ひょっとして、と思うが、菅笠の視線の向きにいるのが、たまたま自分であるだけだろうか。
背中に冷たい汗が落ちるが、鈴は平静を装って踵を返す。
一歩、二歩。……十歩。
男達が、今度ははっきりと自分をつけているのが分かった。
足を速めると、向こうも早くなる。
足を遅くすると、向こうも離れていく。
(嘘、うそうそうそでしょ…!)
間違いない。
何でかわからないけど、自分が標的となっているようである。
曲がり角を一つ曲がった瞬間、鈴は一目散に走り出した。
振り返ると、もう男達の姿は見えない。
(叔父上! 叔父上ならきっと何とかしてくれる!)
叔父の喜二郎は仙台では有名だ。
何をやっている人なのかは知らないが、喜二郎なら助けてくれるという信頼があった。
喜二郎の家へ続く杉林、鈴は見慣れたその道を全力で駆けた。
誰が自分を追っているのか。何のために探しているのか。
そして、その先に何が待っているのか。鈴はまだ知らない。




