堰の成果と制約
「スズ、お前には色々聞きたいことがあるが、まずは某たちのやってきたことと、その成果から話そう」
「そうだね、お願いします」
鈴は、この3年間で喜二郎たちが進めてきた堰計画の成果を聞く。
喜二郎が順を追って説明する。
まず、良かった点は以下の三つだ。
1.出来上がった堰はいざという時の水源の一つにできること
2.維持は太郎のみで概ね大丈夫であること
3.生活用水(主に飲料)として活用できていること
「作った堰はきれいな水を保つために上流の湧き水から水を貯め、少量を下流の河に戻している」
「ああ、だから水が綺麗だったんだね」
太郎からの説明になかった部分を喜二郎は補足してくれた。
「だが、この堰ができたことで新たな問題や課題が出た」
太郎が言っていた諍いのことだろう。鈴は表情を引き締めて頷いた。
現在の堰ができたことで起こった問題と課題は以下の四つ。
1.小さいため、用途が限られること
2.作るのに時間と金がかかりすぎること
3.農業利用は可能だが、収穫増加による年貢負担が問題となり、他の農民は不満に思っていること
4.飢饉時、堰1つでは足りないこと
「それと、まだ表面化はしていないが、これから起こると思われる問題がある」
「どういうこと?」
「宝暦の大飢饉での免税がそろそろ終わり、通常の年貢に戻ってしまうことだ」
そういえば、宝暦十三年の時はまだ飢饉の爪痕が感じられた。
どうやら大飢饉の影響で、年貢がある程度免除されていたらしい。
「ようやく収穫が安定してきたが、年貢が戻る以上、農民は収穫を増やさねばならない。そこで注目されたのがあの堰だ」
「それは、農民があの水を農業用水として使うつもりってこと?」
「ああ」
しかし、それは喜二郎が断固として阻止したらしい。
堰の水を使えば一時的に収穫量を増やせるが、増やした分だけ年貢として回収されてしまう。
年貢を今の量で維持しつつ、生活の質を落とさず、堰の水を保持し続けるにはどうすればよいか。
「あ、ここで米沢藩が出てくるんだね」
「察しがいいな。その通りだ」
収穫を増やさず生活を維持するには、米の代わりに利益を生む品が必要になる。
仙台藩で賄えないものは、他藩から買い入れればよい。
「だが、そのための商材が手持ちになくてな」
なんと、米沢の商人とすでに渡りをつけているらしい。
しかし売りになる商材がまだないのだという。他藩との取引ができる「何か」が必要とのことだ。
「じゃぁ、売れるものを考えなきゃだね」
「ああ。未来のことも知りたいが、今必要なのはその『何か』だ」
小規模ながらも堰は完成し、安全な飲料水源として機能していた。
一方で、農業利用・資金・税制・規模不足など、多くの問題も浮上している。
特に「収穫量を増やすと年貢が増える」という制度上の問題が大きい。
喜二郎は、単純な増産ではなく、「別の価値」で生き延びる方法を探し始めていた。




