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小さな堰

鈴は名主の家の子供に礼を言い、屋敷を出る。

これから向かう場所は、まず喜二郎か仁八のところがよいだろう。

自分がこの時代に来たことを知らせるべきだ。


「近いのは仁八の家だよね」

この時代の鈴は、まだ実家へ帰れない身だ。一人で近づくわけにもいかない。

そう考え、まずはこの近くの家である仁八のところに行く。




じっとりとした空気に、燦々と照り付ける太陽。

歩くたびに汗がしたたり落ちる。


あたりに満ちる土の匂いからは、生命の息吹が感じられた。

遠くからは涼しげな水の音が響いてくる。


「あ、仁八だ。こんにちはー!」

仁八が畑仕事をしている姿が見えた。

鈴にとっては先ほどぶりだが、仁八にとっては三年ぶりのはずだ。

仁八は驚いた顔をしながらこちらに向かってくる。


「お前さん、今来たのか? また会えるとはな」

「うん、実家の掛け軸を通ったら名主さんの家にいたの。あれからどうなったの?」

鈴が尋ねると、仁八がにっと笑みを浮かべる。


「堰のことだな。おい、太郎!」

仁八は草を毟っていた子供に向かって手を上げる。

太郎は見違えるほど大きくなっていた。子供にしては体格もがっしりしている。

おそらく今の太郎は、三年前の叔父上と同じくらいの年頃だ。しかし、彼の方が年上のような体格である。

無邪気な笑顔は変わらず、鈴に向かって走ってくる。


「お姉さん、ありがとう。オイラ元気になったよ」

あの時痩せて弱っていた子供の姿はそこにはなく、年相応の少年の姿があった。

この笑顔を見ただけで、あの時の選択は間違っていなかったと思える。


「お姉さんは堰を見に来たの?」

うん、と鈴がうなずく。

本音を言えば未来へ戻ると思っていたので、ここに来たのは偶然だ。

だが、あれから三年。堰の結果を見ることができるのであれば、知っておきたい。


「できたの?」

鈴が聞くと、太郎は彼女の腕を引く。


「小さいけどね、でも皆で頑張ったんだよ」

太郎ははしゃいだ様子で鈴を連れていく。




しばらく歩いた先に、小さな堰が見えた。


「すごい、本当に作れたんだ」

たった三年でここまで形にするのは決して楽ではなかっただろう。

何しろあの時は人手はおろか、銭すらほとんどなかったのだから。


「ほら、あそこ!」

感慨にふけっていると、太郎が堰の横にある小さな池を指さす。

近づいてみると、そこには何十匹もの魚が泳いでいた。


「わ、綺麗!」

「すげーだろ! 特にあの赤白のヤツなんか、キジ兄も褒めてくれたんだぜ」

太郎が指さす先に、見事な赤と白の斑の鯉が泳いでいる。

その優雅に泳ぐ姿は、大名の家で飼われている鯉と言われてもおかしくない鮮やかさだった。

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