静かな夏
真田伝説記を抱え、鈴はいつもの川沿いを歩いていた。
ここの川はいつも水が少ない。
今では川底の石が見えるほど浅いようだ。
(昔はもっと深かった気がするのだけれど)
……いや、自分の背が伸びただけだろうか?
まぁ、この夏の寒さでは今年も水遊びは無理そうだ。
ふと空を見上げる。
「あれ?」
どこか静かだった。
仙台の空には普段、鳥の鳴き声が響いている。
気のせいだろうか、今日は妙に少ない気がした。
「静かだなぁ……」
虫の鳴き声も聞こえない。
鳥まで姿を消したようで、町は妙に静かだった。
川辺をしばらく歩くと、子供たちが水をかき分けるように網を動かしていた。
「全然いねぇなぁ」
子供の一人がそうぼやく。どうやら魚を捕っていたらしい。
鈴も川を覗き込む。
たしかに小魚の姿が少ない。去年はもっと見かけた気がする。
「捕りすぎたんじゃない?」
川岸から鈴がそう声をかけると、子供たちは一瞬驚いた顔をする。
しかしすぐに子供たちはニカっと笑って、網を川底から引き揚げた。
「そうかもな!」
名前は知らないが、互いによくここらで見かける、知り合いだ。
子供は網を片付けると、手を振って去っていく。
鈴は手を振り返しながら、家路についた。
水辺の静けさを、誰も気にした様子はない。
家に帰ると、女中が用意してくれた温かい夕餉を食べ、寝る前に真田伝説記を読みふける。
母に「油がもったいないら早く寝なさい」と叱られるギリギリまで紙をめくる手は止まらない。
しばらくすると心地よい微睡みがやって来て、鈴は眠りに落ちていた。
翌朝。
寺子屋に向かう途中、あまりの寒さに息が白くなったことに気が付いた。
「もう夏なんだから、もう少し暖かくなってくれないかなぁ」
暑すぎるのも困りものだが、こう寒くては外に出るのが億劫になってくる。
江戸では寒さを我慢するのが粋らしいが、鈴は生粋の仙台っ子である。寒いのは嫌だ。
この寒さのせいか、虫の音も少ない。
夏になれば、朝から晩まで虫が鳴いているのが普通なのに、今年は静かなものだった。
風の音ばかりが耳に残る。
「今年は変な天気だなぁ」
空はどこか薄暗い。
日差しはあるが、晴れ間は少ない。
まるで冬が近づいているみたいな、そんな空気を感じる。
そんな言いようのない違和感だけが、鈴の胸に残っていた。




