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建前は、建てる前が大事

「見つからないね、水場」

「……ああ」

鈴のその言葉に、喜二郎も肩を落とす。

土地勘のない二人では、やみくもに探すのは効率が悪いようだ。


「やはり某たち二人だけでは無理だ、仁八達の協力を仰ごう」

「うん、そうしよう」

問題は、協力してもらうための報酬だった。


無償で労働してくれる人間など、この世にいない。

喜二郎は握り飯を4つ持ってきていた。

これでどうにか請け負ってもらうしかない。


「叔父上って、いくら持っている?」

「一銭も持っておらん」

まぁ、それはそうだ。

子供に小遣いが与えられるのって、何かを買う時だけだし、鈴も今は無一文だ。


家から持ち出したこの握り飯が頼みの綱と言うわけだ。

農作業で忙しい農民が、たかが握り飯4つで手伝ってくれるかは甚だ疑問だったが。




「いいぞ」

だが、交渉するまでもなく、仁八は二つ返事で頷いた。


「いいの?」

「それが将来のためになるんだろう? 手伝おう」

それに、と仁八は寝息を立てる息子を見る。


「恩もある。息子を助けてもらった礼をまだしてない」

農作業はいいのか、と鈴が尋ねると仁八は「夜やる」と答えた。


「……」

鈴と喜二郎は顔を見合わせ、握り飯を全て渡す。


仁八に申し訳なさすぎた。

きっと彼は今日、ほとんど寝れないだろう。


「ひとまず太郎が食べたという魚がいる場所を教えてくれ」

「この家を出て真っ直ぐの山間だ。すぐ見つかるだろう」

仁八は床に指で簡単な地図を描く。


確かに、そちらは行っていない。

やはり土地勘のある者には敵わないと、鈴は思った。




そんなに遠くないということだったので、鈴と喜二郎は見に行った。

たしかに、魚が泳ぐ水たまりは見つかったが、成果はそれだけだった。

仁八の家に戻ると、太郎が少し回復した様子で起き上がっていた。


「水場ならオイラが知っているよ。明日案内したげる」

だが、仁八が病み上がりの太郎に許可しなかった。

場所だけ教えてもらい、明日喜二郎と鈴だけで見に行くことになった。

帰り際、喜二郎が物憂げな表情を浮かべる。


「水場が見つかるかどうか心配なの?」

まぁ、昨日今日と散々探し回ったのにほとんど成果がない。

太郎のいう水場を見つけられなかったら、もう頼れる情報がない。

鈴はそう思っていたが、喜二郎は「そうじゃない」と首を振る。


「水場を見つけることを心配しているんじゃない。むしろその後のことだ」

どういうこと?と鈴が首をかしげる。


「首尾よく堰に適した土地を見つけられたとしても、藩の許可は下りないかもしれない」

「えっ!」

それは、考えていなかった。


「規模が大きければ藩の許可が要る、はずだ。その理由も示すのが一般的……だと思うが。どうなのだろうか」

「えぇ…私も分かんないよぅ」

「こういうのに詳しいのは父だが、まさか真正面から聞くわけにもいかないしな」

結構あやふやな二人だが、この場合8歳の叔父に知識を求めるのは酷だろう。


むしろ何の知識もない鈴に問題がある。

漢文と数学と歴史はそこそこ得意なのだが、役に立ちそうにない。


「うーん……堰を作るっていうんじゃなくて、別の理由で水たまりを作ったとか。それが気づいたら堰ができていたとか?」

知識がないんだったら、もう思い付きで言うしかない。

下手な鉄砲も数打てば当たることもあるのだ。


「……結果的に堰ができていた、というのは良いかもしれん。説得する方向性に幅ができる」

「あれ? 意外と好感触? だとすると、何を理由にするのがいいかなぁ」

うーん、堰…水…米……魚………サカナ?


「ねぇ、叔父上。まだ、この頃って米沢と繋がりがないんだよね?」

「ああ、それが……いや、なるほど。鯉のことを言っているのか。使えるかもしれない」

米沢藩に献上するための魚。すなわち鯉を育てる名目で堰を作るという作戦である。

最初は小さな池から始め、気が付いたら堰になっていた、という流れだ。


「でも、今度は肝心の鯉の知識を持った人がいないよ?」

「……確かに。許可を求める以上、成果が出ないことには続けられないだろうしな」

鈴と喜二郎は二人で頭を突き合わせるが、妙案は出てこない。




あばら家に戻ると、太郎が少し体調が回復したようで握り飯を頬張っていた。

「鯉ならオイラが育て方、少し知ってるよ」

仁八と太郎に鯉の話をすると、意外にも太郎に知識があるようだ。


「そんなこと言ってお前、魚食って吐いてたろ」

「食ったのは鯉じゃなくて、ナマズだよ」

ナマズを食べたのか。と言うかあの魚、触ったらダメだって母上が言っていた気がするのだが。


それに、と太郎は続ける。

「良いところで育った鯉は、とっても旨いんだぜ」

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