信じぬは地獄
薬を与えると、しばらくして太郎は安らかな寝息を立て始めた。
「信じられん、お前は飛び切りの馬鹿だったのか」
仁八は鈴にそう言ってこき下ろした。
後悔はしなかったが、そこまで罵倒される筋合いはないんじゃないか。
解せない。
そう思っていたが、仁八の眼に涙が滲み「ありがとう」と小さくつぶやいた。
外に出ると、喜二郎が神妙な顔をしている。
「……未来の飢饉の一端は、水不足にあるというのも頷ける」
「……え?」
先ほどの話では、この辺りは慢性的な水不足に悩まされている。
水が減れば農業用水だけでなく、飲み水まで奪い合いになる。
そして安全な水が失われれば、病が蔓延する。
「仙台は雨が多いが、雪が少ない。雪解け水が川から流れてこないため、慢性的に水が不足するのだろう。……水不足が未来の大飢饉の原因というのも頷ける」
喜二郎が顎に手を当てて、結論を下した。
鈴はきょとんと眼を見開く。
「……なんで急にそんなに真剣に考えてくれるようになったの?」
喜二郎は指を二つ立てる。
「理由は二つある。まず一つは薬袋だ」
喜二郎は懐から小さな袋を取り出す。
先ほど鈴が仁八に渡した薬袋と似ていたが、刺繍が施されていない。
「この薬、とりわけ薬袋は林家の人間しか持っていない」
ゆえに、と鈴を指さす。
「隠し子であったならば、持っててもおかしくない。お前が赤の他人という説が消えた」
あ、まだ未来から来たという話は信じてくれてないんだ。
まぁ、一応血縁だと信じてくれたのなら良しとしよう。
「次に未来の可能性。大飢饉になったという話を信じるとすれば、だ」
未来の話だけは、さすがの喜二郎も判断しかねているようだった。
「法螺なら笑って済む。だが真実なら、未曽有の危機だ。事前に時期を把握できたことは大きい」
「だから最初からそう言ってるじゃん」
最初にした話すら信じてもらえなかったのは流石に落ち込んだが、仮定に仮定を交えた上で話を進めることにしたようだ。
「…それと、あの薬袋は返してもらえ。それなりの代物で、農民が持つ物ではない」
「あ、それは大丈夫」
鈴は懐をごそごそ探る。
そしてもう一つの薬袋を取り出した。
喜二郎はぎょっとして目を見開く。
「………待て、なんで2つもあるんだ……というよりなんか大分傷んでいるような」
「六郎太に渡された書付が入ってるの。薬は入ってないんだけどね。あ! さっきの薬袋に20銭入れっぱなしだった!」
喜二郎は肩を落としたが、鈴にとっては全財産の20銭の方が大事だった。




