↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/145

閉ざされた門

残り二枚は、白紙だった。

鈴は膝を抱えてうずくまる。


なんで、自分なのだろう。

取柄のない自分ではなく、もっとすごい人ならきっと迷わないだろうに。


(未来なら叔父、過去なら祖父)

壱、と書かれた書付を見つめる。


これだけが、鈴に残された最後の道標。

自分が未来や過去をどうにかできるなんて、微塵も思っていない。


(―――でも)

それでも、家族の誰かに会えるなら、会いたかった。


「……仙台城にいこう」

鈴が立ち上がり、城の方へと歩いていく。

六郎太は何も言わず、その後ろからついてきていた。




「何者も通せぬ。お帰り願おう」

門番に阻まれ、城には入れなかった。

帰る場所がないものに、帰れとは酷な言葉である。


「帰る場所なんて、ありません」

「……」

鈴の言葉に、門番は答えない。

鈴は身の上を明かす。


「祖父……林什吾がいるなら、会わせてください。お願いします」

「何者も通せぬ。病を城へ持ち込む危険は、犯せぬ」

にべもなく、棒を構えられる。

引き下がるしかなかった。


重い足を引きずるように城下への坂を下っていく。

今日は色々なことがあって歩き詰めで、足が痛い。


「家もないし、知り合いもいない…どうしよう」

「オイラの家は……いや、ダメだな。……そうだ、キジ兄の家なら。ここから近いだろ」

坂道の途中で待っていた六郎太が、そう提案してくる。


林家は既に廃墟であり、住める場所ではない。

喜二郎の家は、まだあるのだろうか。


「……他にあてもないし、そうしよう」

道中、力なく座り込む人々が、生気のない目で鈴たちを見る。


誰も彼も汚れている中で、小綺麗な鈴の姿は異様に目立つ。

あちらこちらから、二つの眼が鈴を追っているのを感じていた。


「ねぇ、六郎太さんは、叔父上が今どうしているのか、知ってるの?」

「…落ち着かないから、六郎太って呼び捨ててくれ。キジ兄は……」

六郎太は一拍置いて、鈴から視線を外した。


「働き過ぎて、な…養生している。だからここにはいない」

「働きすぎ? ……あ!」

過去に戻った時、鈴に堰を何とかしてほしいと頼み込んだ農民。

何やら色々仕事を抱え込んでいた喜二郎。


多忙だったところに、堰という大きな問題を抱えてしまった。

もしかすると、それが原因で体を悪くしてしまったのだろうか。


「だけど、私のいた時代の叔父上は元気だったのに…」

「え、そうなのか?……いや、そういう風になる歴史もあったんだろうな」

それは、まるで。


喜二郎が元々体調が悪かった、と言う風にも聞こえた。


(あの時……)

喜二郎に頼まれた、明和五年。

鈴が堰の問題とやらを何とかすることができていれば、こんな未来にはならなかったのだろうか。

でも、あの時の鈴に、いったい何ができたというのだ。


「………」

今は、よそう。

鈴は何も考えず、杉林の道を歩き続けた。




「あった……」

喜二郎の家は少し草臥れてはいたものの、建物自体は残っていた。

明和五年では存在自体がなかっただけに、ほっと一息つく。


(手入れ……されている)

門だけは、綺麗に整えられていた。


生垣は枯れ果てていたが、門だけは手入れされた形跡が残っている。

周りにいる生気のない人間も、なぜかここには近づかないようにしているようにも見えた。


「門は……開いているね。不用心だよ、叔父上」

鈴はつぶやき、扉に手をかける。

門には鍵がかかっておらず、内側から閂もかけられていなかった。


(家があるだけで、安心するんだね。……少し、休みたいよ)

手に力を入れるとわずかに門が開く。

すると、少し開きかけた門の中に、鈴は突き飛ばされた。


「な、何す…」

何するの、と発しかけた言葉が途切れる。


「よこせぇ!!」


門の外には何かしらの道具…武器を持った大勢の人が詰め寄せていた。

人ではない……飢えだけが人の姿を借りた何か。


地獄の獄卒のようなそれが、鈴めがけて走り寄ってくる。

それを、仁王立ちの姿で六郎太が押し留めていた。


「何している、閂を閉めろ!」

「ひ、ひっ…」

声が出ない。

地獄のような世界だとは思ったが、今まさに実感した。


――ここが、地獄である。

六郎太が門の外で人を押しとどめながら、鈴に向かって叫んでいた。


「早く閉めろ、早く!」

「で、でも」

飛んできた何かが六郎太にぶつかり、その頭が揺れる。

それを皮切りに、周囲の者たちが我先にと鈴へ手を伸ばした。


「見ていたぞ! 薬だ!」

「よこせぇ!!」

「もう知るか、奪ってやる!」

開いた門の外から、亡者のような瞳が鈴をにらみつけ、手を伸ばしている。

六郎太は必死に抑え込んでいて、動けない。


「ろ、ろく、六郎太…!」

声を絞り出し、六郎太の服を引っ張る。


このままでは閂をかけられない。

今ならまだ間に合う、見捨てるわけにはいかない。


どうにかして門の内側に引っ張り上げなければと、鈴は力いっぱい六郎太の服を引っ張った。

まるで根を張った大木のように動かない六郎太の体。

引っ張る鈴の手が震え始める。


(でも、どうすればいいのか分からない…!)

怖い。怖い。怖い。助けなきゃ、助けなきゃ、助けなきゃ……!


「早くっ!閉めろっっ!!」

六郎太は物凄い剣幕で鈴を怒鳴りつけ、鈴を突き飛ばした。


踏ん張ろうと手を伸ばした鈴の手が何かに当たり、反動で扉が閉まる。

そして、外れかかっていた閂が運悪く扉の留め金の上にガタンと落ちた。


「ろく……」

その瞬間、外から鈍い音と悲鳴が響いた。


怒号。

何かが倒れる音。



鈴は凍り付いたまま、動くことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。