それぞれの道
数日後、鈴は仙台城のイロハに呼び出された。
おそらく例の婚姻の結果を聞くためであろう。
ちなみに実家を出るときはナナシと菅笠の監視……もとい護衛付きである。
いつものように登城し、いつものように身体検査が行われてイロハの部屋に入る。
ちなみに喜二郎は来てはいけないらしいとのことで、鈴ひとりでの会見だった。
「それで、説得できたのかしら?」
「うん。お爺様は説得したし、母上も賛成してくれた。父上も時間の問題だと思うよ」
概ね土台は固めたと言える。
やっぱり根回しが大事なんだね、と思った数日であった。
イロハは満足したように頷いた。
「あなたたちの祝言は新年にしてもらえるかしら。私はその数か月後に喜二郎を婿に迎えるわ」
「私が先で良いの?」
こういうのは本妻が先で、側室が後だと思っていた。
イロハは少しため息を吐き「政治上の都合よ」と頬に手を当てた。
「それに、私が先に祝言を挙げてしまったら、あなたたちを祝福できないでしょう?」
「えぇ……?それを言ったらイロハもそろそろ婚期が厳しいんじゃない?」
イロハは今年で17か18だったはずだ。
世間的にはもう子供がいてもおかしくないし、そろそろ行き遅れと言われる年齢である。
だが、イロハはあまり気にしていないのか「そうね」と軽く流した。
「もともと私は祝言を挙げるつもりはなかったのよ。巡りに巡ってそうなってしまったというだけで」
「そうなんだ」
イロハは「優秀過ぎるのも考え物なのよ」と扇子で口元を隠した。
あー……確かにイロハを嫁にすると、並大抵の男は肩身が狭そうだ。
「そんなわけで、ちゃんと名主村の仕事は引き継いでから嫁ぎなさい。城に入ればそうそう外出できなくなるわよ」
「……イロハが言うと説得力がないんだけど、わかったよ」
とりあえず祝言の順番は決まった。
城の方の根回しはイロハや清右衛門がやってくれるらしい。
あとはできるだけ名主村の収穫量が増えるように手伝いをして、村の指導者としての鈴の役割は終わりだ。
元々林家が管理する村だったので、これからも繋がりはあるだろうが、今までのように気軽に行ける立場ではなくなる。
「……当たり前のように名主の村に行っているけど、本来ならそれも控えるべきなのよ」
「それはわかってるってば。非常時だから仕方ないじゃん」
そういえば今日は喜二郎を呼ばなかったのだろうか。
婚姻の話なら一緒に聞いた方がよいと思ったのだが。
鈴がそうイロハに言うと「あっちはあっちで大変なのよ」とどこか遠い目をしていた。
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仙台城より少し南にある温泉の村。いわゆる湯治村に二人の男が足湯に浸かっていた。
「どうだ、喜二郎」
「このような立派な村になっているとは、驚きました」
もともとここは、喜二郎の秘密にしていた温泉である。
こけし村の事業を進めていた鈴に発見され、身売り問題解決の先駆けとして開発が進められて湯治村になった。
鈴がかなり力を入れて育てたのは接客らしく、町人どころか大名が来ても恥ずかしくないもてなしだった。
喜二郎と向かい合って足湯に浸かるのは、仙台藩主の伊達重村だ。
ここはかなりのお気に入りらしく、視察のついでと称しては頻繁に出入りしているらしい。
「娘との話は聞いた。来年に婚儀を行う」
重村が唐突にそう話し出した。
喜二郎は「承知いたしました」と頭を下げる。
お忍びで来ているので、あまりへりくだりすぎると周りに迷惑になる。
「今年の収穫は平年の三割ほどだ。……だが、大分持ち直したと言えるだろう」
「あなた様や仙台藩の奉行様たちのご尽力あってのことかと。まこと敬服の至りでございます」
喜二郎がそう言うと、重村は「戯言を申すな」と苦笑いする。
「結局、そちを取り込むことになってしまった。許せ」
「いえ。取り立てていただいた以上、力を尽くします。なんなりとお命じくださいませ」
おそらく今まで以上の無茶振りが来ることになるだろう。
それでも、この飢饉を乗り切った今、喜二郎にできる新しいことがあるはずだ。
「こうしていると……一汁一菜の条件を飲まされた時を思い出す」
重村は遠い目をしながら、過去を振り返っていた。
「そちは広間に待ち構える老人たちを物ともせず、展望を語ったな」
「なつかしゅうございます」
思えば、あの評議が喜二郎と重村の初対面だった。
決してよい印象を持たれていないと思われていたが、腹を割って話した時の重村の明朗さは仙台で随一だった。
そしてあれから巡りめぐって、喜二郎は重村の娘であるイロハと婚姻することになった。
「結局こうなってしまったが、もはや仕方あるまい。その力を余すことなく使い切ってくれよう」
「存分に、やんごとなきお方」
重村はその言葉になにか言いたそうだったが、ただ息を吐くだけだった。
「……来年の収穫を見て、倹約令を解除する。それまでに借財を返す案が欲しい」
喜二郎はその言葉に、深く頷いた。
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「リン、お帰りなさい」
「ただいま、芳ぃ」
鈴はゾロゾロと菅笠を引き連れ、ようやく名主の村に帰ってきた。
なんだかこっちの方が実家に戻って来たような安心感である。
菅笠の男たちをちらりと見た芳だったが、特に気にするのでもなく鈴を抱きしめる。
芳って、私の二人目の母親みたいなんだよね。
「どう? 村に変わりなかった?」
「……何にもなかったわよ?」
え、なに。今の間は。
少し不安になる鈴だったが、芳は照れ臭そうに笑って事情を明かした。
「子宝が、ね」
「わっ、おめでとう芳!」
農家って子だくさんの印象があったのに、芳と六郎太には子供一人しかいないことが気になっていた。
ちなみに鈴が一人っ子なのは、母が二度流産してしまったからと聞いている。
「今年で飢饉に決着がつきそうだから、ね。リンもいい人が見つかるといいわね」
「あー……うん。ソウダネ」
ちなみに喜二郎との婚姻は公にしていない。
喜二郎とイロハの祝言が成立するまでは公表できないということだ。
藩内の政治的な根回しが終わってからなら伝えても良いらしいのだが、年内に終わるのかかなり怪しい気がする。
まぁ、それは鈴がどうにかできる問題ではないので、考えても仕方がないだろう。
それから鈴が大阪に行っていた間の村の様子を、芳は教えてくれた。
米は豊作の時と比べるとかなり少なかったが、これから少しずつ収穫量が戻っていきそうなこと。
水の量が少なくなってきており、そろそろ雨が降ってきてほしいこと。
少し手が空いた時には湯治村に行って足湯を楽しんだこと。
「ようやく……ようやく夜明けが来そうね」
芳はしみじみと息を吐いた。
名主が亡くなってからの芳は多忙を極め、ほとんど村から出ていない。
だが思い返せば過去でスズとして会った頃からと考えると、人生のほとんどを飢饉に備えるために生きていると言ってもいいだろう。
ようやくという言葉にそれほどの重みが乗っていると考え、芳の肩の荷が下りるように鈴も嫁入りまで頑張ろうと思った。
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日が暮れるころになると、六郎太を始めとする男衆が名主の家に帰ってきた。
「リン。戻って来たんだな。活躍は聞いてるぜ」
「ありがと、六郎太。畑の方はどんな感じ?」
まぁまぁだな、と六郎太は首を竦めていた。
「ちらほらお天道様が見えているし、去年よりはマシだって父ちゃんが言ってたぜ」
「そっか、よかった」
稲作の要は言うまでもなく天気だ。
日照りが続いても良くないし、曇りばかりでも良くない。
相変わらず曇天の日が多い仙台だが、うっすらと雲の向こうから太陽が見えるくらいの空にはなっていた。
「それより驚くなよリン。芳に二人目ができたんだ」
「聞いたよ。おめでとう、六郎太」
六郎太は鈴の驚く顔が見たかったのか少し肩を落としていたが、それでも喜びの方が優っているのか上機嫌だった。
「名前はどうするかな。またキジ兄に相談したいんだけど、まだ忙しそうか?」
「たぶん、ね」
すごく忙しくなると思うが、詳しくはよくわからない。
なんか藩で裁縫教室を開くと言っていたが、それだろうか。
そう言えば清右衛門から「喜二郎の刺繍の絵を早く送れ」っていう文が来ていた。
すべて書き終えて用無しにされては敵わないので、のらりくらりとゆっくり書いていた。
その分、すごく精密に書いているので、おそらく清右衛門も納得するだろう。
「ただいまー。あ、リン来てたんだ。おかえり!」
「うん、ただいま。トシ」
毛むくじゃらの猫を抱えたトシが名主の家に帰ってきた。
どうやら猫の世話をしていたらしい。
トシにくっついていた猫たちは、鈴の姿を見つけるとあっという間に飛び降りて鈴にすり寄ってくる。
「……今まで僕に愛想を振りまいてたくせに。リンが来るとすぐこれだ」
鈴の背中を上る丸い毛玉を見ながら、トシはぶつくさと文句を言う。
鈴はそれに苦笑いして「ただいま、モチたち」と白い毛玉の猫たちを撫でた。
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猫たちをあやしながら、鈴は夕飯の支度を手伝った。
基本的には名主の家にいる女衆が用意してくれるらしいのだが、練習のために鈴も参加した。
「……おりん様は、おにぎりをお願いします」
女衆にやんわりそう言われ、鈴はおにぎり役になった。
ちょっと大根の皮を厚く剥き過ぎて身が少なくなったのは認めるけど、もう少し練習させて欲しかった。
冷や飯なので握るのは苦労はないのだが、これって確かこの上から味噌汁をかけるんじゃなかったっけ……?
そう思っていたら、握ったおにぎりの上にソロリと味噌汁がかけられた。
ああっ……せっかく綺麗な三角握りだったのに!
しょんぼりしている鈴を慰めるようにモチが鈴の着物をかじる。
「モチはいい子だね。おやつをあげる」
細い棒状の蒲鉾を懐から取り出すと、どこから嗅ぎ付けたのか他の二匹の猫も集まってきた。
モチはこの村で一番偉い猫らしく、モチが食べるのを待ってから他の二匹も鳴き声を上げる。
「クルミもエンギも慌てない。今日も蔵番ご苦労様」
……あれ? いま蔵に猫いないんじゃない?
そう思って鈴は首をかしげながら、膳を居間に運んだ。
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「あ、仁八。来てたんだ」
「おう」
居間には仁八が来ていた。
いつもはこっちに来ないらしいが、鈴が帰ってきたと聞いて訪ねてくれたらしい。
「ねぇ、仁八。モチたち蔵にいないんだけど、戻した方がいい?」
「いい。ズンダたちがいる」
ズンダ? と首をかしげると、モチの子らしい。
いつの間にか生まれていた三つ子の子猫とのことだ。
「お前が湯治村を作っている時に生まれた猫だ。もう親元を離れてもおかしくないほど大きくなった」
「え、だいぶ前じゃん。なんで教えてくれなかったの」
鈴はそう口を尖らせたが「教えたら大阪行きに専念できたか?」という仁八の言葉で渋々納得した。
それから仁八を交えてそれぞれの情報交換を行った。
鈴は主に大阪で行った取引について、名主村組は主に今後の展望について話し合う。
「この村は年貢をあと六年、免除されているのが大きい。気をつけろ、リン」
そう言って仁八は外に控えているであろう菅笠たちの方をちらりと見る。
わかっているよ。
鈴が死んじゃうと、年貢の免除がなくなるのはよーく身に染みて分かった。
まぁ、それも喜二郎と祝言を挙げれば林家として保証を引き受けてもらえるだろうし、鈴が身の危険にさらされる可能性はだいぶ低くなる。
というか万が一の時のために、保証人は鈴ではなく「林家」へ早めに戻しておいた方がいいかもしれない。
この村はもともと林家の領地預かりとして納めていたんだし、問題ないはずだ。
お家の力を借りる、なんていい響きなんだ。
なんだ、こんな簡単なことで身の危険が減るんだったら最初からそうしておけばよかった。
次にイロハに会った時、それを相談してみようと鈴は猫まんまを啜った。
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「ねぇ、ナナシ」
「なんだ」
「なんでこんなに監視……じゃなかった、護衛の人が増えているの?」
鈴は塩釜に三吉たちに会いに行く道中、後ろにぞろぞろと続く護衛の菅笠を見て言った。
昨日まで三人だったじゃん。なんで倍に増えてるの。
「……お前が昨日、見張りに握り飯を配ったからじゃないか?」
「あー……それで」
昨日、寝ずの番をしていた菅笠たちにちょっと同情し、握り飯を差し入れに持っていった。
そしたら朝には人数が増えていたのである。
「これから三吉に塩と鮫製品の報告を聞きに行くのに、こんなにいたら話しづらいよぅ」
ぱっかぱっかとナナシの後ろで馬に揺られる鈴が、音もなくついてくる菅笠を見て呟く。
するとナナシは小声で「撒くか?」と尋ねてきた。
(いいの?)
(飯目当ての見張りはいらん。ついてこれないなら護衛失格だろう)
それはたしかに。
鈴が頷くと、ナナシは手綱を引いて馬を走らせる。
あっという間に菅笠たちとの距離が開いた。
「あいつらは落第だな。使えん」
「馬に追いつける人間なんて、そうそういないと思うよ?」
俺は可能だ、とナナシはつぶやいた。
へぇ、ナナシも冗談を言うんだと鈴は感心した。
塩釜に着くと、鈴たちはまっすぐ三吉の家に向かった。
そういえば時掛けの後は三吉の家に行ったことがない。
まさかあの本家の離れのような場所で、まだ暮らしているのだろうか。
「着いたぞ」
「あれ? そっちは本家じゃ……」
鈴を馬から降ろしたナナシが向かったのは、三吉が住んでいた離れではなく本家の方だった。
あ、そうか。馬を繋いでおかないといけないから、厩を借りるのか。
しかしナナシは馬を預けると、そのまま本家の屋敷に入っていってしまう。
「え。ちょ……」
すたすたとそのまま歩いていくナナシ。
怒られないかなぁ……と思いながら鈴はその背中を追った。
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「おお、リンとナナシじゃねぇか。よく来たな」
「嘘でしょ、三吉」
屋敷の主の居間にいたのは三吉だった。
トミに膝枕されながらゆったり耳かきをされている。
三吉はたしか三男で家督を継げないっていってなかったっけ。
何がどうなってこうなってるんだ。
鈴が混乱して頭を抱えるなか、あくびをかみ殺したように三吉はトミの膝をさすっていた。
「鮫と塩だよなぁ~。あとちょっと……あとちょっと待ってくれ」
「旦那様ぁ。このままですと、また眠ってしまわれるのではないでしょうかぁ」
唖然としている鈴をよそに、三吉とトミはいちゃつく。
「父上、納品の準備ができましたが……あ、おりん様。いらっしゃいませ」
固まる鈴の後ろからイザマルが姿を見せる。
三吉は緩み切った顔のまま「お~ぅ」と間延びした声を上げる。
「あ~……イザ、ありがとうなぁ。もうちょっとしたら行くから、もうちょっと」
「いえ、その状態で来られても迷惑ですので、大丈夫です。おりん様、申し訳ございませんが私が案内いたします」
「あ、うん。よろしくイザマル」
鈴はイザマルに連れられるまま、ナナシと共に倉庫の方に歩いていった。
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「ねぇ、イザマルってこの家に住んでいるの?」
「ええ。生まれた時からこの家です」
生まれた時って考えると、かなり昔から三吉はこの家に住んでいるらしい。
なにがどうなってこうなったのだ。
「三吉は三男で家督を継げないって聞いたんだけど」
「……私の叔父たちは失敗しました。喜二郎様を裏切ったことが全てです」
どういうこと?と思ったが、イザマルも深くは語りたがらなそうだった。
「紆余曲折あって、父がこの家の当主となりました。この一帯は石田家が管理している土地になります」
「ちょ、この一帯って……」
地主どころか、ほとんど豪族ではないか
というか鈴の林家よりも土地が大きい。
三吉とはいつも気安く接していたので、こんな富豪になっていたとは考えもしなかった。
まさかあの三吉がこうなっているなんて、だれが想像できたというのだ。
「……ん? なら福箱祭で高級フンドシ買えなかったの?」
こんなに大きなお屋敷に住んでいるくらいなら銭もあるだろう。
素朴な疑問を思い浮かべると、イザマルはため息を吐いた。
「お忘れですか、おりん様。石田家は喜二郎様の助けがなければ商いはカラキシの家系なのです」
どういうことかと思ったら、手元にあまり銭はないということらしい。
研究費に使ったり、後進を育てたり、飢饉のときには援助したりなどでいつもカツカツの家系なのだという。
なるほどなぁ、と鈴は納得した。
すると部屋の一つから甲高い鳴き声が聞こえてくる。
「ん。おりん様、申し訳ございません、少々お待ちくださいませ」
「うん」
倉庫に向かう途中、子供の鳴き声が聞こえてきた。
女中らしき人がおもちゃで子供をあやしていたが、泣き止まないようだった。
「代わろう」
「すみません、坊ちゃん」
イザマルが見たこともない顔をしたかと思うと、子供はぴたりと泣くのをやめて笑い出す。
「大きくなったね、イサミ」
「ええ」
イサミはトミが湯治村に連れてきた三吉とトミの子だ。
つまりイザマルの妹である。
「どっちかっていうとトミ似かな? 美人になるねぇ」
「そうなることを、願っています」
イザマルはあやし終えると、女中にイサミを預けた。
女中は得意そうに胸を張る。
「もちろん美人になりますよ。将来は喜二郎様に嫁がせるってイザマル様が張り切っておられますから」
「……ほほぅ?」
鈴がコテンと首をかしげると、イザマルはカラクリ仕掛けのゼンマイのようにゆっくりこちらを向いた。
「これは、その、なんというか」
「別に反対しないってば」
イザマルが喜二郎を信奉しているのは知っているし、ありえないことではないかなとは思っていた。
でも三十歳くらい年が離れている喜二郎に嫁がせるのは、ちょっとイサミが可哀そうだなとは感じたが。
洗脳しているというならともかく、本人にその気持ちがあるなら鈴が止めるべきことではない。
イザマルと鈴が乾いた笑いを浮かべるなか「大丈夫ですよ」と女中が太鼓判を押した。
「『生まれた時から喜二郎様しか目に入らないように育てている』と坊ちゃんが熱心ですから」
鈴はまさか三吉と同じように、イザマルを叱る日が来るとは思ってもみなかった。




