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崩壊した世界

鈴は呆然と立ち尽くしていた。


太陽は全く見えず、世界にも色がない。

街に活気はなく、人も歩いていない。

辺りにはすえた匂いが立ち込めている。


灰色の世界―――まさにそうとしか言えない状況だった。


鈴は恐る恐る歩き出す。

誰かに聞けば、状況が分かるかもしれない。

見慣れたはずの仙台の城下町、見覚えのある通りだった。


だが店が開いていない。

戸板は外れ、軒先は壊れ、まるで長い間放置されていたようだった。




「ごめんくださぁい……」

鈴は一軒の店を覗き込む。


人もおらず、棚は空だった。商品は何一つ残っていない。

床には割れた器だけが転がっている。

野盗でも入ったような有様であった。


(でも、ここだけじゃなさそう……)

隣の店も。その隣も。どこも同じだった。


何も残っていない。

人の気配はおろか、ネズミ一匹すらいない。


鈴は不安になりながら歩き続ける。

すると見覚えのある看板が目に入った。

いつも女中が買い付けに来る米屋だった。

打ちこわしにでもあったのか、店の外も内もボロボロである。


「ここのお米、…おいしかったんだけど」

店の中は空であり、米俵は一つもない。

残っているのは埃を被った札だけだった。それを拾い上げる。

そして目を見開いた。


「は? えぇ……!?」

そこに書かれていた値段は、鈴の知るものではなかった。

一升の米に付けられた値は、普段の何倍もある。


いや、十倍近い……!

見間違いかと思ったが、何度見ても同じだった。


「こんな……一家で働いても買えないよ……」

思わず呟く。

鈴はゆっくりと辺りを見回した。


これは本当に自分の知っている仙台なのだろうか。

今まで感じていた違和感。

だが、この何もない世界が、自分の知る仙台だとは思えなかった。

少なくとも、ここまでボロボロになるものとは思えない。


―――喜二郎と歩いた仙台とも違う。

―――自分が暮らしていた仙台とも違う。


同じ町のはずなのに、何もかもが違って見える。

喜二郎は「未来へ帰れる」と言っていた。


……本当に、ここは未来なのだろうか。


きゅぅ、と腹の虫が鳴る。

「…お腹、空いたなぁ」

思えば、昼間に寺子屋で食べた握り飯以来、何も口にしていない。

過去に行った時間が昼だったから忘れていたが、もう丸一日くらい何も食べていない。


鈴は懐から小袋を取り出し逆さにする。

手に落ちてきたのは銭と一家秘伝の常備薬。

手のひらに落ちた銭を数える。


二十銭。

目の前に立てかけられた値札を見つめ、ため息をつく。

これでは握り飯一つすら買えそうにない。


空腹をこらえながら鈴は歩き出すと、川べりに何かが落ちているのが見えた。

―――いや、何かではない。

誰かだ。


「ひっ!」

驚いて鈴はしりもちをつき、後ずさる。

人が大勢、川に沿って倒れていた。


地面には黒く染みついた汚れが残っている。

どれだけ長く人が倒れていたのか想像もできなかった。

川に水はなく、石垣の下では生きているのか死んでいるのかもわからない表情で、座り込んでいる人たちがいる。


生気のないその黒い瞳を見て、鈴には生きている人間とは思えなかった。

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