跋扈暗躍
「軍船の件は他言無用。清右衛門、内密に進めよ」
「はっ」
蝦夷へ調査に行っていた工藤から持たされた露西亜の軍船。
名目は拿捕という形で仙台藩に引っ張ってきたこの船は、仙台藩が最優先で守るべき秘密だ。
一歩間違えば藩の取り潰し。
だが同時に、誰も持ち得ぬ価値を秘めた財でもあった。
そして財の話となれば、この藩で清右衛門の右に出る者はいない。
秘密裡に軍船の構造を明らかにし、ここまで米の運搬を担ってきた薩摩への支払いに充てる。
五郎八が持ってきた話には理があり、多大な利益も見込めた。
薩摩が求める夜明珠――異国船から得られる希少な宝を手に入れることができれば、藩の財政は一気に改善へ向かう可能性すらある。
清右衛門には江戸に田沼意次と意知の後ろ盾がある。
彼らが銭中心の政治を続けている間が勝負だ。
米どころの仙台は、この飢饉で浅からぬ傷を負った。
夜明珠の効力を最大限発揮するのは今しかない。
問題はその夜明珠を手に入れるためには軍船の構造を明らかにし、薩摩で同じ船を建造しなければならないことである。
だが、五郎八はそれを喜二郎にさせようと提案していた。
清右衛門は賛成である。
しかし、仙台藩にとっても博打の要素があるのが懸念点だ。
仙台藩の臣下でない者を留めておくためにも、理由がいる。
このまま喜二郎を仙台に捉まえておくには、しがらみが足りないと確信していた。
---
「拙者より一つ提案がございます」
「申してみよ」
翌朝の評議で五郎八がしてきた交渉内容を話し終えた後、清右衛門が口を開いた。
「喜二郎殿と五郎八様の婚姻を提案いたします」
その瞬間、ざわりと家老たちが目の色を変える。
「いや待たれよ。藩主一族に迎え入れるのはどうかと思う。家老の娘で誰ぞよい娘はおらぬか」
「喜二郎の能力は認めるが、何も過分な権力を持たせることはあるまい。そうではないか清右衛門殿」
「いや、藩の機密を扱う以上、もはや喜二郎を藩の外には出せぬ。拙者は賛成でござる」
「工藤殿の家は藩医の家系、娘も年頃だと思うがいかがであろうか」
「他藩の姫との縁談が持ち上がれば家老家では対抗できぬ。お分かりであろう」
先日、軍船の話をしていた時は難しい顔をして慎重に様子を窺っていた家老たちが、喜二郎の話になった途端に活気づく。
「皆様はもはや喜二郎の能力を疑ってはおらぬ様子。今は何よりも有能な者を取り立てることこそが肝要です」
「しかし清右衛門殿」
家老の意見が分かれる。
たしかにこの場に集まった家老たちの政治能力は非常に高い。
彼らに比べれば、喜二郎はまだ経験が不足している。
だがその経験を積めば、誰よりも政治力を発揮することを清右衛門は確信していた。
いま必要なのは藩を変える人材なのである。
薩摩にいたっては、御國姫が自ら乗り出して喜二郎を抱えようとしたと聞いている。
薩摩が本気で喜二郎を狙ったことを考えても、もはや猶予はない。
家老との縁組では喜二郎という人材を繋ぐことはできても、他藩との競争には勝てない。
引きとどめておくには五郎八との婚姻以外に仙台の選択肢はない、と清右衛門は考えていた。
その場にいる五郎八を、清右衛門は見る。
彼女自身の考えも聞いておきたい。
「五郎八様は、いかが思われますか」
「……藩の決定に従います。私情を申し上げる立場ではございません」
彼女はあくまで自分が女であるという立場を崩さない。
この場で彼女が賛成してくれれば話は早かったのだが、仕方がない。
「殿。藩の利益……いえ、未来の話でございます。何卒ご裁可を」
「……」
だが、藩主の重村は沈黙を貫く。
彼は普段から、よほどのことがない限り議論には口を挟まない。
それは決定こそが藩主としての最大の責任であり、役目だからである。
(しかし……)
清右衛門は重村が喜二郎を取り入れるのを避けているのを感じていた。
その理由は分からないが、今必要なのは結果だ。
各藩で交渉して集めた米を合わせても、仙台が冬を越せる保証はない。
たとえそれを乗り切れたとしても、このまま何も産業が始められなければ仙台藩は借金でつぶれてしまうだろう。
ちらり、と重村のそばで控える男を見る。
林什吾。
重村の主治医であり、喜二郎の父だ。
「什吾殿」
清右衛門がそう声をかけると、家老たちの視線が什吾のもとに集まった。
「あなたはどう思われます」
「喜二郎と姫の婚姻には、賛成しかねます」
その言葉に驚いたのは清右衛門だけではない。家老全員が息をのんでいた。
(いや……)
清右衛門はこう思う。
ここで賛成すれば、権力目当てとして喜二郎を育てたのではないかと疑われる。
それを避けたのではないか。
清右衛門は質問の仕方を間違ったことを悔やんだが、それと同時に真意を探ってみる必要もあるのは確かだ。
言葉を選びながら清右衛門は什吾に尋ねた。
「理由をお聞きしても?」
「そのような歴史はございませぬ故」
予想外の理由だった。
家老たちが「歴史?」と首をかしげる。
「……失礼、そのような歴史がある家柄ではございませぬ故、喜二郎の婿入りの件はご容赦いただきたい」
什吾は時折、得体のしれない発言をする。
彼は藩政に関わることはほとんどないが、重村のご意見番として相談に乗る立場として信頼を得ている。
結局その日は喜二郎の話だけはまとまらず、薩摩へ渡す荷の受け渡しについて話が移る。
だが清右衛門には分かっていた。
いずれまた同じ議題はこの場に上がる。
その時こそ決断を避けることはできない。
(だが薩摩に……いや他藩に渡るならば、いっそ)
仙台藩の機密を持った者を、他藩に渡すわけにはいかない。
機密は才能云々ではない。
幕府に仇なすとみられるか否かの、仙台の命運を左右する問題だ。
この手を、汚すことになるかもしれない。
その覚悟を持たずにはいられなかった。
清右衛門は静かに目を閉じ、その未来が来ないことを祈った。
---
「見送りありがとね、リン」
「こちらこそありがとう。ミクニ、元気でね」
二人は肩を回して抱き合う。
その姿を見た薩摩武士たちが、なぜか一斉に鼻をすすり始めた。
「お嬢ぉぉぉ!」
「仙台ん武士は好かんが、お嬢ん友達んおはんは認めちょい!」
最後まで難しい薩摩節を聞きながら、鈴は手を振る。
「えっと、うん。皆さんもお元気で」
仙台の面々は既に桟橋の前まで見送りに来ており、こちらも最後までいがみ合っていたのには少し笑ってしまった。
イロハは護衛に囲まれながら出航を待つ船を静かに見守っている。
「イロハも! 楽しかったよ、またね!」
遠くから見送るイロハに、ミクニがそう叫んだ。
少し戸惑っていたイロハであったが、左の人差し指を顎に当て、右手にもった扇子を胸に二度あてる仕草をした。
『私も、楽しかったわ』と、その仕草が示しているようにも感じた。
にっと笑うミクニは薩摩武士と共に船へ乗り込んでいく。
「出航!」
ミクニの言葉で船から「チェストぉぉお!」という声が上がる。
帆と櫂を使った船がゆっくりと港を離れていく。
船は風に乗り、掛け声とともに回される櫂の力でどんどん速度を上げていく。
漆黒の海を切り裂くように、薩摩から来た黒い船は視界から消え去っていった。
「………いっちゃった」
その海をしばらく眺めていた鈴に、護衛を連れたイロハが近寄ってきた。
「話さなくてよかったの?」
「話すべきことは、すでに話したわ」
そう告げるイロハの目には、それでも一抹の寂しさが浮かんでいるように見えた。
「私たちはこれからが正念場よ。あなたもしっかりやりなさい」
「うん。イロハも無理しないでね」
鈴がそう言うとイロハは不敵に笑いながら港を後にした。
曇天の空に柔らかな風が吹く。
―――薩摩との話は終わった。
そして、これからがいよいよ本番である。
鈴はゆっくりと仙台の町へ歩き出した。
鈴は未来の転換点に来たことを、うっすらと感じていた。
---
ミクニを見送り、イロハたち仙台藩の人たちと別れ、喜二郎と名主の家に向かう。
「家に帰っていないそうだな、リン。……帰りづらいのか?」
途中、喜二郎はそう訊ねてきた。
鈴は答えにくそうにうつむく。
「別に、そういうわけじゃないよ」
「理由があるなら話してみてくれ。兄上と義姉上がお主をひどく心配している」
喜二郎はそう優しく鈴に話しかける。
確かに家で小言を言われるのが嫌というのもあるが、理由は深いところにある。
「お爺様と……顔を合わせるのが怖い」
「父上と?」
今まで避けていたが、そのことについて考えなければならない。
『いかに悲惨な結末であろうと、変えてはならぬ』
あの言葉だけがずっと胸に残っていた。
おそらく祖父は、鈴が時を掛けていることを知っている。
だからこそ「歴史を変えるな」と忠告をしたのだろう。
あの言葉にどんな意味があったのか。鈴には今も分からない。
それでも鈴の中で答えは決まっていた。
―――あんな未来なら、変えてしまった方がいい
しかしその言葉を祖父へ言ってしまえば、対立してしまうだろう。
だから今まで家に帰るのが怖かった。
鈴は一呼吸だけ置いて、喜二郎を見た。
「叔父上、相談にのってくれる?」
「もちろんだ。聞かせてくれ」
優しくうなずく喜二郎に鈴はほっとし、祖父の事を話した。
---
話を聞き終えた喜二郎は腕を組んだ。
「もう少し詳しく知りたい。時掛けの最中、鈴が父上と最初に会ったのはいつか覚えているか?」
「えっと、宝暦十三年。私と叔父上が最初に会った時だよ」
あの時は鈴が「林家は私の家です」と言ったことで、祖父が隠し子を作っていたのかと喜二郎たちが疑った時だ。
あの一件以来、時掛けの最中では実家に行きにくくなってしまった。
「ああ、あの時か。あの後は大変だった。父上がしばらく母上から詰め寄られて、肩身の狭い思いをしていた」
「えっ! そんなことがあったんだ」
祖母が亡くなったのは明和二年。鈴が来てから二年後だ。
もしかしてあれが原因だったかと思うと、たしかに祖父の言い分が通る。
だが喜二郎は首を振った。
「母上は土砂崩れで亡くなった。あれで歴史が変わったわけではない」
「えっ……。ああ、そういえばそんなこと聞いたことがある」
どうやらこれは違う理由らしい。
それ以降、過去で祖父とは顔を合わせていない。
「次に会ったのは未来。天明四年……来年だね。お爺様は軟禁部屋みたいなところで仕事をしていた」
「軟禁部屋?」
窓がなく風通しの悪そうな部屋。私物もほとんどなく傍らには常に見張りが付いていたし、そうとしか表現できない。
「そこで何か書き物していたけど……内容はよくわからなかった」
「何を書いていたのかは、見れたのか?」
喜二郎にそう言われて、鈴はその時の情景を思い出してみる。
「えーと、なんだっけ……たしか」
ホウ、メイ、アン、テン、カン、キヨ……と縦に並んでいて、丸と三角とバッテンが色んな所についていた気がする。
「……まさか」
途端に喜二郎の顔が青くなる。
「他に……気になった点はあったか?」
「後は、何かあったかな……? お爺様が私の簪を持っていたり、掛け軸を持っていたくらい」
「……」
喜二郎は口元を手で隠して考え込む。
「どうしたの、叔父上?」
「……いや、そうだとすると何故だ? 説明がつかん。理由があるのか。代償……や対価がある? いや、考えにくい……」
思考の海に沈んでいく喜二郎の袖を、クイクイと引っ張る。
だめだ、全く反応しない。
「叔父上!」
「ん? ああ……。突拍子もない仮説なのだが、聞くか……?」
こくり、と鈴は頷いた。
喜二郎は少し考えて言葉をまとめると、その仮説を話し始める。
「父上は未来を知っている……いや、未来を見れるというべきか」
「未来を、見れる?」
その言葉だと、鈴と同じような時掛けとは違うような口ぶりだ。
喜二郎もその仮説が正しいのか自信が持てないようで「仮にだ」と断りを入れた。
「父上は歴史を知っているが、リンのように時空を移動できるわけではない。しかし未来を見ることができる。端的に表現するなら、そうだな……」
喜二郎は一拍おいて、それに最もふさわしい言葉を選んだ。
林什吾は――観測者だ。
「―――えっ?」
その言葉に鈴は呆然とする。
祖父も時掛けをしてきた………というのとは少し違う言い回しだ。
「そう思った理由を、順に説明する」
そう言って喜二郎は懐から何かを取り出す。
「それは……」
「某が、昔から疑問に思っていたことが一つある。リンも知っているだろう、林家の常備薬が入った薬袋だ」
もちろん知っている。
未来の六郎太と鈴を繋いだ、あの薬袋だ。
「これはただの常備薬ではない。このわずかな量で強力な解毒作用がある。……秘密にしていたが、新堰の排出溝の一部にもこれをこっそり使っている。だから、川に流れてくる水に汚染の心配がほぼない」
「ええっ……!」
過去で六郎太……太郎に渡したのが、まさか解毒薬だったとは。
いやあの時、太郎はナマズを食べて腹を壊していたと言っていた。
解毒作用が効いたのだろうか。
だが、それと観測者説が何の関係があるのだろうか。
「父上……什吾がこの薬を作った。だがこの薬の解毒作用に匹敵する物は江戸にすら存在しない」
「……」
「什吾は『作った』というより、『知っていた』ように見えた」
つまり、未知数の力を持つ薬を作ったから……というのが理由だろうか。
喜二郎にしては理屈が弱い気がする。
「……この薬がなければ死んでいた人間を、某は二人知っている」
「六郎太だよね? あと一人は?」
「お主だ、リン」
びっくりして鈴が飛び上がった。
「わ、私?」
「お主が4つの時、毒で倒れたのは覚えているか?」
鈴は首を振る。
そんな記憶はまったくない。
喜二郎は神妙な顔をしていたが話を続ける。
「……その時、解毒したのがこの薬だ。効果は六郎太を見ていたお主なら知っているだろう」
「それは、うん」
「あれほどまでに即効性のある薬、某は知らぬ。少なくともこの薬がなければお主は死んでいた」
「……」
鈴は何も言わず、喜二郎の話を聞く。
「次にホウ、メイ、アン、テン、カン、キヨ……これは何を表しているか、予測できるか?」
「分からないから、叔父上に聞いているんだけど。そうだね……」
何の繋がりがあるのか、全く予測できない。
しばらく唸っていたが、何も考えが浮かばず降参した。
「宝暦」
「えっ」
「明和、安永、天明……」
「ああ……!」
元号の頭文字だ。
だが、後半のカンとキヨは何だろう。
「おそらくとしか言えないが、次の元号なのかもしれん」
だが、それこそが什吾を観測者だと推測する根拠の一つだという。
「でも、それじゃあ……あんまりお爺様が未来を知っている人、って理由にならない気がするんだけど……」
単に元号を書いて、暗号化しただけかもしれないし。
薬だって、元々林家に伝わっていた秘伝の薬なのかもしれない。
鈴がそう思っていると、喜二郎は最も分かりやすい理由を述べた。
「リンは、どうやって時を掛けた?」
「それは、掛け軸を使ってだけど」
そんなの、喜二郎なら知っているはずだ。
喜二郎も頷く。
「所有者は?」
「そんなの………」
そう言われて鈴は思い出す。
実家に在った物、喜二郎の家に在った物、仙台城にあった物。
掛け軸の所有者が、誰だったのかを。
「すべて、林什吾の所有物だ」
「………」
鈴は言葉を失っていた。
喜二郎が言ったことは推測の域を出ない。
だが、掛け軸だけは違う。
実際に鈴はそれを使って時を掛けたのだから。
「………ここまではいいか? それでは本題を話そう」
「本題?」
今の事態が本題ではなかったのだろうか。
「仮定を重ねた話だからな。重要なのは、什吾が時を観測できるとした場合の、危惧の出どころだ」
そう言って、喜二郎は指を立てる。
「最も可能性が高いのは、歴史を変えることでよりひどい未来がやってくる場合だ」
「そんなはず、あるわけないよ………」
あの絶望的な未来に勝るものなど、あるわけがない。
陸奥全土が滅びてしまうよりひどい未来なんて、想像できない。
喜二郎は頷く。
「リンが時掛けで最初に来た天明三年は、今年だ。確かに苦しい時期だが、聞いていた話よりも圧倒的に被害が少ない」
「なら……」
「だが、軽微な被害で済んだ仙台と違って、他の陸奥の国は酷いものだと聞く」
確かに、鈴は仙台のことで精いっぱいで、他藩を助けようとは考えつかなかった。
助けられるならば助けたい。
でも、それは仙台を守るために頑張ってくれた皆を犠牲にしてまで助けるかは、答えを出せない。
………こんな冷たい考えができるようになってしまった鈴は、自分で自分を嫌いになりそうだった。
「つまり……彼らの得られるはずだった食料を、私たちが奪ってしまったということ……?」
「そうではない。食料があるから、他藩から狙われる可能性がある、ということだ。……名主の村で、経験あるだろう?」
そういえば、その時の事を喜二郎に手紙で相談していた。
飢饉では食料があるところと水場に人が集まる。
だからあえて堰の水を開放し、米も藩預かりにした。
おかげで村は苦しくなったが、襲撃の危険は減ったとも言える。
「つまり食料があることが争いの種となり、被害が出る未来……という可能性になった」
「だけど……それは」
「無論、リンは間違ったことはしていない。食料を用意できなかったのはその藩の責任だ。しかし……争いの規模が大きくなる、という可能性を什吾が嫌った……ゆえに未来を変えるなと忠告した、と考えるのはどうだろうか」
そう考えると、確かに筋は通っている。
しかし、と喜二郎は続ける。
「それでも仙台藩が生き残れれば、いずれ近隣の藩の復興を手助けできる。とも考えられる」
「あ……」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
生き残ることでの罪悪感ばかりが頭にあったが、仙台が体力を残すことでいずれ他藩の力になることもできる。
鈴としてはその言葉に、少し気持ちが軽くなった気がした。
だが喜二郎は「だが、これだと分からないことがある」と言う。
「どういうこと?」
「被害を比べた場合……。未来を変えることで、数の上では生き残る数の方が多いはずだ。……考え方は好きではないがな」
什吾は徹底した現実主義者だ。
「数だけ」考えるならば、未来を変えてしまった方が、什吾の思想とも合うので反対する理由が分からないらしい。
「だからこの案は最も可能性が高いが、なにか見落としている。情報が足りない。断定できないのはそれが理由だ」
「なるほどね……」
他にもいくつか考えがあるようだが、喜二郎の中ではまだまとまっていないらしく言葉には出さなかった。
「気になることは多いだろうが、もし什吾が未来を知ることができるとしたら何故それを知りえたのか。その方法はわかるな?」
「掛け軸、だね。でも、お爺様は部屋に飾っていたくらいだし、時掛けはできないんじゃないかな……?」
なら、と喜二郎は提案する。
「確かめる方法は、一つしかない」
喜二郎は少し考えて口にした。
「今も掛け軸が応じるか、試す。どうする……リン?」
それに鈴は、どう答えればよいのかしばし迷った。




