第98話 修学旅行【初日】
一華とシンは修学旅行のバスの左側の一番前の席に座っている。景色が見える特等席だ。
生徒会メンバーは全員同じバス、通路を挟んだ反対側に浩輔と理那、後ろに直哉と真由の席を確保した。
バスの中は始まったばかりの修学旅行にみんなテンション爆上がりだ。バスガイドが挨拶をしてコミュニケーションを取りながら、これからの目的地について説明をしていく。
見慣れた景色から徐々に離れて初めて見る景色へと移りかわり、高速道路に入った。
一定のスピード感とリズムよく回るタイヤから伝わる振動。一華の瞼は重く垂れさがり、起きていようと抗ってみたものの逆らうことが出来ず、いつのまにか船を漕いでいた。
そんな一華に気付いたシンは、起こさないよう自分の左肩に優しくもたれ掛けさせた。
シンは昨日の一華を思い出す。高校から帰宅後に、急いでペットショップにサンを預けて、自分たちの旅行の準備に取り掛かった。深夜まで旅行バッグのパッキングをしていて、いつも寝る時間をとうに過ぎていた。魔力感知ではサンの事が心配で眠れないようだったが、今日は、アラームが鳴るよりも早く起きてきていた。
一華が眠ったことに後ろの席にいた真由がいち早く気付いた。
「……ふふ、寝ちゃったね。」
ジェスチャーで直哉に一華が眠っていることを伝え、静かにしていた。
隣の浩輔と理那も気づく。一華の声が全く聞こえないのだ。
浩輔が隣に顔を向けると、一華がシンの肩にもたれて寝息を立てている。理那に向けてシーっと口元に人差し指を立ててジェスチャーで静かにと伝える。
静かな時間が流れた後、バスガイドによりトイレ休憩でサービスエリアに寄ることが伝えられると、一華が目を覚ました。
「もうすぐ、トイレ休憩だ。」
「……うー、良く寝た。」
「昨日、一睡もできなかったようだな。」
「うん、サンちゃんが心配で。大人しくしてるかな。」
「大人しくしてないとお土産は無いと言ってるんだ。大丈夫だろ。」
「ふふふ、どうだろうね。」
サービスエリアに着いた。真っ先にバスから降りる一華とシン。浩輔、理那、直哉、真由も続いた。
トイレを済ました一華の目に飛び込んできた「ご当地ソフトクリーム」の看板。
「ソフトクリーム食べたい!」
「私も!」「賛成!」
理那と真由が即座に反応する。
お店の前についた一華は悩んでいる。
「何を悩んでいるんだ?」
「どの味にしよう? シン、どれにする?」
一華は半分こして別の味を注文するつもりでいる。
浩輔がシンに小声で「半分こはよせ。旅行中はまずいぞ。」と耳打ちされた。
「一華、半分こは無しだ。」
一華はシンの顔に向いて「えー」と不貞腐れるが仕方ない。半分こ出来ないならと二つの味が楽しめるミックスにした。
結局二人で仲良くミックスソフトを手に、バスへと戻っていった。
トイレ休憩を済ませた生徒たちはバスに戻り、一路、昼食へ向かう。
昼食を済ませた一行が到着したのは、歴史の教科書でも見た事のある古い建築様式の建物だ。修学旅行ではスキーや海外を目的地にしている高校もあるが、うちの高校は地味だ。古い建築様式の建物や、歴史にかかわる所をいろいろと回る。受験勉強に直結する生徒もいるため、割と熱心に聞いている。
シンも古い建築様式に興味津々だ。何の違和感もなく魔界人が修学旅行に参加していることは誰が見ても不自然に感じない。
だが、一華はまったく興味が湧かない。
「***(シン、興味あるの?)***」
「***(あぁ、素晴らしいな! 魔界の石造建築とはまた違う、遥か昔に木造でこんなに高い建造物が造れるなんて、この国の人たちはすごいじゃないか! しかも装飾もとても凝っている。)***」
「***(ふーん、そうなんだー)***」
「***(一華は興味はないのか?)***」
「***(昔の物に興味何て湧かないよ。こんな所より遊園地行きたい。)***」
「***(遊園地は明後日の予定だろ!?)***」
「***(毎日、遊園地でもいいんだけど……ねぇ、出たら、お団子食べたい!)***」
「***(一華は食べてばかりだな!)***」
「***(だって、ここに来なきゃ食べられないものばかりだよ! 食べなきゃ損損!)***」
「***(もう少しで出口だ。もう少し我慢しろ!)***」
順路を通って出口から出て来た一華とシンは、お団子屋さんへ一目散に向かった。
浩輔、理那、直哉、真由の四人は既に見終わって、座ってお団子を食べている。
「あー、もう食べてるー。」
「お前ら、遅かったな。」
「シンがじっくり見すぎなんだもん!お腹すいちゃった。」
「シン、私たちも早く!」
一華はシンを急かす。
「何味にしようかなぁ。王道のみたらしもいいけど、ごまも捨てがたい。粒あんもいいなぁ……、半分こ出来たらなぁ……。」
「半分こはできないが、両方買えばいい。食べきれないなら、後は引き受ける。」
「ほんと? じゃぁ、みたらしと粒あんください。シンはどれにする?」
「みたらしだな。」
「みたらし1本追加。」
一華は両手でみたらしと粒あんを受け取って、さっそくみたらしに一口かぶりつく。
「もっちもちー。美味しー。幸せー!」
シンは一華の何とも言えない幸せそうな笑顔を見つめて、自分もみたらしに一口かぶりついた。
「ほんと、もっちもちで美味いな。」
「お前たち、半分こしてないな。」
浩輔は監視しているような口ぶりだ。
「あぁ、半分こではない。一華が食べきれない分を引き受けているだけだ。」
「それも、半分こでは??? まぁ、いい。」
◇◆◇
宿泊先のホテルに到着した。チェックインを学年主任が行っているが、生徒会長であるシンが呼ばれた。
「3人室のエキストラベッド二つが破損していて用意できないらしい。その代わりにツインを1部屋別途用意してくれるそうだが、部屋割り変更できるか?」
「承知しました。俺と一華が移動します。」
学年主任の言葉にシンは淡々と答える。
「お前ら、兄妹だったな。悪いがそうしてくれ。」
全員が一旦集合し、夕食場所、明日の集合時間等を伝達した後、各部屋の鍵が渡されて部屋へ移動していく。
生徒会メンバーの男子部屋は浩輔が、女子部屋は理那が鍵を受け取った。
「エキストラベッドが用意されてない。俺と一華は別室になった。」
浩輔達四人はまぁ、兄妹だからと気にせず部屋へと移動していった。
一華はシンに促され部屋まで並んで着いて行く。浩輔達の部屋と近い。
一華は部屋に入りドアが閉まった事を確認すると、シンに詰め寄った。
「シン、魔力使ったでしょ。」
「あぁ、使った。一華と離れては護衛できないからな。何かあった時、お前の元に駆けつけられないし、壁を擦り抜けることもできない。これが一番いい方法だ。」
「……もう(笑)……、壊してないよね、ベッド。」
一華は冗談で聞いたのだったが……。
「……破壊した……。」
「ダメ! 絶対ダメ。いくら同室にしたいからって……人の物を破壊するなんて……元に戻せるんでしょ。元に戻せるんだよねぇ。」
一華はものすごい剣幕で怒っている。シンの耳に遠くの方で雷鳴が聞こえた。
「すまなかった。元に戻すから雷を落とすのだけはやめてくれ。」
シンは一度破壊してしまったベッドに魔力を集中させて、何も無かったように修復していく。
「ふーっ」
シンは修復を完了させた。
「ベッドは修復した。」
「あと、2泊も同室にするんでしょ。理由はどうするの? また破壊しないよね。こんなことなら最初から同室にしておけば良かったのに……。」
一華は一気に捲し立てる。
「一華が理那と真由の三人部屋を楽しみにしてたから……言い出せなかった。悪かった。」
「……そうだったね。前から護衛できないって不安視してたのに……、ちゃんと話せばよかったね。私もごめん。もうすぐ夕食の時間だから、帰ってきたら理由を考えよう。」
「あぁ」
◇◆◇
夕食も終え、交代でシャワーも済ませた。
「コンコン」
ドアのノックが響く。シンがドアを開けると、浩輔達四人が前に立っていた。
ドアを開けて入室を促すと、他の生徒もドカドカと数名なだれ込んできた。
「お、お前たち、どうしたんだ?」
「シン、みんなでトランプしようぜ。」
「俺たちは体育祭の打ち合わせを行う予定なんだが……。」
「夜まで生徒会のことしなくてもいいだろ。みんなで遊ぼうぜ。」
「シン、諦めろ! 今日はみんなでトランプするぞ!」
浩輔がシンを諦めさせる。
「トランプって何するの?」
「簡単にババ抜きでいいんじゃないか?」
「ババ抜き?」
シンはトランプも知らないが、ましてやババ抜きも全く知らない。
「じゃぁ、私とシンがチームになるよ。」
一華がシンに助け舟を出して、ルールを教えることにした。
シンは一華を男子から遠いベッドの端に座らせた。
トランプが配られ、シンが受け取ったトランプを覗き込みながら、
「カードは誰にも見せずに、同じ数字のトランプを2枚あれば捨てる。」
シンは手に取ったトランプを確認する。人数が多いためか、捨てるトランプが少ない。
「時計回りに隣のトランプを引いて、数字が合えば、さっきみたいに捨てて、手元から無くなれば勝ちだよ。最後までジョーカーを持っている人が負けね。」
「承知した。」
順番にトランプを引いていく。シンの順番が来た。隣のトランプから1枚引くのだが……。
シンは迷うことなく1枚トランプを引いた。ペアが出来た。捨てる。
また順番がやってきた。同じように迷うことなくトランプを1枚引く。同じ数字がある。二枚捨てる。
またまた順番がやってきた。隣の生徒は残り数枚のトランプを入れ替えたりして、シンに引かせる。それでも、迷うことなくシンはトランプを引いていく。ペアが出来て捨てていく。
何度か順番がやってきたが、結局、毎回ペアが出来て、一抜けた。
「***(シン、魔力で透視したよね。)***」
「***(あぁ、した。)***」
「***(それじゃぁ、ゲームにならないよ!)***」
「***(集中すると視えてくるんだ!)***」
「***(それじゃ、もう、仕方ないね。シンに勝負を持ちかけた男子の運が悪いね!)***」
結果は隣の男子が最初っから最後までジョーカーを持ち続けて負けた。
「全然、シンがジョーカー引かないんだよ。」
「リベンジだ。もう1回。」
またトランプを配っている。何回やっても結果は同じ、シンには見てなくても視えてくるのだから、仕方がない。
ジジ抜きやポーカーと他のゲームをしても、結局シンには視えてくるのだから負けるわけがないのだ。
男子はシンを負かすまで何回も挑むが結果は同じ、シンの圧勝だ。一華はルールを説明するが一度説明すると次からは説明不要だ。
一華の瞼が重くなって落ちていることに理那が気づいた。
「シン君、一華、もう限界だよ。」
「あぁ、今日はもう終わりだ。帰ってくれ。」
ゲーム途中だったが、みんなは自室に帰って行った。
シンは一華をベッドに横たえて、自分も隣のベッドに横たわった。
結局生徒会の打ち合わせも、一華と同室にするための理由を考えることも出来なかった。一華の寝息を聞きながら、シンも深い眠りへ落ちて行った。




