第94話 クレーム
球技大会のポスター掲示後、各クラスで球技大会における参加種目の割り振りが行われていた。
球技はフットサル(5人)(雨天:卓球)、バスケ(5人)、ドッヂボール(10人)の三種目。
交代要員を含めて、参加者を割り振っていく。
しかし、いつまでたっても決まらない。くじ引きを採用しようとするとブーイングが起こり、希望種目から一歩も引かない。
原因はほぼ全員がバスケを選択するからだ。数名はフットサルやドッヂボールを選択しているが、到底、試合が出来る人数じゃない。誰も他の種目への異動を譲らない。先生は困り果てて、2・3年の担任は持ち帰ることにした。
◇◆◇
職員室にて。
「市川先生、どうにかなりませんか?」
「どうされました?」
「球技大会の参加者ですが、バスケ以外参加者がいません。いても数名で試合になりません。」
「そうですか……。困りましたねぇ。」
職員室には、各学年の担任たちの悲鳴にあふれていた。くじ引きで決めようとすれば怒号が飛び、フットサルやドッヂボールは定員割れで試合が成立しない。困り果てて生徒会顧問の市川先生まで泣きついたのだ。
「私のクラスも同じです。バスケ以外手が挙がりません。くじ引きにするとブーイングです。」
「僕のクラスもです。」
「俺のクラスも同じです。聞き入れてくれません。」
「2・3年はバスケだけという事でしょうか?」
「全クラスかどうかはわかりませんが、ほぼではないでしょうか!?」
「1年は三種目割り振れていますか?」
「それがですね。どうも去年の事を全員知っているようで、ほぼバスケに参加希望出していて、フットサルはギリギリ、ドッヂボールは足りません。試合不可能です。」
「1年もですか……。ちょっと生徒会室行ってきます。」
◇◆◇
放課後、執行役員の六人と1年の五人が生徒会室で項垂れている。
原因はさきほど行われたホームルームだ。球技大会の参加種目の割り振りだ。自分達だけのクラスしか知らないが、バスケ以外は参加者がほぼいない状態らしい。
「どうして、こうなる……。」
シンは理由がわからない。
「バスケ以外は試合にならないぞ。」
「例年、三種目で開催してたんだろ、どうして今年はこうなるんだ……?」
「やっぱり、最後のエキシビジョンマッチでしょうか?」
宗一郎がつぶやく。
「生徒会チームとの対戦が原因となると、解決策って何?」
生徒会室のドアが荒々しく開け放たれて、市川先生が入ってきた。
「生徒会長、何とかしろ!」
「は? 何のことですか?」
「球技大会だ。バスケしか希望者がいないと他の先生からクレームだ!」
「3年もですか?」
「1年から3年までだ。フットサルは1年でギリギリ希望あるだけで試合は不可能だそうだ。」
「何とかしろと言われましても、こちらも先ほど報告を受けたところでして……」
シンは静かに思考を巡らせ、迷いのない声で下す。
「承知しました。球技大会は中止、今年度のみバスケットボール大会を開催します。各クラス2チーム出場、前半後半でメンバーを交代させて全員参加とする。これでいかがでしょう。」
「わかった。それで進めろ。」
「ありがとうございます。」
市川先生は職員室へ帰って行った。
「沙羅、ポスター作成しなおせるか?」
「はい。頑張ります。」
「くじとトーナメント表も作成しなおしだ。」
「「「「はい。」」」」
シンの即断即決に、新たな行事として手を進める。
「AグループとBグループに各クラス1チーム出場して最終的にグループトップで優勝決定戦、その後、生徒会チームとのエキシビジョンマッチか……。」
「生徒会チームは前半と後半で、メンバー交代できないぞ。」と浩輔。
「あぁ、メンバーが少ないからな。特別ルールは優勝決定戦までだ。エキシビジョンは該当しない。生徒会チームが勝っても、今年度の優勝チームは優勝決定戦で勝ったチームだ。それまでを大会とする。」
「バスケ希望しても対戦できるのは1チームだけだぞ。どうしてバスケを選択するんだ? サッカー部からはクレームが出てないのか?」
「部員同士で試合するわけじゃないし、実際はサッカー部にとってはつまらないのかもな……。」
(例年通り、決まっていたことをするだけが、こうもスムーズに運ばないとは……人間界は難しい……)とシンは感じていた。
「会長、トーナメント表の修正案です。」
宗一郎が修正案を報告する。表情は自信に満ちている。
「トーナメント表は2種目分を貼り付けて使います。くじは2種目分をそれぞれAグループ、Bグループに変更して使います。」
「わかった。ミス防止策と時間短縮策はどうなった。」
続けて、対応策の説明を行う。
「はい、各クラスのカードを2枚用意して裏側は両面テープを貼り付けます。Aの箱から引いたくじはA側のトーナメント表の同じ番号に先ほどのカードをその場で貼り付けます。」
「司会が呼んだ順番でくじを引くようにすれば、クラスとカードは一致させることができます。」
「司会1名、くじ引き応対2名、カード貼り付けに2名で対応可能です。」
「20日までに作成できるか?」
「カードを用意するだけですので間に合います。」
「いい策だ!採用する!」
「はい」
信頼を得た宗一郎の表情には更なる自信がみなぎった。
「ねぇ、前半・後半でメンバーを交代させたかどうかの判断はどうするの?」
一華は判断できるか不安だった。
「今のままだと性善説だな。」
「勝つために上手な奴だけを出すようになるだろうな…。」
「だが、校内の大会だ。「性善説」に頼るしかないな。」
更に続けるシン。
「メンバー交代は特別ルールだが守るチームもあれば、そうでないチームもあるだろう。正々堂々と勝つか、ルールを破って後味の悪い勝利を掴むか、それは個人の矜持に任せる。ただし、コート上には常に女子2名以上参加させることが第1ルールだ。これは厳守させる。」
「わかった。」
一華はシンの言葉に小さく頷くも、魔界人が人間の良心を信頼しようとしていることに驚いていた。
◇◆◇
20日の放課後、視聴覚室。もうすぐバスケットボール大会の対戦相手を決める抽選が行われる。
執行役員六人と1年五人は視聴覚室で準備を始めた。
Aグループのトーナメント表とBグループのトーナメント表を前の黒板に磁石でとめていく。
AグループとBグループのくじが入った箱を並べて置く。
呼び出す順番に各クラスのカードを並べておく。
クラス代表者が座る席を事前に決めておく。これで全クラス揃ったか確認可能だ。
司会進行は浩輔。抽選担当は真凛と沙羅、カード貼り付けは海斗と湊が行う。カードの用意は宗一郎。
シン、一華、直哉は見守り役とトラブル対応で控えることにした。
16時近くになり、ぞろぞろとクラス代表者と付添人が入ってくる。理那と真由が、クラス指定の席に着席するよう案内していく。
付添人は後ろの席に座ってもらう。かなり付き添いがついてきている。後ろまで席が埋まっている。
席を確認すると、空席は確認できない。全クラス揃ったようだ。
ドアを閉め、理那と真由も見守り役・トラブル対応として執行役員席に着いた。
抽選を始めるため、浩輔が開催を宣言する。
「ただいまより、バスケットボール大会の抽選会を開始します。…とその前に、今回だけ特別ルールを設けています。1試合のなかで前半メンバー、後半メンバーを総入れ替えしてください。全員参加がルールとなります。」
「は?」「総入れ替え?」「なんだ?」
室内がざわめき始めた。
「続いて抽選について説明します。呼ばれたクラス代表者は前に出て、Aの箱、Bの箱それぞれから、1つのくじを引いてもらいます。番号に該当する場所にその場でカードを貼り付けて行きますので、間違いがないか確認をお願いします。」
「それでは始めます。1年A組、前へ。」
1年A組のクラス委員が緊張した面持ちで前に出ていく。Aの箱から一つくじを引いて開く。「A:3番」真凛が読み上げる。海斗がAのトーナメント表に「1-A」のカードを貼り付ける。続いてBの箱からくじを一つ引いて開く。「B:8番」沙羅が読み上げる。湊がBのトーナメント表に「1-A」のカードを貼り付ける。
1年B組以降も、順番に抽選していく。対戦相手が決まるたびに「よっしゃー」「あー」と喜びの声や落胆の声が漏れる。
忖度は無く、自分たちの手に寄って対戦相手が決まっていく。公平なプロセスだ。
シンはそんな状況を見つめながら(お前ら、覚えてろよ…絶対許さない…)と闘志?を燃やしていた。
その隣で闘争心を感じ取った一華は、シンの背中をこっそりと擦って心を落ち着かせようとする。
「***(シン、落ち着いて。怖い顔になってるよ!)***」
「***(……あぁ、すまない。つい、な)***」
一華の温もりに、シンの強張った肩がわずかに緩んだ。
Aグループのトーナメント表
1組目の対戦「2-A」と「3-A」
2組目の対戦「1-A」と「3-B」
3組目の対戦「1-C」と「2-B」
4組目の対戦「3-D」と「1-B」
5組目の対戦「2-C」と「3-E」
6組目の対戦「2-D」と「1-D」
7組目の対戦「3-C」と「1-E」
「2-E」不戦勝
Bグループのトーナメント表
「3-A」不戦勝
1組目の対戦「1-C」と「3-D」
2組目の対戦「2-B」と「1-D」
3組目の対戦「2-B」と「3-C」
4組目の対戦「1-A」と「2-D」
5組目の対戦「3-E」と「2-C」
6組目の対戦「2-A」と「1-B」
7組目の対戦「3-B」と「1-E」
「これで、抽選が終わりました。大会当日までに特別ルールに則って作戦を練るなりしてください。お疲れさまでした。散会!」
浩輔が最後に解散を合図すると、クラス代表者は付き添いと合流して「明日から作戦会議だ」と帰って行った。
「終わったな……。」
シンが深く息を吐き出した。
「あぁ、これで当日までは落ち着くな。」
「そうだな。」
「それにしても、トラブルもなくスムーズだったね。」
「目の前で自分で引いたくじと同じ番号に自分のクラス名が貼られるんだ。文句の言いようがない。1年の準備のお陰だな。」
「あぁ、だが、俺のお陰でもあるぞ。」と浩輔。
「何でだ?」
「俺が新メンバーを募集したからだぞ。優秀なメンバーが集まったから、こうしてスムーズに行えたんだ。」
「あぁ、そうだな。お前のお陰で、クレームにも対応できた。感謝する。」
「おっしゃー!」
浩輔はガッツポーズをして喜んだ。
「浩輔だけじゃない。直哉、理那、真由、そして一華、お前たちにも感謝する。ありがとう。」
素直に感謝を述べるシンの姿に、メンバーたちは顔を見合わせて微笑んだ。
さっきまで闘争心でいっぱいだった心が落ち着きを取り戻してメンバー全員に感謝をするシンを一華は随分と人間らしくなったなと思っていた。
「さあ、片付けをして帰ろう。当日までは、少しゆっくりできそうだ。」
生徒会メンバーは校舎を後にした。




