第89話 クラブ紹介
二年生としての初日、今日は始業式の日だ。
生徒会役員の六人にとっては昨日に引き続きの体育館。簡単な校長の挨拶が終わり、新任教師が紹介された。
その後は、各クラブ活動の紹介が始まった。
各クラブの代表者たちは、新入生が興味を持つようなダンスやコント風、楽器演奏など、前年と同じように紹介していく。
昨日任せた通り、浩輔と直哉が進行を進める。打合せしてあったように軽妙なやり取りで会場は笑いと拍手に包まれていた。
全部のクラブ活動紹介が終わり、午後からはクラス委員の選出を行うだけだ。
「あいつらに任せて正解だったな。」と安堵していたシン。その矢先……だった。
「それでは最後に、本年度の生徒会執行部を紹介したいと思います。役員に選出された方はステージ上までお上がりください。」
「「はっ?」」
一華とシンは顔を見合わせる。
「***(一華、こんなの予定あったか?)***」
「***(うーん? 無かったと思うけど……。)***」
「***(あいつら勝手に……。)***」
「役員の方、早く上がってください。」
浩輔が催促する。困惑する二人を余所に、理那が「ほら、行くよ!」と一華の手を取った。シンは観念して、一華の後についてステージ上に上がっていく。
「これから、役員を紹介したいと思います。生徒会長の命により今日の進行を任されました、副会長の浩輔です。」
拍手があがる。
「そして同じく、副会長の直哉!」
直哉が一歩前に出て「副会長の直哉です。」と頭を下げる。拍手があがる。
「次は書記、理那と真由!」
理那が一歩前に出て「書記の理那です。」と頭を下げた後、真由が一歩前に出て「同じく書記の真由です。」と頭を下げた。拍手があがる。
「次は会計、一華!」
一華も一歩前に出て「会計の一華です。」と頭を下げた。拍手があがる。
「そして最後に、我らが生徒会長――シン!」
割れんばかりの拍手が巻き起こる。上級生からは「待ってました!」と言わんばかりの熱狂に、新入生達は呆気に取られている。生徒会長を目にするのは昨日に引き続きだったが、昨日と打って変わって、この異常な上級生の反応に驚いていた。しかし、いつのまにか一緒になって歓声の渦に交じっている。
シンは浩輔の方を向いて睨んでいた。
「お前…あとで覚えてろよ。」
シンが浩輔に向けた言葉は歓声にかき消されて誰の耳にも届いていなかったが、一華だけは脳内で響いていた。
「***(シン、落ち着いて。シン以外の役員は新入生への紹介は必要だったんだから……。)***」
「***(それにしても、やり方があるだろ……)***」
「***(昨日、浩輔に任せたんだから、こうなることは予想してなくちゃいけなかったんだよ!)***」
「それでは、生徒会長からの挨拶です。」
また、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
シンは諦めて、マイクを直哉から受け取り、ステージ中央に立った。
「改めて、生徒会長のシンです……。」
やっぱり怒りが治まらないシンはいつもの口調に戻る。次期魔王候補然とした顔つきになり、冷淡に言い放った。
「俺は職務を全うするつもりだが、優先事項はここにいる一華を守ることだ。俺の任務は、一華を無事に卒業させ、親元へ連れ帰ることにある。一華が傷つくようなことがあれば、退学してでも即、一華を連れて帰る。……それを踏まえて、1年間よろしく。」
シンは新入生に向けて就任演説そのままを口にしていた。
一華は顔を両手で覆い隠して逃げ出したい気分だ。
初めて聞く口調、衝撃的な内容に新入生は驚きのあまり声にならない。既に就任演説で事情を知る2、3年生からは拍手と歓声、冷やかしの指笛も聞こえる。新入生もパラパラと続いていった。
シンは頭を下げた後、後ろに下がった。
「生徒会長でした! それと、生徒会の人員を募集します。放課後、生徒会室で待ってる。これにてクラブ紹介終了! 散会!」
浩輔が強引に締めくくった。
浩輔にしてやられた……。進行は任したが、まさか、生徒会紹介まで予定に組み込むとは思ってなかった。
(本当は生徒会長に立候補したかったんだから、仕方ないか……いや、でも、事前に一言あってもいいだろ!)
やっぱり、シンの怒りが治まらない。
◇◆◇
お昼休み、生徒会室に集まった六人の間というよりかはシンと浩輔の間には、微妙な空気が流れていた。。
「浩輔、お前、何てことをしてくれたんだ……。」
お弁当を食べながらシンが浩輔に詰め寄る。
「シンは入学式の時に済ましたが、俺たちも新入生に挨拶が必要だろ。」
「それにしても、別に事前に言ってもらえれば……というか、俺は必要ないだろ!」
「入学式の挨拶はいつものシンじゃないだろ。ただの例文を暗記しただけだろ!」
一華が昨日こぼした言葉で浩輔がシンを追求した。一華はシンに向けて両手を顔の前で合わせてごめんのポーズをする。
「そ、そうだが……。」
浩輔に詰められていつものシンがタジタジだ。
「それに、新入生はお前と一華の関係知らないんだぞ! 知らないやつが、うっかり一華を傷つけたり、シンに不用意に近づいたりしたらどうなる。無知は罪で、危険なんだろ。回避策として周知させるためだ。シンから直接言わせるために、お前たちには知らせず、生徒会の紹介を最後に入れた。」
「ぐっ……」
論理的に追い詰められる次期魔王候補のシン。
「俺がまんまと乗せられたわけか……。」
項垂れる。完敗だ。
「あぁ、想定した通りだ!」
どや顔の浩輔。いつもと逆転している。
「ところで、生徒会員募集ってのは必要ないだろ! 何の役員が必要なんだ?」
「俺たちは執行役員だが、募集人員は一言で言えば『手足』だな。」
「手足?」
「あぁ、指示通りに動いてもらって、状況を詳細に把握できれば、効率的に動けるだろ! シンは引継ぎを受けた際に、最終的に自分で全て判断、行動するつもりだったろ。」
「あぁ、実動部隊か! 情報さえあれば即座に判断は可能だからな。」
「俺たちが動いても1年や3年の情報は手に入れにくい、そうなると、シンが直に動いてしまう。一華はどうなる。その間、一人だぞ。俺たちも出て行ってしまうと完全に一人だぞ。俺たちが動けない時、アンテナを張る後輩が必要なんだよ」
シンは一華の顔を見つめる。あの頃の一華とは状況は異なっているが、一人にすることはしたくない。
「だから、俺たちの手足となる人員、実動部隊を募集した。1年生なら次期生徒会役員に立候補してくれるかもしれないし。」
「そこまで考えてたのか…。」
「昨日、一華とシンが帰った後、四人で策を練った。」
「お前たちも知ってたのか???」
シンは直哉、理那、真由の顔を見渡す。
「うん、騙すようなことになってごめんね。」
理那は浩輔の代わりに謝る。いいコンビだ。
「実動部隊となる人員が現れなかったらどうするんだ!?」
「誰も来ないとは思わないけど、適材かどうかは全員で確認だな。」
「恐らく、シン目当てだ! それでもいいんだが、一華と相性が悪いと採用しない。」
「当たり前だ。そこは譲れん!」
一華は良い人材を自分の好き嫌いで判断することができるのか、共感してしまったらどうなるんだろうと不安を感じていた。
そんな話をしているうちにお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
◇◆◇
午後からは各クラスに戻って各委員の選出が始まると、前年にはない新たな動きが出ていた。
1年生のあるクラスでは各委員選出中に女子生徒が手を挙げていた。
「生徒会を手伝いたいので各委員から外してください。」
「あなただけですか?」
「私も各委員から外してください。」「私も」「私も」と女子生徒数人が手を挙げて行く。
他の生徒だけでクラスの各委員を決めて行った。
他のクラスでも生徒会を手伝いたい生徒が希望を口にしていた。
「生徒会員希望なので、委員は辞退します!」
新入生達の中には、中学時代の生徒会とは異なる雰囲気、カリスマ的な生徒会長に惹かれている生徒が出始めていた。
午後の日差しが差し込む中、一華は「早く終わらないかな」と退屈な選出時間をやり過ごしながらも、明日から始まる「新しい生徒会」の予感に、少しだけ胸を高鳴らせている反面、眠気と闘っていた。




