第88話 入学式
一華とシン、浩輔、直哉、理那、真由の六人は学校に一足先に来ていた。
今日は入学式だ。1年前、不安と期待に胸を膨らませてこの門をくぐった一華とシン。今はその胸に、生徒会役員としての誇りと責任、そして少しの緊張を抱いていた。
生徒会役員に選出されて卒業式は旧生徒会のお手伝い程度だったが、入学式では自分たちだけで行う本格的に生徒会を始動するのが今日。実際、式典運営は先生達が行うが、サポートという立場だ。
一華の感情は安定しているが、足手まといにならないよう緊張しているせいもあり、快晴というわけではないが晴れと言えるぐらい青空が見れる。
今年のソメイヨシノは早くに満開を迎えて散り始め、少し葉桜になっている所も見える。
生徒会室に集まった六人は、これから始まる入学式に備えて、役割を確認した。
「基本的には新入生の誘導係だな。」
「新入生を教室へ誘導する係と、保護者を体育館に誘導する係だな。二手に分かれるか。」
「シンは生徒代表挨拶は大丈夫なのか?」
「あぁ、式典が始まるまではサポートに回る。」
「三班に分かれた方が良くない? 校門のところで迎え入れて案内した後、校舎で新入生を誘導する班と保護者を体育館で誘導する班の三班。」
一華が提案する。
「そうだな。シンと一華は体育館で保護者を誘導してくれ。誘導した後は新入生が入場する前に舞台袖に隠れてくれ。」
浩輔が仕切りだした。
「どうして隠れるんだ?」
「新入生がシンを見たら、その場所から動かなくなるだろ。だから、校門と校舎の誘導も俺たちがする。」
「悪いな。新入生が来る前に移動しておく。」
「そうしてくれ。校門は俺と理那、校舎は直哉と真由でいいか?」
「「「ラジャー」」」
もうそろそろ、新入生たちが通学してくるころだ。
一華とシンは、校門を避けて裏道を通って体育館に移動する。体育館では保護者を迎え入れるが、履いていた靴は持参した袋に入れてもらい、持参したスリッパに履き替えてもらう。その後、保護者席の前から詰めてもらうよう案内するぐらいだ。
特に一人ひとり応対する必要はなく、何か聞かれれば答える程度だ。
一華とシンは今か今かと保護者を待ち受ける、この状態が少し緊張する。
「***(シン、代表の挨拶文、暗記できたの?)***」
「***(あぁ、一応、暗記はした。)***」
「***(どんなこと言うの? 保護者もいるんだから、生徒会長選出時の挨拶のようなのはやめてね。)***」
「***(そこは承知している。さすがに、あれはない!)***」
「***(よかった。でも、いつのまに文章暗記したの? 私の前では一度もそんな素振りしてなかったのに。)***」
「***(自室で寝る前にスマホで適当なのを探して暗記した。)***」
「***(魔力で暗記しないんだ!?)***」
「***(ちゃんと暗記した! まぁ、忘れた時は適当に魔力で繋げるさ!)***」
「***(やっぱ、保険かけてるんだ!)***」
「***(保険?)***」
「***(困った時の頼みの綱というか……魔力のこと。)***」
シンの口元がわずかに綻んだ。
一華とシンがテレパシーで会話をしていると、徐々に保護者達が体育館に入ってきた。
一華とシンは「おはようございます。ご入学おめでとうございます。」と歓迎の挨拶で保護者を迎えて行く。
体育館内では新入生の担任以外の先生たちが行ったり来たりと準備の最中だが、保護者達は徐々に集まってきた。
校門では浩輔と理那が、「おはようございます。ご入学おめでとうございます。」と歓迎の挨拶で新入生たちを迎え入れ、校舎に誘導していった。
自分たちの時と同じように写真撮影している新入生たちには、撮影終了後に保護者は体育館に、新入生は校舎へと誘導していく。
玄関前にはクラス発表が貼り出されている。
新入生たちは自分の名前を確認すると、目指す教室をキョロキョロと探し出す。
友達と同じクラスになれた生徒や離れてしまった生徒など、一喜一憂して賑やかだ。
そんな生徒たちを、直哉と真由は、1年生の教室へと誘導する。三班の中で一番大変そうだ。
校門ではほとんどの新入生が校舎内に入り、保護者も体育館に案内出来たようで、人がいなくなった。
浩輔と理那は体育館へと移動し、一華、シンと合流した。
「シン、一華は俺たちに任して、舞台袖で隠れてろ。」
「一華は……、理那と一緒にいろよ。」
「わかった。一緒に居るから、挨拶頑張って!」
「あぁ」
シンは新入生が入場してくる前に舞台袖の部屋に入っていった。
直哉と真由も新入生の誘導が終了したようで、体育館に移動して三人と合流した。
「なんか、もう疲れてるように見えるんだけど……大丈夫?」
一華は真由を心配する。
「新入生がクラス発表の前で一喜一憂してるところを誘導するんだ、疲れたよ。」
代わりに直哉が説明する。
「うん」
「お疲れ様。大変なところ受けてくれてありがとうね。」
一華は二人を労う。
「シンは?」
「登壇するまで舞台袖の部屋に隠れてる。」
「挨拶大丈夫なのか? 生徒会長選出時の挨拶みたいなこと言わないよな!?」
「そこは確認した。どこかの例文を暗記しているみたい。」
「なら、大丈夫か。」
「うん、私たちも端っこに椅子持ってきて座って見ようよ。」
「そうだな。生徒会長が暴走しないように見張るか。」と浩輔。
「そんなこと言ってると後で痛い目にあうかもよ。」
理那が浩輔を脅かす。
「告げ口するなよ。」
直ちに口止めする浩輔。
そんなやりとりを見ている一華、真由、直哉はまた「じゃれ合い」が始まったと言わんばかりに無視を決めて座っている。
一方、教室では出席番号順に並んだ新入生たちが、A組から体育館に向けて出発していた。
いよいよ、入学式が始まるのだろう。先生や来賓たちがステージ上に集まり、椅子に座りだしている。
生徒会長席もステージ端の方に用意されており、シンが座っている。
浩輔と理那もじゃれ合いは終わり、大人しく座った。
一華を中央に左側に理那、浩輔、右側に真由と直哉の順で座り、シンに言われた通り守られた形だ。
音楽が鳴り始め、真新しい制服に身を包んだ新入生たちが、緊張した面持ちで入場してきた。
入学式式次第が順に進んでいき、いよいよ「在校生による歓迎の言葉」の番がやってきた。
司会の声に導かれ、シンがゆっくりと演台へと歩いてきた。一華は、理那たちと並んで会場の端で固唾を飲んで見守っている。
新入生の席が、ざわつき始めてた。まだ、隣は知らない生徒同士ということもあり、一人ひとりからの口からこぼれた言葉が重なりざわついているのだ。
いよいよだ。一華は心配でじーっとシンを見つめいてる。
シンは一華達が座っている所を確認すると、深呼吸した後、歓迎の言葉を口にしだすと、一気に静まり返った。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。在校生を代表して、心より歓迎申し上げます。」
シンの声は、深く、凛としていた。
「……高校生活は「自分の意志で考え、行動する」場面が格段に増えます。
失敗を恐れず、興味を持ったことにはとことん挑戦してください。時には壁にぶつかることもあるかもしれません。そんな時は、私たち先輩や先生方を頼ってください。一人で抱え込まず、相談すればきっと新しい道が開けます。」
生徒会長選出時の挨拶時の冷淡な態度とは打って変わって、初々しい後輩たちを導く言葉を紡いでいる。一華は誇らしく胸が熱くなるのを感じると、やがて澄み渡るような青空を覗かせていた。
「皆さんのこれから始まる三年間が、夢中になれることを見つけ、成長できる濃密な時間となることを心から願っています。皆さんと共に過ごせる日を楽しみにしています。
簡単ではありますが、歓迎の言葉とさせていただきます。
〇年4月7日
在校生代表 生徒会長 ***シン」
歓迎の言葉が言い終わると、一瞬の静寂の後、割れんばかりの拍手が巻き起こり「あの人が生徒会長かぁ」「シン先輩……かっこいい」と、新入生の囁きが一華の脳内に届いてきた。
シンは頭を下げて静かに元の席に戻って行った。
司会の先生が次の「生徒名と担任の紹介」に進めて行くと、拍手も鳴り止み、新入生も静かにしだした。
暴走することなく、無事に終わった生徒会長初めての仕事を終えたシンを見つめる生徒会席の一華はほっとしていた。
全員の名前と担任の紹介が終わると閉会の儀となり、退場の音楽が鳴りだすと新入生は教室へと戻って行った。
シンがステージ上の椅子を片づけ始めたのを見て、一華達も椅子を片づけるのを手伝う。
明日の始業式に備えて、体育館内を片づけて置く必要があるが……、パイプ椅子の量は半端ない。
「シン、お疲れ様。」
「あぁ、一華もお疲れ様。」
「***(この片付け面倒だな。誰もいなけりゃ魔力でやれば一瞬なんだが……。)***」
「***(面倒でも魔力使わないでよ。)***」
「***(承知した。終わったら、新しいクラスでも見に行くか!?)***」
「***(うん、みんなで行こう!)***」
新入生の担任以外の先生と生徒会役員六人でも、片付けには時間がかかった。
生徒会役員の六人は一度集まった。
「この後、2年の教室見に行かないか?」
シンが提案すると浩輔が賛同する。
「自分達のか? 行こう!」
「クラス発表貼られてるかな?」
「どうだろうね。」
六人は校舎内に入り、2年の教室がある2階に上がっていった。A組から順に見て行く。既にクラス名簿が貼りだされていた。
A組は医学部や薬学部などの医歯薬クラスだ。浩輔と理那の名前がある。
B組はその他の理系クラスだ。一華、シン、直哉の名前があった。
C組は難関大志望の文系クラスだ。真由の名前があった。
D組、E組はその他の文系クラスだ。
最終面談で希望した通りだったことに安堵した一華とシン。これで2年、3年は一緒のクラスだ。
真由だけが一人だけになる。
「明日から、お昼休みは生徒会室集合な。」
浩輔がみんなに言う。生徒会長をさせても充分、力はあるのだろう。
「始業前に一度、生徒会室集合して、クラブ紹介の事前確認するぞ。」
「明日は、浩輔が進めてくれないか?」
「ん? どうした?」
「俺が前に出ると、生徒が騒がしくなる。」
「まぁ、それは仕方ないことだが……。別に構わないが、これからも前に出ないのか?」
「別にいつも前に出なくても、今回みたいに生徒会長挨拶の時だけで良くないか? ここぞという時には睨みを利かせる。」
冗談のようなシンの言葉に六人は笑い出した。
「なら、俺と直哉で分担するか。」
「あぁ、そうしてくれ。助かる。直哉もよろしくな。」
「わかった。任せてくれ。」
「今日はもう解散するか。」
六人は校舎を出て帰路についた。
帰り道、一華はシンに
「シン、今日の挨拶、本当に素敵だったよ!」
「そうか? 一華の感情安定のため言葉選びは気を使ったからな。」
「私のため? 生徒会長だからじゃないの?」
「違う!いきなり雷鳴が轟くことが有ってはならない。」
「じゃ、私がいる限り、優しい生徒会長でいられるんだね。」
「一華が笑顔でいる限りだ! 前言った通り、何かあれば即退学、魔界に戻る。」
「はいはい、シンが優しい生徒会長でいられるように明日からも笑顔で楽しもう!」
一華は右手の拳を青空に向けて掲げた。シンも続いて天に向けて拳を突き上げた。




