第86話 誕生日
「一華、もうすぐ誕生日だろ、何か欲しいものあるか?」
「えっ? プレゼントくれるの?」
「あぁ、何がいい?」
「今回は私の思考、読まないの?」
「読めないだろ。考えてないようだったぞ。」
「それって読んだって言うんじゃないの?」
「読んだ時には考えてなかったから、わからなかったと言えばいいか?」
「もう(笑)、それだと、プレゼントのことしか頭にないような感じだよね、私。」
「そうか? それで何が欲しいんだ?」
「シンだって次の日なんだから、プレゼントは無しで一緒にしない?」
「プレゼントはいらないのか?」
「うん、プレゼントの代わりに焼肉食べ放題に行きたい。」
「焼肉かー、 1年振りだな!?」
「うん、シンは誕生日に何食べたい?」
「寿司だな。」
「なら、回転寿司に行こうよ。」
「寿司が回転するのか???」
シンの頭の中では空中で寿司が回転する様子を想像している。
「うん、1日は焼肉食べ放題で、2日は回転寿司にすると、お腹大丈夫かな???」
一華の頭の中では寿司がレーンに乗って回ってくることを想像していて、シンと噛み合ってないことは気づいていない。
一華が詳細な説明を省いて疑問は晴れずにいたが、シンは行ってみて確認することにした。
「鍛錬すれば食べた分は消費されるから大丈夫だ! ランチタイムに行って、歩いて帰ってくるだけでかなり消費されるだろ。」
「ランチタイムの焼肉食べ放題って、限られるよね、あるかな?」
「ランチタイムにやってないのか?」
一華はスマホで「ランチタイム 焼肉食べ放題」で検索した。ヒットしたのは1件だ。
「あったよ。駅の地下街に1件、ここ行ってみようよ。」
シンもスマホで「ランチタイム 回転寿司 食べ放題」で検索した。同じくヒットしたのは1件だ。
「ここから遠いな、ここら近辺には無い。」
「回転寿司は食べ放題じゃなくてもいいんじゃない? 好きなものをゆっくり食べようよ、お腹いっぱい!」
「そうだな。」
◇◆◇
4月1日、今日は一華の誕生日を祝うため、一華とシンは駅の地下街に向けて歩いている。
ランチタイムの焼肉食べ放題を予約済みだ。
学生にとっては休みでも働いている人たちには短いお昼休憩に外食に来ているなか、一華とシンは、予約した名前を言って席に案内された。
一華は一通り肉を注文して「それと、玉子スープ、キャベサラ、ルイボスティーかな。シンは何にする?」
「俺は、旨塩キャベツ、ワカメスープ、黒ウーロン茶を追加。」
店員は注文を受けたと思ったら、すぐにドリンクが運ばれてきた。スープとサラダも後から運ばれてきた。
一華とシンはドリンクを持って、まずは乾杯だ。グラスを高く上げて合わせる。
「一華、誕生日おめでとう!」
「ありがとうって、誕生日に言う言葉、知ってたんだ!?」
「誕生日とは何をするのか浩輔達に聞いた。」
「いつのまに……。でも、聞いてくれてたお陰でお祝いしてもらえた。ありがとう、シン! いつも春休みだから、友達にお祝いしてもらった事ないんだよね……。」
「そうなのか? これからは俺が毎年、祝ってやる!」
「うん、ありがとう!」
一華は満面の笑みでルイボスティーを、シンは黒ウーロン茶で乾杯した後、一華は玉子スープを、シンはワカメスープを一口啜ると、じんわりと温かさが染み渡る。
「あ~、染みるー。美味しいー。」
「美味いな。味噌汁以外もいいな。」
「うん、家で作るなら、インスタントの方が美味しいかも……。ここまで美味しく作る自信ないよ。」
注文したお肉が次々と運ばれてくる。テーブルいっぱいにお皿が並んだ。
「まずは、塩タンから……。」
一華は網いっぱいに並べる。
「シン、焼けたら次々食べてよ。」
「承知した。」
一華はお肉を網に並べながら、
「今日ってエイプリルフールなんだよ。」
「エイプリルフール? って何だ?」
「今日一日、嘘をついてもいい日なの。」
「嘘をつくのか?」
「うん、その代わり、相手を傷つけない「他愛無い嘘」や「罪のない嘘」で人を笑わせて楽しむのが基本!」
「本気の嘘はダメという事か。」
「うん。何か嘘ついてみる?」
「断る。罪のない嘘だとしても、俺が一華につく嘘などこの世に存在しない。俺が言うことは、すべてが真実だ。」
シンの純粋な言葉に、一華は「……もう、シンは真面目すぎるよ。」と照れ隠しに肉をどんどん焼いていく。
話しているうちにどんどん肉に火が通る。焼けた塩タンからシンと一華は箸を伸ばす。
食べ終わると、塩とタレを半々で焼いて行く。どんどん食べ進めていき、あっという間にお皿が空になった。
「シン、何頼む?」
「塩タン、ハラミ塩、ロース塩だな。一華は?」
「ロースタレ、カルビタレ、〆にビビンバとルイボスティー」
「もう〆か?」
「もうお腹いっぱいー。」
「じゃぁ、俺もビビンバに黒ウーロン茶追加。」
店員を呼んで追加注文する。
注文したお肉がテーブルいっぱいに並び、焼いていく。
焼ける間にビビンバを食べながら、ゆっくりと頬張った。
食べ放題の時間が終わる頃には、二人はもう一歩も歩けないほど、お腹も心も満たされた。
終了時間になり支払いを済ませて、お店を出て行く。
「食べた、食べた。お腹いっぱーい。もう食べられないよー。」
「一華、このまままっすぐ帰らず、ちょっと遠回りして帰ろう。」
シンも一華以上にお腹いっぱいになっていてカロリー消費が必要だった。
「そうだね。明日に備えて、カロリー消費しなくちゃ。」
一華とシンは、以前行った事のある繁華街先にある公園経由でぐるっと回って帰ることにした。
この前来た時は休日だったが、今日は世間的には平日の昼間だ。そこまで人通りは多くなく歩きやすい。
公園では桜が満開だ。この公園でもぼんぼりが飾られていた。
「ここも桜満開だね。」
「どこもかしこでも花見をするんだな。」
「そうだね。春を感じられるからかな。この国では4月がスタート月だから。あっちでは、スタート月ってあるの?」
「新年を祝ったりすることはあるが……他には特にないな。学校もないしな。」
「どうやって、知識を得るの?」
「魔力覚醒の教室的なものはあるが、毎年入学するというようなものではない。集めて、教えて終わりを繰り返す。」
「そうなんだ……。」
一華はこれ以上話を続けることが出来なかった。学校もない魔界で自分の子供がどう知識を得て行くのかが想像できなかったからだ。
その後は他愛もないおしゃべりをしながら、遠回りしてマンションまで帰って行った。
◇◆◇
今日、2日はシンの誕生日を祝うため、回転寿司へと出掛けて行く。目的地は繁華街の方に位置しており、少し早めに出て来た。
世間的には平日のため、昨日と同じように人出はそこまで多くない。すぐに席にも座ることが出来た。
ボックス席を選んだ。
シンはどうやって回転する寿司を食べるのかワクワクしている。
一華はタブレットを操作し、自分の食べたい寿司を選びながら
「シンは何が食べたい?」
「マグロが食べたいな。」
一華は赤身やトロ、炙りなど、マグロの全種類を注文していく。
「他には?」
「エビにイカ、穴子……、他は適当に注文してくれないか!?」
「いろんなの食べたいよね。1皿ずつ注文するから、また食べたかったら注文するでいい?」
「あぁ」
最初に注文していたお寿司が横のレーンに乗って席の前で止まった。一華はお皿を取りテーブルに並べて行く。
「一華、寿司はどうやって回転するんだ?」
「??? あぁ、回転するのはお寿司が乗っているレーンで、適当に並べられたお寿司が回ってくるから、好きなネタが来たらお皿ごと取って、食べるんだよ。」
「寿司が回転するわけじゃないのか!?」
「シンはどんな想像していたの?」
「寿司が空中で回っているもんだと思っていた。それをどうやって食べるか疑問だった。」
「あははは、まぁ、言葉だけ聞けばそう思うよね。」
「しかし、この方法は効率的だな。」
シンはマグロを頬張りながら感心していた。
「注文した物だけがレーンに乗って回ってくる分には効率的だけど、これ以外にも誰でも取れるように乗ってるお寿司は効率的かどうか疑問だけど……誰も取らないお寿司もあるわけで……。」
「誰も取られなかったお寿司はどうなるんだ?」
「どうだろう……また、回ってくるのかなぁ? それとも、引き上げて代わりに新しいお寿司が乗ってくるのか……店員さんしか知らないよね。きっと。」
「あ、遅くなったけど、シン、お誕生日おめでとう。」
一華はシンに向けてウーロン茶を高く上げてお祝いを言う。シンも箸を置いて、ウーロン茶を一華のグラスに合わせる。
シンの本当の誕生日は今日ではないため、お祝いの言葉が無くても気にしていなかったというか忘れていた。
「ありがとう。」
「シンの本当の誕生日って聞いて無かったよね。いつなの?」
「……本当の誕生日……か。知ってどうする……。」
シンの声のトーンが低くなった。
「えっ? 知らない方がいいの???」
お店の外の空には薄い雲が集まってきている。
「人間界では4月2日という事にしている、他に誕生日があると面倒だろ。」
「でも、昨日エイプリルフールの時、一華につく嘘などこの世に存在しないって……。」
更に雲の層が厚くなってどんよりとしてきた。
「これは嘘ではない。ここ人間界にいるためのルールだ。」
「わかったよ。もう聞かない。でも、魔界に行ったら本当の誕生日と年齢、教えてよ。」
「……承知した。」
一華はシンが頑なに誕生日を教えてくれないことが気になったが、追及することをやめた。
少し、沈んでいた空気感をあげるため、タブレットに向かった。
「シン、サイドメニュー注文しない?」
「何があるんだ?」
「麺類や天ぷら、茶わん蒸しにスイーツなんかあるよ。」
「天ぷらと茶わん蒸し食べたい。」
一華はラーメンと天ぷら、茶わん蒸しを注文した。
他のお寿司を頬張っているとラーメンが運ばれてきた。一華は麺をすする。
「うわぁー、このラーメン美味しい! シンも食べてみて。」
一華はラーメンをシンに手渡す。シンは頬張っているお寿司をウーロン茶で胃の中に流し込んだ後、麺をすすった。
「美味いな! 俺ももう一杯頼みたい。」
一華はシンの綻んだ顔を見て、さっきの沈んだ空気感が晴れた気がした。タブレットで同じラーメンを注文する。一緒にパフェも注文した。
さっきまで厚い雲の層が店の外に集まってきていたが、徐々に隙間から晴れ間が見えてきた。
その後もシンは天ぷらに茶わん蒸し、ラーメンに、その後もトロなども注文して、お腹いっぱい堪能した。
「シンのお腹のどこに、あれだけのものが入っていったの?」
一華はどこにあれだけの物が入って行くのかと心配するぐらい堪能していた。
「鍛錬をすればすべて消費される。気にするな!」
「じゃぁ、来年も、こうしてお腹いっぱい食べようね、シン。」
「あぁ。再来年も、その先もずっとだ!」
スイーツも完食しカロリー消費をするため、一華とシンは今日も遠回りをしてマンションまで帰っていった。
外に出ると厚い雲の層はなくなり青い空が広がってきていた。




