第46話 待ち合わせ
一華の魔力暴走のあった翌朝。シンは夜が明けきる前から起きて、一仕事済ませて来た。少し寝不足気味だ。
一華はぐっすりと熟睡できたようで、すっきりした顔で朝食を済ませていた。
特に何をするでもない時間を過ごしていた時。
一華のスマホから「ピコン♪」、シンのスマホからも「ピコン♪」ほぼ同時に通知音がした。
二人はそれぞれ、スマホを確認する。
一華はメッセージを開く。理那からだ。
「今から会えない?」
シンもメッセージを開く。浩輔からだ。
「今から会えないか?」
一華は理那からのメッセージをシンに見せながら、「会ってきてもいい?」と確認する。
シンも「俺もだ。」と浩輔からのメッセージを一華に見せる。
「ん?」
「何があったんだ?」
一華は昨日会った時は、ラブラブそうだった二人が、それぞれに会いたいとメッセージを送って来たことに、違和感を感じた。
(もしかして原因は私?)
「どうする? 別の店でそれぞれ会うか? それとも四人で会うか?」
「それぞれにメッセージ送ってきたんだから、別の店で会う方が良くない?」
「そうだな。あぁ、鉢合わせしないように少し離れた駅の地下街でも指定するか?」
「そうだね。浩輔はあの住宅街でしょ。シンと西口近くで会って、理那は東口付近がいいかな。」
シンと一華はスマホで駅の地下街のマップを確認しつつ、目的地の確認をする。
「それから、上の階で『アートアクアリウム展』してるから後で待ち合わせしない?」
「いいな。二人も一緒に合流するか?」
「それなんだけど、別々に会っている時、テレパシーで繋がってもらってていい?」
「なんでだ?」
「なんとなく。内容によっては浩輔の事も知っていた方が良いような感じがする。」
「シンも理那の事も知っていた方が良いと思うの。」
「わかった。ただし、俺が知らない方が良いと思うなら切っていいからな。俺もそうするし。」
「うん。そうする。」
「じゃぁ、今からならランチにするか。お店指定して返信するぞ。」
「うん、ランチしながら話を聞くことにして、内容によっては『アートアクアリウム展』で四人合流という計画ね。」
「あぁ」
一華は理那宛てに、東口のカフェを指定し、シンは西口のカフェを指定してメッセージを返信した。
一華は『アートアクアリウム展』のデートもとの想いからかわいい服に着替えた。
二人からOKの返信が来た。
一華とシンは駅までは一緒に行き、地下街に入ると、別々の指定したお店へ分かれて向かう。
シンは一華の待ち合わせのトラウマが気になり、一華の待ち合わせが無事合流できるところまで護衛したかったが、一華に遅刻するからと言われて仕方なく、自分の待ち合わせ場所に向かって歩いて行った。
「***(一華、一華聞こえるか?)***」
「***(うん、聞こえてるよ。)***」
「***(理那と合流したら、合図しろよ。)***」
「***(うん、わかった。)***」
一華は理那と待ち合わせする東口近くのカフェへ歩いていく。
今日はシンと初めて、離れてランチをする。本当は不安で仕方なかった。
◇◆◇
一華は待ち合わせ場所に着いた。お店に入ると、既に理那は席についていた。
「***(無事、理那と合流したよ。)***」
「***(わかった。)***」
「ごめん、待った?」
「一華ごめんね。待ち合わせさせちゃって。」
「ううん、大丈夫。お腹すいたから、先に注文しよ。」
「そうだね。パスタが美味しいらしいよ。」
「じゃぁ、夏野菜の冷製パスタで。」
「私もそれで。」
店員さんを呼んで、夏野菜の冷製パスタを2人分注文する。
「どうしたの? 私に会いたいって?」
「うん……昨日さぁ」
「***(やっぱり昨日の事かぁ)***」
「一華と別れてから、家に送ってもらってたんだけど……」
「うん」
「あれから、言い争いしちゃって……」
「もしかして私の件?」
「……うん、浩輔がシンに怒っちゃって、『遊びで言っただけの事に、言い方がひどすぎる、一華が可哀想だ。』って。」
「……」
「私は、『シン君は一華の護衛役だから、一華を想って正したかっただけなんじゃない?』と反対意見になって……」
「……」
「一華とシン君の仲を取り持つような事をしようと思ってたのに、……自分たちの意見が分かれて……」
店員さんが注文したパスタを持ってきた。
二人はパスタを食べながら、話を続けた。味わう余裕はなかった。
「ごめんね。私が正直に話しちゃったから……」
「違うの。一華は悪くない。私が無理やり言わせたんだから……。私の方が謝らないといけないのに……」
「昨日、シンとちゃんと話したんだ。私が悪い例を出したのは……何が犯罪かを確認するためだったと。」
「何が犯罪かを確認するため?」
「うん、オンラインカジノを例として、無知ほど怖いものはないし、無知は身を滅ぼすと。だから、何が、どこからが違法となるかを知らなければ、しても良いことがわからないし、出来なくなると。」
「なるほど。」
「シンにきちんと理解してもらう前に部屋を飛び出してしまって、中途半端な状態で理那たちに会っちゃったから、変なことに巻き込んだんだよね。本当ごめん。」
「ううん、私たちが勝手に言い争いしただけだから。」
「理那たちには仲直りしてほしいんだけど……、浩輔君はシンが直接的な言葉を使ったから怒っているんでしょ。でも、理那はシンが私に罪を犯させたくないという想いから正そうとして使った言葉という事を理解してくれたんだよね。」
「うん……」
「どっちも悪くないよ。むしろ、二人とも私の事好きだよね。」
一華は自分で口にすることが恥ずかしかった。
「うん。好きだから、シン君の気持ちもわかる。」
「ありがと。二人が違う立場に立った結果だね。想いは一緒なんだね。」
◇◆◇
一方、シンは西口近くのカフェにたどり着いた。浩輔は既に席についていた。
「悪いな。呼び出して。」
「別にいいよ。どうしたんだ? 俺を呼び出すなんて。」
「とりあえず、先に注文しようぜ。」
「あぁ」
「俺、ナポリタン。シンは?」
「俺も一緒で。」
店員さんにナポリタン2つを注文した。
「何があったんだ?」
「……あぁ、昨日、理那を送り届ける時に一華に会ったんだよ。」
「昨日、帰ってきてから浩輔たちと会ったと報告は受けてる。」
「報告って……、なら、話は早いな。その帰りに俺たちも言い争いになって……」
「は? なんでお前たちまで言い争いになるんだよ。」
「俺が、シンが使った言葉に怒ったら、……理那は『シン君は一華を思って正しい方向へ導くために使った言葉だ』って言い出して。」
「あぁ、そうだな。」
「……お互い平行線のままなんだよ。」
「お前たち、それぞれ別の立場に立ったから平行線のままなんだよ。」
「お前たち、一華の事、好きだろ。」
「お、おぅ。理那とは違う感情だからな。」
「わかってるって。一華を想っての事なら、二人とも一緒の想いだからじゃないか。」
店員さんがナポリタンを2つ運んできた。
二人はナポリタンを食べながら、話を続けた。こちらも味わう余裕はなかった。
「昨日、一華が帰ってきてから、きちんと話してくれたよ。悪い例を出したのは……何が犯罪かを確認するためだったと。」
「何が犯罪かを確認するため?」
「オンラインカジノを例として、無知ほど怖いものはないし、無知は身を滅ぼすと。だから、何が、どこからが違法となるかを知らなければ、しても良いことがわからないし、出来なくなると。」
「なるほどー。」
「だから、お前たちが言い争いするのは無駄なことって事だ。」
「人のことを持ち出して、自分たちがけんかしてどうすんだよ。あんなに仲良いのに。」
「う、うん」
「この後、一華と待ち合わせしてんだよ。一緒に来ないか?」
「一華、待たせてるのか?」
「あぁ」
「待ち合わせにトラウマ抱えてるのにか?」
「その点は大丈夫だ。行くか?」
「行く。一華とも話したい。」
「わかった。これ、食べたら出るぞ。」
二人は残りのナポリタンを食べ終わり、店を出た。
浩輔はシンの後に付いて行く。
◇◆◇
一華はシンからのテレパシーを受けて、浩輔も一緒に来ることを確認した。
「理那、私これから、シンと待ち合わせなの?」
「待ち合わせ? 一人で?」
「だからね、一緒について来てくれない?」
「いいよ、シン君とも話したいし。」
「じゃぁ、食べたら出よう。」
一華と理那は食べ終わって、店を出て、目的地まで歩き出した。
◇◆◇
シンと浩輔は駅ビルの上階で開催されている「アートアクアリウム展」の出入り口に着いた。
入場料を支払い、先に入って待つことにした。
「***(一華、着いたから、先に入って待ってるぞ。)***」
「***(シン、わかった。着いたら理那と一緒に入るから待ってて。)***」
そして、遅れること数分後、一華と理那も「アートアクアリウム展」の出入り口に着いた。
入場料を支払い、シンたちを探す。
暗い会場内、シンは一華達が入ってくる出入口が見える位置にある、金魚が泳ぐ巨大な水槽の向こう側で待っていた。
浩輔の姿も見えない位置だ。
一華は、シンの姿を確認すると、理那を金魚が泳ぐ巨大な水槽のこちら側に連れて行き、「シンにメッセージ送るから、ここで待ってて」と伝えて少し離れる。
理那はぼんやりと水槽の中を見ていたが、その向こう側でも同じようにこちらを覗き込む人が気になる。水槽を挟んでじっと見つめあう……二人同時に気付いた。
「理那?」「浩輔?」
二人はお互い水槽を見るのをやめて歩み寄る。
一華はシンとアイコンタクトをする。
二人は浩輔と理那から離れてアクアリウムを見て回ることにした。
「理那、ごめん」
「浩輔、私もごめん」
「一人で来たのか?」
「ううん、一華と一緒。」
「二人とも、それぞれ会ってたんだな。シン達にしてやられたな。」
「うん、別々の立場に立ってるからの結果だって。」
「あぁ、二人とも一華のことが好きだからだってさ。もちろん、お前とは違う好きだからな。」
「うん。」
「シンと一華の立場に、二人一緒に同じ立場に立ってみれば、良かったんだよ。」
「うん。」
「仲直りできたのも、シンと一華のおかげだな。」
「うん。……あれ?」
理那と浩輔は、シンと一華の姿を探すが見当たらない。
きょろきょろ探す……だいぶ離れたところに二人の姿を見つけた。
仲良く二人一緒にアクアリウムを見て回っている。
「私たちもアクアリウム見て回ろう。」
「あぁ」
浩輔は理那の手を取って、アクアリウムを見て回ることにした。
シンと一華のおかげで仲直りしてデートすることが出来た。
(お礼しなくちゃね)
一華とシンはアクアリウムを見ているふりをして、浩輔と理那の会話を盗み聞きしていた。
「***(なんか、仲直りできたみたいだね。)***」
「***(そうだな。)***」
「***(私が原因で別れるなんてことになってたら、夢見悪そう。)***」
「***(そうなったら、俺が夢を消してやる。)***」
「***(そんなことできるの?)***」
「***(あぁ、これからは、俺との楽しい結婚生活の夢を見させてやるよ。)***」
「***(それって、洗脳っていうのでは?)***」
一華は驚いてシンを見つめる。
シンはニヤリと企んでいるような笑顔を返す。
「***(やめてよね。夢ぐらい自由に見させてよ。)***」
一華は拗ねている。
「***(でも、もう仲直りできたんだから夢見いいだろ。)***」
「***(うん。)***」
一華はほっとした。
一通り、アクアリウムを見て回って出口付近で浩輔・理那と出くわす。
「「一華 (シン)、ありがとう。仲直りできたよ。」」
「よかった。でも、私たちの待ち合わせに付き合わせちゃったね。」
「ううん、仲直りデートもできたし。」と二人は顔を見合わせて微笑む。
「じゃ、これで私たち帰るね。」
一華とシンは二人と別れて帰路に着こうとするが、浩輔が誘ってきた。
「あぁ、今度は直哉と真由も一緒にトリプルデートな。」
「な、なにを、……俺たちはデートなんて……」
シンは反論しようにも、言葉を失ってしまい、これ以上何も言い出せない。
「まぁまぁ、ブラコン、シスコンの二人なら兄妹デートでいいじゃん。連絡するよ。」
「あぁ。」
一華とシンは二人を残して帰路についた。
◇◆◇
二人からは離れたところで、一華は疑問を口にした。
「デートって、兄妹でもデートって言うのかな???」
「普通、言わないだろ。」
「だよねぇ。もしかして、浩輔って疑ってる?」
「どうかな……それより、ブラコン、シスコンって……?」
「ブラコンは、ブラザーコンプレックスの事で、妹が兄に過度な愛着や執着を抱いて依存したりすることで、シスコンは、シスターコンプレックスの事で、ブラコンの逆。兄が妹に対して独占欲や嫉妬したりすることかな。……他から見れば、私たちは、ブラコン、シスコンって見えるって事だね。」
「し、仕方ないか……」
「うん、婚約者としては普通なんだろうけど、兄妹設定だからねぇ。……肯定する方が良さそうだよね。」
「これからは、堂々と兄妹デートだな。」
一華とシンはお互い顔を見つめて笑いあった。
兄妹じゃないと疑われるより、ブラコン、シスコン設定を受け入れることにした。
一華は理那と浩輔の会話が頭の中に聞こえてきたことを思い出した。
「それより、魔力覚醒って……盗み聞きだったのかなぁ……?」
「浩輔と理那からは聞こえる位置からは離れてたよな。」
「うん、でも二人の会話が頭の中で聞こえてたんだよねぇ。」
「テレポーテーションじゃなかったのか?」
「あんな事になったのに、結局、覚醒が盗み聞きって……人騒がせだね、私。」
「ははは、まぁなぁ……。」
「でも、盗み聞きって名前が悪いよね。他の言い方ないの?」
「他の言い方だと『盗聴』だが、遠くの音が聞こえたのなら『遠聴』じゃないのか?」
「遠聴?」
「あぁ、音楽の専門用語で遠くの音を聴き取る力のことを言う。魔力で音だけでなく、言葉が認識できるようになったのでは?」
「……それも、人聞き悪いよね。人の内緒話も聞こえるなんて……趣味悪いよ。」
「他に通信途中なら傍受とも言うが……」
「結局、全てダメだね。遠聴かぁ、はぁ」
「浩輔と理那に遊びの体で話したことが、満月が他の魔力に変えたんじゃないのか?」
「じゃぁ、シン以外に話すと覚醒しないという事?」
「かもな」
「もう、テレポーテーションは覚醒しないって事?」
「それは満月次第だろ。」
「あーぁ、テレポーテーションしたかったな。」
「必要な時は俺が連れて行ってやるよ。もう俺から離れるなよ。」
「うっ、ん」
遠くの音が聞こえるようになったが、今度は隣にいるシンの、トクン、トクンと刻まれる力強い鼓動を拾い上げているような気がした。
部屋にたどり着いた一華は、赤い顔を隠すように急いで自室に戻っていった。
一華は「遠聴」についても、手放しで喜べるものではなく、普段の生活では邪魔な魔力でしかなかった。
(魔力って覚醒してみると厄介なものが多いなぁ……。重い物を軽く持ち上げたり、大きい物を小さくしたり、また小さい物を大きくしたり……なんてできるだけでいいのになぁ。……今度はそれを願ってみようかな。)
一華の満月様への次の願いが決まった。




