第44話 スタージョンムーン【前編】
「8月の満月は『スタージョンムーン』と言って、地球との距離が近いためか、大きく明るく見えて、『スーパームーン』になることもあるらしいよ。」
一華は勉強の手を止め、スマホで検索した満月情報をシンに説明する。
「スーパームーンの月光を浴びたら、どんな魔力が覚醒するかなぁ。」
「スーパームーン?」
「うん、いつもより大きくて明るいらしいよ。」
「いつもより強い魔力か? ……」
シンは思案しだした。
(更に強い魔力覚醒……となるのか?)
「テレポーテーション、透視、念力、予知能力、透明人間、思いつくのってこれぐらいかなぁ……。どれがいいかな!」
「……だったら、テレポーテーションだな。」
「テレポーテーション?」
「あぁ、テレポーテーションが覚醒すれば、思わず仁華になっても、そこに物体がなければ証拠はなくなるからな。」
「なるほどー。テレポーテーションねぇ。……朝、高校にもギリギリでも間に合うし、電車移動しなくても、どこにでも、好きなところに行けるなんて素敵だね。毎日旅行できるよ。」
「お、おまえは……なんてことを思いつくんだ……。」
「ねぇ、パスポートなくても、海外旅行できるの? 密入国者で捕まる???」
「パスポート提示を求められたら捕まるな。その前にここに戻ればいいだけだが。」
「じゃぁ、誰かと一緒にテレポーテーションはできるの?」
「体の一部がつながっていれば、一緒にテレポートできる。更にレベルが上がれば、結界の中にいるだけで一緒にテレポートできるようになるが。」
「遊園地や映画館などにも入場料払わなくても入れるんだよねぇ。」
「お前、絶対するなよ。やったら、速攻魔界に連れて行くぞ。人間界には戻れないぞ。」
「う、うん。わかった。」
シンに注意され、再び教科書に向かうが頭の中は(テレポーテーション、テレポート、瞬間移動……)とぐるぐる回って、手は止まっている。
シンは「はぁーっ」と大きなため息を吐き、「***(満月パワー注入はさせないぞ。)***」とテレパシーで脅かす。
一華は鬼か悪魔を見るような目でシンの顔を見つめ返す。
「***(またまたー、鬼か悪魔みたいなこと言って……冗談だよねぇ。)***」
「***(冗談にするかは一華次第だな。)***」
一華はテーブルに突っ伏してしまった。
「今日だよ、今日。」
「そうだな、今日だな。どうするんだ?」
「どうもこうも、注入したーい!」
一華は叫ぶ。
シンは、はたまたどうしたものやらと困り顔だ。
「一華は悪に魔力を使うのか?」
「えっ? 悪?」
「あぁ、一華がやろうとしていることは悪だろ。バレなくても密入国は犯罪だ。遊園地や映画館の入場も建造物侵入になるし詐欺で立派な犯罪だ。」
「えっ? ただ、出来るなと思って口にしただけなのに……?」
「思うということは、そのうち、やるんだろ? 以前言った魔力を悪に利用する人達もいるってのと同じだろ。」
「しないよ。私にそんなことが出来るわけがない。」
「信用していいのか?」
「今のシンは信用してって言葉で言っても信用できないんでしょ?」
「……」
「今までの言動から見て、逆に信用してもらえないの?」
「……」
「ただ、テレポーテーションができるようになったと言っても、何が出来て、どうできるのか、確認しておかないと善悪の判断はできないと思って、例え話として口に出しただけなんだけど……。」
「……そうだったのか……、疑って悪かった。信用する。ただ、一華が口にすることは、時々怖くなる。」
「怖くなる?」
「あぁ、サイコパスの気質でもあるんじゃないのか?」
「サイコパス?」
「全てではないが、時々、良心の欠如を感じるが……?」
「良心の欠如?……普通だと思うけど???」
またまた、一華はテーブルに突っ伏してしまった。
「***(もう、やだぁ)***」
「一華?」
「……………***(バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、バカ、一華のバカァ)***」
「一華?」
シンは一華の肩を起こし、自分に向ける。
「こんな状態で満月パワーを受けて、一華の精神・体は大丈夫なのか? 次から次へと、新たな魔力を覚醒させたいと言っていたが、短期間で受ける満月パワーは、逆に一華のダークサイドな部分もパワーを受けているのではないのか?」
「ダークサイド?」
「魔力覚醒以降、自分の中で考え方が変わったような自覚はあるのか?」
「……うーん? 特に自覚はないけど?」
「そうなのか? 変わってないのか?」
「シンになら、ダークサイドな考え方も口にしても大丈夫かなとは思ってる。友達には言えないけど。」
「ん? どういうことだ?」
「だーかーらー、裏表なく私の全てを出してるってこと。」
一華は顔を赤くして俯いた。
シンは「ん?」と頭を傾げて「どういう意味だ?」といまだ、わかっていない。
一華は「もう」と言ったまま、次の言葉を口にできない。
シンはどうしたものかと思考の渦から這い上がれずにいる。
このままでは今日は満月パワー注入どころではない。
(今日の満月は諦めるかぁ……)
一華の呟きがシンの頭の中に響いてきた。
(一華に諦めさせていいのだろうか???)
シンは一華に届かないよう、自分の内に向けて呟く。
一華は堪らず部屋を飛び出していた。
◇◆◇
シンが追いかけて来ようとしたので、「コンビニ行くだけ、ついて来ないで。」とついて来ることを拒んだ。
とりあえずスマホだけは手に持って出てきた。
コンビニでアイスを買ったものの帰る気になれず、一華は近くの公園に行く事にした。
住宅街の通りに差し掛かった時、「一華?」と声を掛けてくる人が前から歩いてくる。顔は逆光で見えないが声は聞いたことがある。理那だ。近づくと浩輔も一緒だ。
「どうしたの? 一人? シン君は?」
立て続けに聞いてくる。
「コンビニ来ただけだから。」と言うのが精一杯。
理那はいつも元気な一華と違う事に気付く。
「今からどこ行くの?」
「公園」
「私達も一緒に行って良い?」
「うん」
三人は特におしゃべりする事なく公園に着いた。
一華と理那はブランコに腰掛ける。
「何かあったんでしょ。言える事なら聞くけど?」
一華は理那の顔を見て、どう話して良いか考えてからポツリポツリと話し始めた。
「……シンと遊びで……テレポーテーションができるようになったらどうする?って言う話になって……」
理那と浩輔は話の出だしに顔を見合わせる。
「……高校行くのギリギリで良いよね、とか……それにどこでも行けて毎日旅行できるね……までは良かったんだけど、……海外旅行は密入国かなとか、……遊園地や映画館の入場料も支払い必要なくなるね。……なんて言ったら、……シンが悪に使うのか?とか……犯罪だぞとか、……しまいにはサイコパスかって言い出して……」
「何それ、ただの遊びの話でしょ。」
「……うん、……出来るようになっても、……やって良い事と悪い事の判別は……できてるつもりなんだけど、……シンは口にすると言うことは……出来るならするって感じにとってて……」
「……堪らずコンビニ行くって出てきちゃった。」
「あー、何やってんだよ。ただの想像だろ?」浩輔は呆れている。
「一華が謝るような事でもないと思うけど、どちらかが折れないと平行線のままだよね。」
「だな。」
「今すぐシン君呼ぶ?」
一華は理那と浩輔の顔を交互に見て、二人を巻き込むわけにはいかないと、あえて元気なふりをする。
「少し頭冷やして帰るから、もう少しここにいる。ごめんね、心配かけて、二人はデートだったんじゃ?」
「まぁそうなんだけど、理那ん家まで送ってたところだから。」
「浩輔君、優しいー、紳士だねぇ、理那愛されてるー。」
いつもの元気な一華だ。
理那は顔を真っ赤にしたまま、
「本当にシン君に連絡しなくて良いんだよね。」
「うん、大丈夫、二人に喋ったらスッキリした。」
「そう、いつもの元気な一華に戻ったようだから私達は帰るね。」
「じゃぁね、またね」と二人と別れた。
一華は二人にああは言ったものの、帰ってシンとどう話せば良いのかわからない。




