第128話 社交ダンス部
生徒会メンバーは一度、生徒会室に集合して、北校舎の3階一番奥の空き教室を目指した。
手には掃除道具をいくつか持っている。
「生徒会室からは、かなり距離がありますね。」
宗一郎が呟くと、シンが意地悪く答えた。
「防音設備も無いが、これだけ離れていれば一華の奇妙なリズムも届かないだろ!」
「もう! いつまでもあのリズムで、踊るわけじゃないもん!」
一華はシンにふくれっ面で反論した。
「じゃぁ、あのリズムはいずれ聞け無くなるんですか?」と沙羅。
「そうじゃないと、いつまでたっても音楽に合わせてステップ踏めないからね。」
一華は沙羅の方を向いて答えた。
「あのリズムだから1年では流行ったんですよー!」
真凛も続く。
「あ、やっぱり、あなた達が教えたの?」
今度は真凛の方を向いて聞く一華。
「はい、要望書提出前に他の生徒も巻き込めば、先生達もわかってくれるかなと思って。宗一郎君のアイデアです。」
沙羅が暴露した。
「さ、沙羅ちゃん……それは言わない約束……。」
策士としての裏側を暴露されて、宗一郎は珍しく戸惑いの表情を見せた。
「もう、いいじゃない。終わったことだし。」
「宗一郎の提案で必修化され、経験者がいることもわかり、創部に至ったんだ。宗一郎のお陰だ!礼を言う!ありがとう。」
「やったね。宗一郎君。」
沙羅は宗一郎がシンから感謝されたことを一緒に喜んだ。
「創部すると聞いた時、必修化は余計な事だったかなとちょっと思ってました。でも、良かったです。」
宗一郎の気が晴れた。シンのお願いを聞いてから、社交ダンスの必修化したことについて早まってしまったかと気にしていたからだ。
一行は空き教室に辿り着いた。一番奥の突き当りの為、廊下部分が他の教室よりも広い。出入口は廊下へつながる1か所のみだ。
シンを先頭に鍵を開けて中に入る。
「広ーい。」
普通の教室としても使えるよう、前には黒板、後ろには掲示板が同じようにある。南北にある窓にはカーテンが既設されている。ロッカーも設置されている。エアコンも完備だ。最近までは使われていたのだろう。
中にはいくつかの机と椅子があるだけで、他に何もなかった。
カーテンを開けると最上階の為、中まで陽が入る。結構明るい。
とりあえず、机と椅子を全て廊下に出して、掃除に取り掛かった。
床にモップを掛けながら理那がふと思いついたようにシンに尋ねた。
「シン君、来年度からはここでランチしてもいいよね。」
「あぁ、そうだな。生徒会室は使えないからな。ここでランチしよう!」
「「「やったー!」」」
一華、理那、真由の3人はまた、一緒にランチが出来ることに大はしゃぎだ!
「先輩達って、生徒会室でランチしてたんですか?」
「あぁ、帰宅時間を早めるためのランチミーティングだ!」
「なるほど……ランチミーティングですかぁ……。」
宗一郎はシンの言葉を聞いて脳内を働き始める。
「それいいですね。放課後の時間を効率的に使えそうです。」と沙羅。
「でも、毎日お弁当を用意しなくちゃダメだよね……。」と真凛。
「あなた達は学食利用なの?」
「僕と真凛ちゃんは学食利用です。温かいですし……。」と海斗。
「無理にお弁当を用意しなくても、食後に集まってもいいんじゃない?」
お弁当派の沙羅は宗一郎を誘おうかなと考えていた。
お喋りしながらも掃除の手は休むことなく動いている。
床掃除が終わると、換気の為、窓を開け放った。南北の窓を開け放つと、1月の冬の寒気が教室を抜けて行く。
最上階の為、いろんな物が飛ばされそうなぐらいに風が強い。
「窓を開ける時は、少しだけ開けないと飛ばされるね。」
「もう、換気も充分だろ。」
シンの声で急いで、窓を閉めていく。
外に出していた机と椅子を邪魔にならないように壁に寄せておく。
「必要なもののリストアップだ!」
「更衣コーナー用にパーテーションと上履きを脱げるようにマットでも敷いて、全身を映す鏡、音楽プレイヤーかスピーカーぐらいかな……。あとは、出入口にロールカーテンがあればいいよね。」
一華が脳内にイメージしたものを口にしていく。
「ロールカーテンって、出入り口ドアの目隠しですか?」
沙羅が一華に聞いた。
「うん、更衣コーナーを広く取れないから、終わって女子が着替える時は、男子には外で待っててもらおうと思って……その目隠し。」
「だったら、ガラス部分のサイズでイラスト描きますよ。社交ダンス部って言う看板ですか? 必要ですよね!それを内側から貼れば、外からは見えないですし。」
「ほんと!? お願いできる?」
「はい。昨日、一華先輩を怖がらせちゃったお詫びです。任せてください。」
「沙羅ちゃんの絵、かわいいから楽しみー!」
沙羅は昨日、一華を怯えさせてしまい挽回しようとイラストを描いて貼ることを提案した。
「鏡はキャスター付きを2台並べればいいか……、更衣コーナーはパーテーションを幅広2連か、3連以上のを置けば、スペースは確保できるだろ。」
シンが一華のイメージした言葉から具体的なものを想像して補足し終わると、部員全員は廊下に出た。
鍵を閉めて部室を後にした。
◇◆◇
数日後の放課後、更衣コーナーのパーテーションや、大型の鏡が2つ、音楽プレイヤーが部室内に運ばれてきた。
一華とシンは部室内に運ばれたパーテーションを更衣コーナーに配置し、鏡を中央に2台並べ、机1台をコンセントの近くに移動させて音楽プレイヤーを上に置いた。
「これで特訓できるな。」
沙羅が入ってきた。遅れて浩輔達、他メンバーも入ってくる。
「一華先輩、出来上がりました。」
沙羅の手にはイラストの描かれた大判の紙が握られていた。
1枚には社交ダンス部という可愛い文字と小さなイラストが散りばめられていて、もう1枚には一華とシンと思われるダンス中のカップルが大きく描かれていた。
「沙羅ちゃん、やっぱり上手だねー!」
「ありがとうございます。貼りますね!」
宗一郎が手伝いながら、内側から外に向けて両面テープで隙間なく貼って行った。
「これで完成だな! 顧問と副顧問に声を掛けてくる!」
シンはそう言うと部室を出て行こうとした……が、一華の方を見た。
「一華……。」
「ここでみんなと待ってるから大丈夫!」
一華がそう言うと、シンは部室を出て行った。
声を掛けられた顧問の結城先生と副顧問の市川先生が部室内に入ってきた。
「あら、結構、広いわね。練習場所にぴったりね!」
結城先生は初めて入ったようで、この部屋の広さを知らなかったようだ。
「定例会のある日は部活は休みます。それ以外で活動予定です。」
「簡素な更衣コーナーだな。2か所で足りるのか?」
「男女で同時に更衣できますし、帰りの時などは男子は外に追い出しますので大丈夫です。」
一華が説明する。
「そうか……、決して間違いは起こすなよ!」
「ま、間違いとは……。」
シンが顔を赤くした。
「覗きとかだなー……」
「覗きなど断じてしません!!」
真っ赤な顔をして反論するシン。
市川先生は言葉を続けたかったが、シンの顔を見て、それ以上は口にしなかった。やっぱり、シンを揶揄っているようだ。
結城先生は二人のやりとりにクスクスと笑うと、話題を変えた。
「踊りたい音楽とかあるの?」
「いえ、まだ、基本のボックスとナチュラルターンとリバースターンまでしか教えてないので、そこまでに至ってないです。」
「私が適当なのをいくつか探してあげる。ワルツが良いのよね。」
「はい。このSDカードにお願いします。」
シンは結城先生に音楽プレイヤー用のSDカードを手渡した。
結城先生はいそいそと部室を後にした。選曲できることがよほど楽しみのようだ。
市川先生も揶揄う事が無くなったためか、結城先生と一緒に部室を出て行った。
「市川先生は完全に楽しんでたよね……。」
「だよな。」
「ですね。」
「一華とシンはいいけど、俺たちを疑ってるのか?」と浩輔。
「えっ? 私も覗かれるのは嫌だけど……!?」
「お前たちが着替えてても間違いじゃないだろ!」
「そうだけど……。」
「浩輔、もうやめろ! お前こそ、間違いを起こすなよ!」
シンが浩輔を窘める。
「……我慢する。」
「おいおい、『しない』って即答しろよ!」
直哉も浩輔を窘める。
「もう……」
男子達の賑やかなやり取りを横目に理那はあきれ顔で一華と目を合わせた。
明日からはこの場所が、特訓の場所だ。




