第127話 創部
冬休みはダンスのステップに明け暮れた一華とシン。
3学期の始業式も終え、生徒会室に集まった生徒会メンバーに向けてシンが口を開いた。
「お前たちにお願いしたいことがある。」
「何だ?」
浩輔が身を乗り出した。
「何を改まって……。」
「生徒会長自らお願いって何ですか?」
一華以外のメンバー達は、興味津々でシンを見ている。
「社交ダンス部を創部する!」
シンが迷いなく宣言した。
「しゃ、社交ダンス部?」
「いきなりだな。」
「それで、お願い事って何ですか?」
「幽霊部員になってくれ!」
その場にいた全員が固まった。
「シン、いきなり幽霊部員はないよ。」
一華が窘める。
「そうか? ……必要部員を確保したいが、生徒会以外の部員は入部させたくない。で、創部するために名前を貸してほしい。」
「何だ、そういう事か! 俺はいいぞ!」
「私もいいよ。」
浩輔と理那が快諾した。
直哉と真由も顔を見合わせた後、「俺たちもいいぞ!」「うん」と次々と快諾してくれた。
ところが真凛がぱっと手を挙げた。
「私、幽霊部員じゃなくて、本当の部員になりたいです。」
「……入部条件として、ペアに限定しようと思っていて……。」
一華がシンの代わりに条件を伝える。
「でしたら、海斗と一緒に入部します。」
「それと、部員の勧誘はしないことにしたの。」
「という事は、来年度のクラブ紹介は参加しないという事ですか?」
宗一郎が口にした。
「おっ、察しが良いな。その通りだ。俺たちが卒業するまで活動できればいい。」
「生徒会はどうしますか?」
「生徒会には迷惑を掛けない。副会長と会計の担当は継続する。」
「新入生に加入してもらえれば、相談役に回ってもらって大丈夫です。」
「ありがとう。」
「顧問は誰に依頼するんですか?」
「それは、これから依頼しに行く予定だ。」
「あと、活動場所はどうされるんですか?」
「空き教室を予定している。」
「空き教室ってあったっけ?」
「確か、北校舎の3階一番奥に使われてない教室があったような……。」
「あ、開かずの間とか……ですか!?」
沙羅は目を輝かせている。いかにも物語になりそうな事に興味津々だ。
「ちょ、ちょっとやめて、沙羅ちゃん。」
沙羅の言葉に一華は怖くなった。
「ご、ごめんなさい。」
沙羅は自分が発した言葉のせいで一華を怯えさせたことに謝罪した。
「会長、ここにいるメンバーは部員にさせてくれるんですよね。」
沙羅がシンに向いて真剣な顔で聞いた。
「あぁ」
「であれば、ペアじゃなくても入部させてください。」
「ペアでなければダンスはできないぞ!」
「私は別にダンスしたいわけじゃないです。一華先輩を一人にさせない為です。その間、イラストのモデルとしてデッサンできればいいので……。」
「だが、お前には生徒会執行役員の仕事があるだろ。」
「ですよねぇ……。」
沙羅はどう両立しようかと考え始めた。宗一郎の方をチラッと見た。
「僕も幽霊ではなく正式に入部したいです。部活動には休日の設定が必要ですので、定例会の日を部活の休日に当ててもらって、年間行事については、手戻りが無いように綿密に練っておきます。」
「宗一郎君が見方で良かったよ。敵に回すと怖いかも……。」
一華の呟きに、生徒会室はどっと笑いに包まれた。
「あははは、言えてるー。」
「一華先輩……。沙羅ちゃんまで……。」
「後は、顧問だけか?」
「今からお願いしに行くのか?」
「あぁ、その前に、創部届に名前を書いてくれ!」
創部届を回して全員が名前を記入していった。
その時、勢いよくドアが開き、なぜか、顧問の市川先生が生徒会室に入ってきた。
(感が良いのか……。)
「お前たち、今日は生徒会業務無いだろ。さっさと帰らんか!?」
「来年度から社交ダンスを教えてくれる先生の名前教えてくれませんか?」
「なんだ急に。」
「社交ダンス部を創設しようかと思って顧問をお願いに行きたいのですが!?」
「今度は創部か!」
「はい」
「保健の結城先生だ!」
「それと、北校舎奥の空き教室は使用させてもらっても構いませんか?」
「あぁ、3階一番奥の教室か……。確か使ってなかったな。片づければ大丈夫だろ!」
「必要部員は確保したのか?」
「はい。ここにいる生徒会メンバー全員が入部します。」
「なら、俺が副顧問してやる。」
「えーっ!?」驚くメンバー一同。
「先生ってダンスできるんですか?」と理那。
「ダンスはしない。お前たちの見張り役だ!」
「俺達、悪い事企んでないですよ!」
浩輔が反論する。
「結城先生に無理難題押し付けないようにだ!」
「大丈夫です。手が空いてる時だけ来てもらえればいいので。」
「そうか。ま、引き受けてもらえない時は俺が引き受けてやるから安心しろ!」
厳しい口調ながらも市川先生はの言葉には生徒会メンバーの自主性を重んじる温かさが含まれているようだった。
「有難うございます。」
「今日はさっさと帰ろよ!」
「はい」
市川先生はそう言って生徒会室を出て行った。
「まさかの展開でしたね。」
市川先生がいなくなると宗一郎が呟いた。
沙羅が続いて口を開いた。
「そうだね。でも、どうして市川先生は引き受けてくれたんでしょうか?」
「生徒会だけだから暇とか!?」
「それ市川先生の前で絶対行っちゃダメだからね。」
浩輔を窘める理那。
「とりあえず創部は確定した。明日から空き教室の片づけに取り掛かる。よろしく頼む!」
「ラジャー!」
帰りに保健室に寄った一華とシン。
一昨年の体育祭に一華の捻挫で手当してもらった時以来だ。
「結城先生、社交ダンス部の顧問になってください。」
「はい。」
「えっ?」
「即答ですか?」
あまりの速さに驚く一華とシン。
結城先生はくすくすと笑って言う。
「えぇ、さっき、市川先生がいらして生徒会長が顧問の依頼に来るから引き受けてやって欲しいとお願いに来てたのよ。」
「市川先生が副顧問を引き受けたのも知っているんですか?」
「えぇ。市川先生が社交ダンスに興味があったとは初耳だけど……。」
「いや、俺達の見張り役だそうです。結城先生に無理難題を押し付けないようにと。」
「あら、そうなの!? あなた達は無理難題を押し付けて来たの?」
「反対です。無理難題を解決してきました。」
「そう。なら、市川先生なりに案外楽しみにしてるのね。」
「明日から空き教室の片付けに取り掛かるので、終わりましたら声をお掛けします。」
「わかったわ。来年度からのダンス前にあなた達で指導の練習にもなるから助かるわ。よろしくね。」
結城先生は創部届の顧問の欄に署名してシンに手渡した。
「はい。失礼します。」
一華とシンは保健室を出て行き、そのまま、職員室に向かった。
「市川先生、有難うございます。結城先生が引き受けてくれました。」
「そうか。」
「明日から空き教室の片付けに取り掛かるので、終わりましたら声をお掛けします。」
「創部届は預かる。」
シンは市川先生に創部届を手渡した。
「それでは失礼します。」
一華とシンは職員室を出て、ようやく校舎を後にした。
「まさかの、創部決定とはね!」
「こんなにとんとん拍子に進むとは……おみくじのお陰だな!」
「ま、そういう事にしておこう! となると、シューズを毎日持ち歩くことになるよね。」
「そうだな。もう一足、チェンジしてくれ!」
「置き靴するの?」
「あぁ、その方が持ち帰らなくても済むからな!」
「となると、履かない靴はあるかなぁ……、あっ、あった。」
「なんだ!」
「サンちゃんに取られた肉球シューズ!」
「あははは、サンが怒るだろうな!」
「やっぱりー? でも、他にとなると、お客様用スリッパしかないよね。」
「お客様用は今度買いにいけばいいだろ。すぐに必要ないだろうしな。」
「そうだね。あとは、着替えも必要だよね。シンはブレザーさえ脱げば大丈夫だよね。」
「あぁ、一華はあのスカートを毎日持ち歩くのか?」
「うん、Tシャツとスカート、レギンスは必要だよね……。」
「となると、どこかに更衣室を用意する必要があるな!」
「別室を用意できればいいけど、隅にでもコーナーを作って順番に着替えれば大丈夫じゃない? 順番だったら見張りも兼ねれるし。」
「帰りに着替えで遅くなる。できれば女子全員が更衣する場所は必要だろ。」
「終わりは男子全員を外に出して、教室内で着替えるよ。だから、窓にはカーテンを閉められるようにしてね。」
「なるほど。一人だけすぐ帰る時はコーナーで着替えて、みんなで着替える時は教室を更衣室にするのか!?」
「うん。だからね、カーテンとか購入するものは予備費から支出できるようにしてね。」
「承知した。明日、片付けの際に必要な物はリストアップだな!」
一華とシンは創部の事で頭がいっぱいで会話が止まらなかった。




