第123話 コンビシューズ
マンションに帰ってきた一華とシン。
昨日のビーフシチューを温めて、シンと一緒に夕食を簡単に済ませた。
後片付けの後、一華はシンから受け取った紙袋からラッピングされたプレゼントをそっと取り出した。
そこにはピンクのリボンが愛らしく結ばれていた。
「このリボンのラッピングかわいいね! リボン解くのもったいないな!」
「にゃんにゃ……(これはにゃんにゃ?)」
サンが近寄って来て、鼻をひくつかせている。一華は微笑む。
「これはね、シンからのクリスマス・プレゼントだよ!」
一華はピンクのリボンをゆっくりと解いていく。
「にゃーん……(一華だけにゃんか?)」
「サンちゃんは昨日、お肉貰ったでしょ!」
包装紙が破れないようにテープをゆっくりとはがしていく。箱を開けると、不織布で包まれたシューズが現れた。
一華は不織布を開いてシューズを床の上に並べて置く。
「赤いシューズ、可愛いね。シンが選んでくれたんだよー!」
「にゃーんにゃ……(かわいいにゃ。一華に、ぴったりにゃ!)」
「赤い靴って可愛くて特別だよね! 自分じゃ選ぶのに少し勇気がいるけど……。」
「赤いシューズで良かったのか!?」
「うん、欲しいけど躊躇していたのを、シンが薦めてくれたから決めることが出来たんだよ。薦められなかったら、諦めてたかも?」
「なら、良かった。」
一華はシューズを履いて立ち上がった。
まずは、店員に教わった歩き方を練習することにした。
「シン、手、持っててくれる?」
「あぁ」
一華はシンの大きな掌を支えに、頭から一直線に吊られているようにイメージして立ち、店員に教わった通り、膝を伸ばし、つま先とかかとを同時に着地させるようにして、慎重に一歩を踏み出した。
「どう? 出来てる?」
「なんか、よろついているな! もっと自分を信じて歩いてみろ!」
一華はシンの手を握りなおし、視線を少し上げた。
すると、迷いが消えたかのうように足取りが凛としたものに変わった。
シンの目には堂々とプリンセスが歩いているかのように映っていた。
「そうだ。今の感じを忘れるな!」
一華は方向転換をして一人だけで歩いてみた。シンの手から離れて往復して見た。
「一人でも大丈夫だな。」
「うん。ふらつかなくなったよね。」
「そのまま、ホールドしてクローズド・チェンジの復習に入る。」
一華とシンはホールドの形を取り、一華の奇妙なリズムに合わせてステップを踏んだ。
「ズンチャッチャッ、ズンチャッチャッ、ズンチャッチャッ、……ズンチャッチャッ。」
「足は大丈夫か!?」
「うん、でも、ヒールの高さがある分、リズムが早く感じる……。慣れるまでゆっくりにしていい?」
「慣れはスリッパの代わりに毎日履いて慣れるしかないな。」
「……やっぱり、そうなるよね……。」
「リズムは一華がついてこれるテンポでゆっくりと刻んでみろ。スローテンポの3拍子なら優雅な雰囲気になる。」
一華はスローテンポの奇妙なリズムを口にした。
「ズン…チャッ…チャッ…、ズン…チャッ…チャッ…、ズン…チャッ…チャッ…、ズン…チャッ…チャッ…。」
「これぐらいスローならついて行けるかも!?」
「次は慣れるためにも、ナチュラルターンの練習に入る。」
シンは一華を甘やかしてくれなかった。
(慣れるまで待ってくれないのかーい)
一華はシンに届かないように思考を閉じて、脳内でツッコミを入れた。
シンは一華にシューズを慣れさせるためにも、更に特訓を進めることにした。
シンはホールドの形を取ったまま、説明を入れながらステップを踏んでいく。
「一華は左足の後退から始まる。」
「1歩目はダウンしながら左足で一歩下がる。つま先で着地する。」
「そうだ」
「2歩目で回転しながら右足を右横へ。つま先で体重移動しながらライズする。」
「3歩目で左足を右足に揃えて高くライズする。ここまでで90度から135度回転する。」
シンの的確な指導に、必死についていく一華。
「次は後半だ。4歩目は右足を真っ直ぐ前へ出す。かかとで着地する。」
「5歩目で回転しながら左足を左横へ。」
「6歩目で右足を左足に揃えて高くライズする。これで180度から270度回転したことになる。」
「これが、右回転のナチュラルターンだ。」
一華はシンのホールドから離れて、一人で立った。
「えっと、ダウンしながら左足で一歩下がる。つま先で着地と。左回転しながら右足を右横へ、左足を揃えてライズ。右足をまっすぐ前に出して、かかとで着地。回転しながら左足を左横へ、右足を揃えてライズする。」
一華は小さな歩幅でシンが説明した内容を口にしながらステップを踏んでみた。
「あぁ、そうだ。これを完璧に覚えろ。」
一華は一人で呟きながら、何回もターンのステップを練習していった。
シンはホールドを解かれ、一人で練習する一華を眺めている。
「ホールドして」と言ってくるのを待っていたが、今日はそこまで到達しなかったようだ。
一人でステップを覚えることに夢中のようだ。
サンはシンの説明を聞きながら一緒について行ったが、猫には難しかった。2歩目の回転が思うようにできない。2本軸の為できないのだ。
まずは2本足で立つ特訓が必要のようだ。サンはこたつに潜りこんでしまった。
「一華、やり過ぎじゃないのか? 今日はもう終わりにしよう!」
「うん。でも、まだ、シンと一緒に回転は無理っぽいよ!」
「初めてのシューズだ。足も疲れただろ。お風呂に入ったらマッサージしろ!明日はしんどくなるぞ!」
シンはお風呂のお湯を溜めにいく。
一華はシューズを脱いで、スリッパを履いた。
「ふぅ」
一華はつま先からふくらはぎをマッサージする。
「サンちゃん、つま先痛いの取ってー」
一華はスリッパを脱いで、サンに足裏を見せた。
「にゃんにゃー……(にゃんにゃ、足痛いにゃんか?)」
「気を付けてるけど、つま先に体重がかかるんだもん。」
サンは一華の両足の裏に肉球をあてて「にゃん」と一言鳴いた。
「サンちゃん、ありがとう楽になったよー。これでお風呂に入ればバッチリだよー。」
「一華、お風呂入れるぞ。」
「はーい。」
◇◆◇
一華もシンも、ゆっくりと入浴を済ませて、いつものルーティンだ。
シンはノンアルコール○ールを片手に持ち、一華はアイスを食べている。
ふと、気になったことを一華は聞いてみた。
「そう言えば、シンもダンスシューズ必要だったんじゃないの?」
「あっ……忘れてた。」
「どうする?」
「来年度までに間に合えば大丈夫だが……、一華の魔力でチェンジしてくれ!」
「どんなのがいいの?」
一華はスマホで「ダンスシューズ 男性」を検索する。
「メンズ用って黒ばっかりだね。中にはピッカピカに光ってるし……、あ、この白黒コンビのシューズ、カッコいいね。」
シンは魔界での特訓で使用していたデザインに近いものを脳内に浮かべていたが、一華の薦めるデザインに心を奪われた。
「一華推薦のデザインで、ヒールの高さを極力低くしてくれ。これ以上身長差がつくと、一華がもっとヒールの高いシューズを履く羽目になる……。」
「それは無理!もう限界だよ! 試しにこのスリッパで試してみるね!」
一華はスマホの画像を脳裏に焼き付け、シンが履いたイメージを具現化させる。シンの足元がキラキラと光りだした。強い光を放った後、そこには、一華が薦めた白黒コンビのダンスシューズを履いたシンが居た。
「シン、ちょっと、立って歩いてみて。」
シンは一華に促され、床の上を歩いてみた。
「どう? 足痛くない?」
「痛くない。ヒールの高さもこれぐらいなら大丈夫だろ!」
「踊ってみて。」
シンは一人だけでステップを踏んでいく。
それは、一華がまだ見たことないような優雅なステップ。見えないパートナーをホールドしているかのように頭から足元、指先までが完璧な姿勢。
一華はその美しさに見惚れてしまっていた。声にならない。
一通り踊り終えて、一華の傍に寄ったシン。
「一華、一華」
一華はシンに声を掛けられ、我に返った。
「シン、すっごーい上手!」と手を叩く。
「ありがとう。いずれは一華も一緒に踊るんだ!」
「うん、頑張る! 頑張るけど……あんなに優雅に踊れるようになるかなぁ……。」
「俺がサポートする。」
「うん。」
「ところで、このシューズは消えないのか? スリッパが無くなってしまった。」
「私の魔力は夜の12時に消えたりしないよ。せっかく、ぴったりのシューズが出来たんだから、スリッパは新しいの買いに行こう。それまではお客様用で我慢して。」
一華は玄関に行ってお客様用スリッパをシンの前に差し出した。
シンは履き替えて、一華の赤いダンスシューズの横に自分のコンビシューズを並べた。
一華は寄り添うように並べられた二足のシューズを見ると、自分たち二人を表しているように思えてきゅんとした。




