第121話 手料理
期末テストも無事終わり、2学期の終業式を迎えた。
空には雲一つない快晴だ! 空気は冷たく澄んでいる気持ちの良い朝だ!
一華の手元には先ほど担任から受け取った成績表。恐る恐る開ける。
理系を選択した甲斐もあって、生徒会業務に忙しくてもなんとか、それなりの成績に落ち着いていた。
(一華、偉いよ、よく頑張ったよ!)
テスト前の集中勉強だけで成績を維持できたことに自分を褒めてやった。
「***(一華、何が偉いんだ?)***」
シンの脳内には一華の思考が飛び込んできた。一華はテレパシーを使ったわけではなく、ただ脳内で褒めただけだったが……。
「***(あれ? シンにまで聞こえちゃった!?)***」
「***(あぁ)***」
「***(成績だよ! あんなに忙しかったのに毎日勉強しなくても、成績を維持できてたから自分で褒めちゃった!)***」
「***(なんだ、そんなことか!?)***」
「***(なんだ?って、偉いとか、よく頑張ったとか、褒めてよ!)***」
一華は自分を褒めたテンションがシンのせいで急に下がってしまった。
「***(良く頑張った! 偉いぞ一華!)***」
「***(何か、気持ちが入ってない感じがする! シンはどうせオール5なんでしょ!)***」
「***(まぁな!)***」
シンは成績の事より、今日の夕食を楽しみに、いや、不安視していた。
(一華だけに任して、大丈夫か!? 俺が頼んだんだ、失敗しても文句言わず食べよう!)
担任からの2学期最後の伝達事項も、完全に聞き逃していた。
「シン、終わったよ。帰ろう!」
「あぁ」
一華に促されて席を立ち、校舎を後にする。
スーパーに寄って、ビーフシチューとローストチキンの材料とクリスマスケーキ、それからサンの夕食用に薄切り肉、ペットショップに寄って猫用クリスマスケーキを買って帰った。
一華は食材を冷蔵庫に入れて、着替えに自室に入って行く。
着替えてキッチンに戻ってくると、ローストチキンの仕込みに取り掛かった。その横でシンが昼食を作り始めた。
一華はジッパー付きの袋にローストチキン用のたれの調味料を入れ、皮目にフォークで穴をあけた鶏モモ肉を入れて漬け込み、冷蔵庫で寝かせる。後は、取り出してオーブンで焼くだけだ。
「準備完了っと! シンは何作ってるの?」
シンは焼き豚とネギを適当な大きさに切っている。
「簡単にチャーハンにしようかと。一華、ご飯をチンしてくれ!」
一華は冷凍庫から2人分の冷凍ご飯を電子レンジに入れて温めた。
「玉子は4個でいい?」
「あぁ」
冷蔵庫から玉子を取り出してボールに割り入れかき混ぜると、温かくなったご飯をボールに入れ、お米1粒1粒に玉子を絡ませた。
シンが適量の鶏ガラスープの素をボールに入れ、再度かき混ぜると、熱したフライパンに玉子とご飯を混ぜたものを投入して一気に炒めていく。
玉子に火が入ると焼き豚とネギを入れて、仕上げに塩コショウで味を調えた後、鍋肌から醬油を回し入れて、さっと混ぜて「黄金チャーハン」の完成だ!
醤油の香ばしさが食欲をそそる。
二人分のお皿に盛り付ける。作り置きのサラダを小皿に出して、昼食をとった。
昼食を終え、片付けも終わると、一華はそのまま夕食の準備に取り掛かることにした。
「本当に大丈夫か!?」
「大丈夫! シンはサンちゃんと遊んでて!」
キッチンから追い出されたシンはこたつに入ってサンを探す。しかし、サンはこたつの中でへそ天で爆睡中だった。仕方なくテレビを点けた。
シンは一華の手料理を希望したが、料理中一人で待つことがこんなに退屈でつまらないものだったのかと思っていた。
その頃、一華は玉ねぎのくし切りに取り掛かっていた。去年はシンが切ってくれたので、涙は回避できたが、今回は目が痛くて涙でまともに包丁を見ることが出来なかった。「痛いー、目が開かないよー!」ティッシュで止まるまで目を抑える。
「一華、大丈夫か?」
「痛いけど、大丈夫!少ししたら止まるから。」
涙目になりながらもなんとか玉ねぎを切り終えると、次は人参とじゃがいもの皮むきだ。その後、包丁で適当な大きさに切っておく。マッシュルームも切った。
冷蔵庫から牛肉の塊肉を取り出して、適当な大きさに切る。塩コショウをした後、小麦粉を薄くまぶした。
下準備は完了だ。後は鍋に入れて焼いていくだけだ。
鍋で肉の表面に焦げ目がつくまで焼いていく。去年はシンの担当だった。油が跳ねて火傷しないよう注意しながら焼いていく。
焦げ目がついたところで肉を取り出し、バターを入れ玉ねぎを飴色になるまで炒めていく。
玉ねぎが飴色になったところに、人参、マッシュルームを加える。
焦げ目がついた肉とノンアルコールワインと水、コンソメを入れて煮込む。去年は赤ワインが買えなかったために諦めたが、ノンアルコールワインがあることを知った一華は、赤ワインの代わりに使う事を決めた。
キッチンにはワインの香りが広がっていた。
煮立ったらアクを取って、蓋をして肉が柔らかくなるまで弱火で2時間弱ほどじっくりと煮込む。
吹きこぼれないことを確認したらタイマーをセットした。
一華はマグカップにコーヒーと、紅茶を入れて、こたつの上に置いた。
「シン、後は煮込むだけだから、ティータイムにしよ!」
「あぁ、ありがとう。」
「サンちゃんは寝てるの?」
「あぁ、こたつの中で爆睡中だ!」
「起きないかな? クリスマスケーキあるんだけど……。」
サンは一華の声が耳に入り、こたつから抜け出して欠伸をして大きく伸びをした。
「あ、サンちゃん、起きたね。クリスマスケーキ食べる?」
「にゃにゃん……(食べるにゃ!)」
一華は冷蔵庫から、サン用のクリスマスケーキを取り出してきた。
「はい、どうぞ。」
猫用ケーキを差し出されると、サンは「うみゃいにゃ、うみゃいにゃ」と食べ始めた。
「シン、退屈?」
「ちょっとな……。」
「サンちゃんはこたつを出すと寝てばっかりだしね……。クリスマスケーキ食べ終わったら、鍛錬手伝ってあげたら?」
「猫にどうやって鍛錬するんだ?」
「ボールとか投げて取りに行かせるとか? 障害物を飛び越えさせるとか???」
「それは犬だろ!?」
「あははは、そっかー! 犬かー! じゃぁ、サンちゃんの鍛錬と言ったら……いろんな動物に変身させるとか……?」
「どこまでできるか見たい気もするが……さすがに魔界に帰ってからだな!」
「変身してほしいのあるんだよねぇ……。」
「何に変身してほしいんだ?」
「ペガサス!」
「翼を持つ白い天馬の事か!?」
「そう! 空を自由に飛べるでしょ。」
「一華自身が変身とかできるんじゃないのか?」
「えっえっえっ、私が変身? 仁華以外にも変身できるの?」
「サンでさえ、魔力でテレビの電源を点けることができたんだ。一華だって、鍛錬すれば黒猫以外にも変身の可能性は……満月パワーのみぞ知る!」
「なーんだ。もう、本気にしちゃったじゃない……。」
「ピピピ、ピピピ」
その時、タイマーのアラームが鳴りだした。
「あ、お呼びがかかっちゃった。」
一華はタイマーを止めるため、こたつから立ち上がった。
煮込み時間が終わり、肉が柔らかくなった。火を止めて、ルーを入れて溶かす。弱火にしてとろみがつくまで10分程度煮込んでいく。
ルーも溶け、いい感じでとろみもついてきた。これで、火を止めて味をなじませていく。
一華がシンの隣に戻ると、サンがクリスマスケーキを食べ終わり、シンに撫でられていた。
夕食時間まで、サンにステップの特訓をさせることにした。
◇◆◇
夕食時間近くになり、一華だけが最後の仕上げに、キッチンに立っていく。
オーブンを予熱し、ローストチキンを焼いていく。
その間に、ジャガイモを茹で、ブロッコリーを電子レンジで加熱……と思っていたが、電子レンジはローストチキンで使用中だった……。
予定が狂った。
とりあえず、ビーフシチューを焦げ付かないよう弱火でゆっくりとかき混ぜながら温めていく。
その間にじゃがいもが茹で上がった。その後、ブロッコリーも茹でることにした。
ビーフシチュー全体がフツフツとしている。温まったようだ。
茹でていたじゃがいもを加えて混ぜたあと、お皿に盛り付ける。ブロッコリーを彩りよくのせてテーブルに運ぶ。
ローストチキンも焼きあがった。急に忙しくなった。バタバタしだす。
ローストチキンは数切れに切って、お皿に盛り付けてテーブルに運ぶ。
ハートの形をしたゼリー型にご飯を入れて、お皿に移してテーブルに運ぶ。
忘れてた。サンちゃんのお肉。急いでお湯を沸かしてサン用に購入した薄切り肉を茹でる。1枚1枚しゃぶしゃぶして、食べやすいようにカットして、冷ます。サンのお皿に冷めたお肉をのせる。
「シン、できたよ。食べよう! サンちゃんもお肉だよー!」
シンはテーブルに着き、サンは一目散にお肉目掛けて駆けて来た。
「一華、この形は!」
平らなお皿にはハートの形をした白いご飯が中央に盛られている。
「ぽいでしょ!」
「あぁ、ぽいな!」
「どうかな。赤ワインの代わりにノンアルコールワイン使ったんだけど……。」
シンはスプーンでビーフシチューを一掬いし、口に運んだ。
「美味いな。濃厚でコクがある。少しワインの酸味を感じるが、気にするほどではない。お肉もほろほろで美味いぞ!」
「ほんと!?」
一華もスプーンでビーフシチューを一掬いし、口に運ぶ。
「ほんと、美味しい! ノンアルコールワイン使って正解だった。」
「ローストチキンも食べてみて。」
シンは一切れお皿に取り、ナイフとフォークで一口サイズに切り、口に入れる。
「これも美味い。皮がパリッとしてて、味も中まで染みてて美味しい。」
「良かった。本当は一晩くらい漬け込んだ方が良いらしいんだけど……。」
一華もローストチキンを一切れお皿に取り、ナイフとフォークで一口サイズに切り、口に入れた。
「ほんと、染みてて美味しい!」
「ちょっと、最後の方はバタバタだったけど、成功だね!」
「あぁ、完璧だ!」
朝は言われるがまま褒めたシンだったが、今回は心から賞賛していた。
「ほら、非常食は必要ないって言ったでしょ!」
「あぁ、無駄になったがローリングストックに回そう! しかし、一華が料理中は、暇だ。やっぱり、一緒に料理する方がいい。」
「うん。私も二人で料理する方がいい。」
「一華のそれは、手伝ってほしいからだろ!?」
「えへへ、バレたか!?」
一華は照れ隠しのため、おどけて見せた。
オン・ザ・ライスでシチューを食べ始める一華。
「ご飯の回りにシチューを盛り付けた方がぽくないか?」
「そう思ったんだけど、最初は別々にした方がいいかなと思って。好きに食べれるし。」
「俺は一緒に盛り付けた方がいいな!」
「じゃぁ、来年は一緒に盛り付けるね!」
シンと二人で後片付けをすることにしたが、キッチンに入るとバタバタした感じのまま残っていた。
「やっぱり、二人で料理した方が良さそうだな!」
「うん」
食後、お風呂を済ませた二人は、一華が小さなホールケーキを切り分け、シンがシャン○リーを開ける。
「ポンッ」
シャン○リーの栓が勢いよくどこかに飛んで行ってしまった。
サンが「にゃん!」と音のした方に追いかけて行く。栓を探している。
シャン○リーをグラスに注ぐ。
「「メリークリスマス!」」
一華とシンはグラスを重ねる。
明日からはシンの特訓が待ち受けている。その前のひと時を楽しむことが出来た。




