第113話 体育祭2【後編】
休憩を終え、13時前にはテントに戻ってきた生徒会メンバー達。
午後、最初の競技『男女混合ペアのミッション競技』の準備を始める。
ミッションが書かれたカードを置いていく。
競技係は使用する用具を準備する。
本当ならシンも一華と参加したかった。
お姫様抱っこ以外にも、大きなゴムチューブに二人で入ったり、ムカデ足でゴールを目指すミッションもあり、カップルとしては堂々とぴったりとくっ付くことが出来る。
一華はそんなシンの胸中を感じ取っていた。
空きがあれば参加してもいいかなとは思っていた一華だったが、同学年のカップルがこんなにいるとは思っていなかった。
13時になり生徒や先生がテントに戻ってきた。
いよいよ、『男女混合ペアのミッション競技』参加メンバーがスタート地点に立った。
「ようい、パン!」ピストル音でスタートする。
カードを引く。
おんぶするカップルは早い1位だ。
スレンダーなカップルであればゴムチューブに入っても、上半身だけ向かい合わせにして足だけは前を向いて走れる。結構早い。2位でゴールした。
サッカーボールを胸で挟んでゴールを目指すのは3位だった。
お姫様抱っこを引いたペアは、初めてだったのか、男子がよたよたと走って行く。それでも4位だ。
ムカデ競走は足を結ぶのに時間がかかり、息を合わせてもスピードは遅くなったがビリは免れた。
最悪はぐるぐるバットの後、手を繋いでゴールを目指すミッションだ。まっすぐは走れないうえに、相手方に引っ張られたりと、前になかなか進めない。ビリだ。
やっぱりビリであっても、ぐるぐるバットはみんなが笑って盛り上がった。最後には勝敗関係なく、頑張れコールが発生した。
次の競技の集合案内が放送された。
「パン食い競争参加者はフィールド内に集合してください。」
フィールド内でパン食い競争が始まる。競技担当者2人が立てた竿の先に一本のロープが渡され、間隔をあけた6本の紐の先にはクリップが結ばれている。レースごとに袋のままパンを挟みぶら下げる。
中央に位置するほど、揺れ幅が大きくなり、かぶりつきにくい。公平性を期すために、前の競技中に、くじ引きで目的のパンを決めておいた。
参加ペアが事前にくじ引きで引いた番号のパンの前に並んだ。
浩輔があれだけ多様性だ、平等だと理由を並べ立てたが、女子ペア、男子ペアは見当たらない。当初の予定通り男女ペアだけだ。
1レース目では浩輔と理那のペアが1番のスタート地点に並んだ。「ヨーイ」で女子をお姫様抱っこして、ピストル音でスタートした。
理那達女子は男子の首に手を回している。男子と協力してパンの袋にかぶりつく女子もいれば、男子がかぶりつきやすいように、頬でパンを抑えようとする女子もいる。
理那は浩輔に協力し合わないと宣言したが……しっかりと協力し合って、浩輔がパンにかぶりつきやすいよう頬で揺れないよう固定している。
時間が経てば経つほど、腕の力が入らなくなる。協力し合わなければ女子を落とすことになる、女子を落とせば腕立て伏せ100回だ。5分以内という時間制限もあり、どうしても協力をし合うことになる。
浩輔がパンを咥え取った。白旗が上がった。スタート地点に1位で戻ってきた。
他のペアも制限時間内にパンを咥えてゴールした。1位狙いというよりも、腕立て伏せ回避に重点が置かれているように見える。
2レース目では直哉と真由のペアが6番のスタート地点に並んだ。「ヨーイ」で女子をお姫様抱っこして、ピストル音でスタートする。
女子との相性や、くじ引きの運で勝負がわかれる。
直哉が他のペアよりも早くパンの下まで着いた。真由が揺らさないようかぶりつき取った。白旗が上がる。早い。スタート位置に1位で戻ってきた。
いまだ失格者を出さずに最終3レース目が始まった。海斗と真凛のペアが2番の位置からスタートした。
他のペアに先越されると、上下左右に揺れる。咥えようとするが離れてしまい、なかなか1人では難しい。どうしても協力し合わなければ時間だけが過ぎて行く。
どのペアも時間が過ぎて行き、焦りが見え始めた。その中でも3年は前の2レースともに全敗だったため、何とか1位を取りたいと特に焦っていた。協力し合いパンを固定しようとした時、他のペアがパンを咥えたと同時だった。パンが揺れて顔から離れてしまった。赤旗が上がった……ハプニング発生。
3年男女ペアが失格になった。確信犯ではなかった事は表情を見れば一目瞭然だった。
浩輔が天を仰いだ。シンはしたり顔だ。
失格ペアを除いて、全員がゴールした。
浩輔とシンが教師のテントに向かう。浩輔が土下座する。シンは浩輔にマイクを向けた。
「申し訳ありません。私が無断で欲望のままにルールを変更しました。3年生のペアは事故です。反省の意味を込めて、ただいまより腕立て伏せ100回します。」
浩輔は体を起こし、腕立て伏せの体勢をとろうとした時、生徒会顧問の市川先生が口を開いた。
「生徒会長、このルールは知っていたか!?」
「はい。」
「その上で、許可したのか!?」
「その通りです。」
「なら、生徒会長も同罪だ。一緒に腕立て伏せ100回だ!」
「……承知しました。」
シンは本部のテントに向かって一華を呼ぶ。
「一華、来い。」
一華がシンの所まで駆け寄る。
「俺の肩甲骨あたりに乗ってくれ。胡坐か正座できるか!?」
「えっ?」
「ついでだ。久しぶりに鍛錬だ。数えてくれ。」
シンは腕立て伏せの体勢を取った。一華は靴を脱ぎシンの肩甲骨あたりに正座し、落ちないよう肩辺りに手をついた。
他の生徒からは「何をする気だ?」「あれで腕立てするのか?」「正気か?」「無理だろ。」といろんな声が漏れ聞こえる。
「浩輔、ついて来いよ。いくぞ。」
「おっ、おう」
シンと浩輔が同時に腕立て伏せを始めた……が、1秒間に1回のハイペースだ。
「1,2、3、4、5、6、7、8、9、10」
一華は落ちないようバランスを取りながら10数えると、指を上げて、また1から数える。
「1,2、3、4、5、6、7、8、9、20」
浩輔はついて来れない。
シンは一向にスピードを落とさず、リズムよく腕を上下させている。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、100、終わり」
1分40秒後、一華はとうとう、10本目の指を上げた。
シンは腕立て伏せを止めて、一華が背中から降りると、体勢を立て直した。
疲れたような表情はしていない。涼しい顔をしている。
「やりやがった……。」「なんて筋力だ……。」
「一華、軽すぎる。もう少し太らないと鍛錬にならん。」
「私、腕立て伏せの重しじゃないよ。」
一華は太れと言われて頬を膨らませて抗議する。
「隣でいちゃつくのはやめてくれ。」
浩輔は腕立て伏せをしながらも、声に出してシン達に抗議した。
みんなで浩輔の数を数えて行く。理那をお姫様抱っこするため、夏休みからの鍛錬はしていたのだろう。1秒間に1回のペースでは敵わないが、ゆっくりではあるが確実に腕立て伏せを行った。
「終わったー!」
浩輔は腕立て伏せ100回をやり終えると天を仰いだ。
「浩輔、もう俺に隠れてするなよ。」
「あぁ、悪かった。」
シンは浩輔の手を取ると、立たせる。二人は教師に向かって頭を下げると本部のテントに帰って行った。
「浩輔、もう競技はないだろ。腕でも冷やしておけ。」
シンは浩輔に言い放つと、次のミッション競技の準備に取り掛かった。
理那が浩輔を心配してタオルで両腕を冷やしている。一華は保冷剤を貸してあげた。
ミッション競技と女子100m走決勝の後は問題なく進んでいった。
いよいよ『クイズ100m走』が始まる。
ゴール地点にシンと一華が準備に入った。
一華がマイクをシンに向ける。クイズの書かれたカードを手に取る。
「第1問。ア○レちゃんの故郷はどこ?」
「パン」スタート開始のピストル音が鳴った。全員がスタートしてゴールを目指す。
……が、ゴール間近で足が止まる。答えを知らないからだ。
1年のテントでは沙羅がやきもきしている。誰も一向に進まない。(あーもう)
沙羅がスタート地点からダッシュした。どんどんゴール近くなり、ゴール前の生徒を抜いて1位でシンの前までやってきた。
「答えていいですか?」
「誰にも聞いてないな?」
「***(シン、大丈夫。誰にも聞いてないよ。)***」
「はい。」
「答えは?」
「ゲン○ロウ島の○ンギン村です。」
「正解!」
「採点係、1年に得点だ!」
「やったー。ありがとうございます。」
3年からクレームが上がった。
「生徒会で答えを教えてたんだろ!?」
「生徒会では協議もしてない。クイズの内容は俺と一華だけの秘密だ。他に分かった奴は、参加者の中でいるのか?」
「……」
「仮に不正行為を行うとしたら、俺なら2年に回答させるが……!?」
クレームを言った3年は反論できず、テントに戻って行った。
「次のクイズから、参加者が回答できない場合は、他からの参加は認めるが、教えてもらったりスマホ検索した場合はマイナス得点とする。」
「第2問。『吾輩は○である』の作者の肖像画が描かれていたのはかつての何円札か?」
「パン」スタート開始のピストル音が鳴った。全員がスタートしてゴールを目指す。
3年が1位ゴールしてシンの前までやってきた。
「夏○漱石」
「不正解」
「へっ?」
ゴール目指して走る間に問題を勘違いしていたようだ。
2年が2位でゴールしていた。回答権が回ってきた。
「千円札」
「正解」
「くそっ」
間違った3年が悔しがる。宗一郎の企んだ通りだ。
「第3問。SNSなどでよく使われる、短期間で爆発的に話題になることを何という?」
「パン」スタート開始のピストル音が鳴った。全員がスタートしてゴールを目指す。
1年が1位で回答権を得た。
「バズる」
「正解」
「第4問。漢字「憂鬱」の総画数は何画?」
「パン」スタート開始のピストル音が鳴った。全員がスタートしてゴールを目指す。
2年が回答権を得た。
「40画」
「不正解」
「やっぱりな。適当は無理か……。」
「お前、一か八かで答えたのか???」
シンが回答者である2年男子生徒に呆れている。
「あぁ、考えても答えが出ないものは、とりあえず、何でもいいから空欄は埋めるだろ。それと一緒だ!」
3年が2位でゴールしてきた。
「44画」
「正解」
「お前、適当に答えるの止めろよ。」
3年が2年に注意する。間違ってくれたお陰で2位でも得点が入った事を横に置いて。
「最終問題。この国の法律で定められている「国民の祝日」は全部で何日間か?」
「パン」スタート開始のピストル音が鳴った。全員がスタートしてゴールを目指す。
ゴール近くで全員止まった。指折り数えている。
1年が回答権を得た。
「15日」
「不正解」
15日じゃないことは分かった。他の参加者が1から数え始める。
それ以外に祝日があることを指折り確かめる。
2年が早かった。数えずにそのままゴールする。
「16日」
「正解」
「やったー。」
「お前も適当か!?」
「あぁ、順番に言えば、いずれは正解するだろ!」
(2年には適当な奴しかおらんのか?)
「最終競技『学年対抗スウェーデンリレー』に参加メンバーは各スタート地点にお集まりください。」
1周200mのトラックを100m、200m、300m、400m、500mと走る。シンはアンカーの500mでトラックを2周半する。アンカーのゴールを本部の前をゴールとなるよう、スタート地点は生徒側から始まる。
「よーい、パン!」
始まった、各クラスの代表が走って行く。ダッシュはするが、後半になるとバテてきている。スピードが落ちた。アンカーのシンにバトンが渡った。
シンはダッシュする。前を走る1年を抜き、3年を抜いた。1位に躍り出た。後は、スピードを落とさずゴールを目指すだけだ。
……が、シンのスピードはどんどん速くなる。2周半の間に更に1年と3年を追い抜いてゴールした。
1周差をつけて圧倒的な走りだった。
2年からは歓声が上がった。優勝したも同然と言わんばかりの歓声が続く。
ビリの1年もゴールした。
「競技が全て終わりましたので、閉会式を行います。生徒の皆さんはグラウンドに整列してください。」
採点中の記録係を残して、全校生徒はグラウンドに整列した。
「得点発表です。」の合図で記録係が学年ごとに点数を発表していく。
「1年、△△△点、2年、〇〇〇点」
ここまでで、2年が勝っている。
「3年、×××点。2年の優勝です。」
当然だろと言わんばかりの歓声が2年から沸き起こった。
3年はまたも負けたと肩を落としている。3年に挑まれた体育祭の幕が閉じられた。
閉会式後、役割分担して椅子や備品などみんなで片づけていく。
片づけ最中、隅に置かれた「大きなゴムチューブ」がシンの目に入った。
それを持って、一華の傍までやってきた。
「片づける前に、これ一緒にやってくれないか?」
「えー? もう終わったのに?」
「あぁ、一華が考えたのに試してもないし、体験しておきたい。」
「わかったよ。1回だけだよ。」
一華とシンはトラックのスタート地点に行き、お互い向き合ってチューブに入ると、密着した状態でヨチヨチとゴール目指して走りだして行く。
「きゃははは。走りにくいよ。」
一華の弾けるような笑い声がグラウンド上に響いた。
「また、あの二人いちゃついてるぞ。」
浩輔が理那に話しかける。
「私たちもする?」
「いいのか?」
シンと一華がゴムチューブに入ったままテントに戻ってきたところに、浩輔がゴムチューブを受け取った。
入れ替わりに理那と一緒にスタート地点に行き、一緒に入って走る。
「なんだ。あいつらもやりたかったのか!?」
生徒会顧問の市川先生の目に映った。
「こらぁ、もう片付けろー!」
今度は怒声がグラウンド場に鳴り響き、強制終了だ。それを聞いた生徒達あちこちから笑い声が聞こえる。
(あーぁ、怒られちゃった。)
「***(今日は浩輔、散々だな。)***」
「***(悪いことは企んじゃダメっていう神様のお怒りかな!?)***」
シンが始めたことにとばっちりを受けた浩輔だったが、理那と密着して走れたことで怒られた事は気にしてなかった。
みんなで片づけを終えて教室に戻って行った。
担任も教室に入ってきて終わりのホームルームが始まった。明日は通常通りの授業があるので、しっかり休息するようにとの伝達で終了した。
生徒会としては1つの行事が無事終わった。




