第112話 体育祭2【前編】
雲一つない快晴で迎えた体育祭。昨年同様、優勝を目指して一致団結した各学年。優勝を目指す3年は、「打倒・シン」を合言葉に団結しているように見える。
全員で開会式、体操に参加後は、各テントへと散らばって行く。いよいよ競技開始だ。
一華は二人三脚だけ参加を決めたため、それ以外はゆっくりと本部のテントから競技を見ることが出来る。後はシンの心配だけだ。
最初に行われる『女子100m走予選』のアナウンスが流れる。
1年から選抜メンバーはスタート位置に立ち、ピストル音でダッシュする。
その間、フィールド内で行われる騎馬戦の準備が始まった。選抜メンバーは3つのラインに並び立ち、騎馬を作って行く。
『女子100m走予選』が終了し、『騎馬戦』の案内が放送された。
「パン」ピストル音で騎馬が動き出した。ぐるぐる動き出し、背後を守りながら、2、3組の騎馬で1騎を狙う。
最後の1騎になるまで続けられる。
トラック場では、次の競技『ミッション競技(女子シングル)』の準備が始まった。
ミッションが印刷されたカードを一華とシンは持ち帰り、偽造防止の目印をつけていた。
◇◆◇
数日前。一華がサンにお願いをする。
「サンちゃん、カードに肉球スタンプ押してくれる?」
「にゃんにゃ……(肉球スタンプにゃ!?)」
「ここら辺に、これ全部」
一華は全てのカードの山をサンの前に出した。
「にゃんー……(多いにゃ!?)」
サンは文句を言うも一華からのお願いにはシン同様弱い。
「終わったら、おやつあげるから……ね。お願い!」
「にゃんにゃー……(わかったにゃ!)」
「サンちゃん、ありがとう!」
一華は1枚カードをサンの前に出す。サンはインクを肉球につけると、リズムよくカードに肉球を押し付けていく。
「かわいいー。このカード欲しいー。」
全てのカードに肉球スタンプを押した後、最後に何も印刷されていないカードを差し出した。
「サンちゃん。ここにも押して。」
サンは中央に肉球を押し付けた。中央に1個では余白があり過ぎて寂しい感じがする。
「余白にも、押して。」
カードにはサンの肉球スタンプが所狭しと押されていた。
一華は約束通り、おやつをサンに向けて差し出した。
「うまいにゃ、うまいにゃ」と仕事を終えたサンは夢中でかぶりついた。
シンは乾いたカードから順番に封筒に仕舞って行く。
◇◆◇
と、模造できない直押し肉球スタンプ付という偽造防止目印を施してあるミッション競技とクイズのカード偽造は不可能だ。
女子シングル用に用意されたカードをトラックの途中に置いていく。
借り人競争は採用されていない。
騎馬戦が終わった。気迫に押され3年が勝った。
ミッション競技が開始される。
「ようい、パン」ピストル音でスタートする。
カードを引いていく。書かれたミッションに従い、後ろ向きや縄跳びをしながらゴールを目指すなか、辺りを見渡す1年女子がいた。
誰も見当たらないようだ。困惑していたが仕方なく、もう一つカードを引くことにしたらしい。
競歩でゴールした。
判定係がゴールした順にミッションに合致しているか確認していた所に、最後にゴールした1年女子が「帽子被っている人いなかったよ……。」と呟いた。
(ごめんね。先生ぐらいいると思ったんだけどね……。)
一華は1年女子の呟きが脳内に聞こえてきて思わず謝っていた。
「***(一華、あの1年女子の声が聞こえたのか?)***」
「***(うん、可哀想なことしたね。)***」
「***(ないとは思ってなかったからな。)***」
「男女混合二人三脚学年対抗リレー参加者の方はフィールド内に集合してください。」
「一華、いよいよ俺たちの出番だ。いくぞ。」
「うん。」
男女混合二人三脚学年対抗リレーが始まる。
◇◆◇
シンはいち早く、掲示板に貼られた参加種目の欄に「シン・一華」の名前を記入していた。その後、誰にも記入されることなく、希望通り参加することになった。
それから、自宅では特訓が始まったのだ。シン一人が走るお姫様抱っこであれば、必ず1位をとれるが、今回は一華と二人で走る。一華のスピードがMAXだ。一華としても自分が原因で1位が取れないとなると気が重い。
シンの左足と一華の右足をハチマキで結んで準備完了だ。
「『1』で結んでいる足を前に出して、『2』で反対側を出す。いい?」
「承知した。」
「せーの」
「「1」」結んだ足を前に出す。
「「2」」反対側を前に出す。
「「1」」結んだ足を前に出す。
「「2」」反対側を前に出す。
リビングからキッチン手前までやってみた。
「遅いな……。」
「ごめん」
「ん? 違う。……なんていうか……、コンパスの差が間隔をずらすというか……。」
「一華、一人で走って見てくれ。」
「えっ? ここで?」
「通常走る歩幅を知りたい。」
「なるほど……じゃ、やるよ。」
一華は一人思いっきりキッチン手前まで走ってみた。
シンは一華の足の歩幅をじっくりと観察した後、二人の足をハチマキで結んだ。
「一華はさっきと同じ歩幅で走ってくれ。俺が合わす。」
「わかった。じゃぁ、いくよ。」
「ようい」「1」
ハチマキで結んだ足を前に出す。その後は掛け声を掛けることなく、リビングからキッチン手前まで走った。
「すごーい。さっきより速ーい。」
「感覚は掴んだが……後は、他のメンバーだな。」
一華とシンの特訓は間隔を体に覚えさせるため、体育祭前日まで続いた。
◇◆◇
男女混合二人三脚学年対抗リレーが始まった。
一華とシンはアンカーを務めるため、最後尾から他メンバーを見守る。どのペアも自分たちが最初に走ったように掛け声を掛けながら走っている。
ビリながらも大差がつくことなく、アンカーのシンにバトンタッチした。一華が「1」と掛け声を掛けると結んだ側の足を出す。その後は、練習通り、一華の歩幅、MAXのスピードにシンが合わせて走って行く。
1年と3年が「1、2、1、2」と掛け声を掛けながら走っている横を追い抜いていく。
あっという間にゴールする一華とシン。
「やったー! 1位だー!」
2年からは歓声が沸き起こった。前を走った2年メンバー達も喜んでいる。
一華の参加競技は終わった。足を引っ張ることなく、2年優勝へ、また一歩近づけたことでホッとしていた。
◇◆◇
かけっこ玉入れの準備のため、シンはカゴを背中に担いだ。
「ようい、パン!」ピストル音が鳴り、1年から3年の女子は男子が担いだカゴ目掛けて玉を投げ入れる。
3年女子はシンのカゴに玉を入れるが、事前に指一本でも触れるとマイナス100点だと宣告されたために、距離を置いて投げれば、シンは魔力で察知してカゴの位置をずらすため体の向きを変えたり、遠くへ逃げたりしている。
シンに逃げられると、3年女子は追いつけない。時間が経てば経つほど、体力を奪われていく。遠くからシンに向かって投げ入れるが、到底届かない。
シンを指名したことで負けは確定することを想定していなかったのか……、「パン」終了のピストル音が鳴った。
カゴを担いだ男子が中央に集まり、数えながら玉を投げだす。
「いーち」1年と2年のカゴから玉が投げられるが……、3年のカゴからは投げられない。
シンがカゴを逆さにして何も入ってないことをアピールした。
「うそでしょ……」「まじか……」「1個も入ってないのか……」
3年からは落胆の声が漏れる。
「にー」1年と2年のカゴから玉が投げられる。
最後まで玉が投げ出されたのは2年のカゴからだった。1年男子が忖度したのか、先輩女子に圧倒されたのかは不明だが、2年の勝利だ。また1歩、優勝に近づいた。
◇◆◇
かけっこ玉入れが終了後、シンは一華がいる本部のテントに戻ってきた。
「お疲れ様!」
一華は冷たい麦茶をシンに渡し、首に冷たいタオルを掛ける。シンは次のリベンジ100m走に向けて体を冷やしておく。
一華はこの為に、冷たい麦茶の他、濡らしただけで冷たくなるタオル、冷却材などをたくさん用意した。もちろん、手持ち扇風機も。重いバッグを学校まで持って来たのはシンだったが……。
シンはバッグの重さが一華が自分を思ってくれている重さだと思い、持つことは全然苦じゃなかった。
『太鼓の合図で方向転換徒競走』と『ぐるぐるバットリレー』が順調に済み、午前最後の競技『リベンジ100m走』メンバー集合の放送が流れた。
シンは一華に「行ってくる」と声を掛けて、100m走のスタート地点に走って行く。
参加メンバーのほとんどが3年だ。1年は参加しなければ点が入らないと自信がある者だけが参加している。
シンと3年4人、1年1人の6人で1レース目が始まる。
「ようい、パン!」ピストル音が鳴った。
シンが一抜けて、どんどん2位以下を離していき、ゴールを駆け抜けた。2年だけに得点が入る。
シンはゴールを抜けるとスタート地点までそのままのスピードで戻って行った。
2レース目が始まる。
「ようい、パン!」ピストル音が鳴った。
シンが一抜けて、どんどん2位以下を離していき、ゴールした。2年だけに得点が入った。
シンはゴールを抜けるとスタート地点までそのままのスピードで戻って行った。
3レース目から5レース目までが終わった。全てシンが一抜けて、どんどん2位以下を離していき、ゴールした。2年だけに得点が入った。
一華がゴール先で待っていた。
シンに冷たい麦茶の入ったマグボトルを渡し、冷たいタオルを首に巻いた。
「休憩しなくても大丈夫なの?」
「あぁ、お茶飲んだから十分だ。ありがとう。いってくる。」
シンはマグボトルを返して、スタート地点に戻って行った。
「お前、本当に休憩なしで続けるのか?」
3年から心配する声が掛けられた。自分たちが無理やり望んだことだとしても、今日の暑さで続けることを心底心配しているのは本当だった。
「あぁ、大丈夫だ。さっさと終わらすぞ。」
6レース目が始まった。
上限の10レース目まで続けられた。何レースしようが結果は全てシンが1位を独占した。全て2年に得点が入った。
これで、ほぼ、優勝は手中に収まっているも同然だ。
シンは一華のいる本部のテントまで戻ってきた。
午前中の競技が全て終了した。
開催は13時から開始だが、競技参加者と係担当者は5分前にはテントまで戻ってくるよう伝えられた。
「さぁ、お昼にしよう。」
シンの言葉に一華は満面の笑みで頷いた。




