第111話 体育祭実行委員会2
放課後、体育祭実行委員会のため、各クラスの係担当者が視聴覚室に集合した。
記録係、競技係、会場設営係など、かなりの大人数が集まっている。事前に配布していたルール説明資料を捲りながら開始を待っている。
シンが中央に立ち、話始めようとした時。
生徒会としては各係の責任者を任命して、業務を任せる予定だったが……。
「はい。生徒会長!」
女子生徒が挙手した。
「なんだ? 質問か?」
「はい。……始業式の日に生徒会長が説明したパン食い競争では、お姫様抱っこされた女子がかぶりつくと記憶していたのですが、修正後の資料を確認すると、……パン食い競争のルールから『女子がかぶりつく』部分の記載がありません。これは男子が咥えても良いという事でしょうか?」
「記載がない……???」
シンの眉がピクリと動いた。浩輔を信頼し任せたままにしていた。最終確認を怠っていたのだ。
冷徹な視線を浩輔に向けた。
「浩輔、どういうことだ!?」
浩輔は悪びれる様子もなく、不敵な笑みを浮かべた。
「あぁ、削除させた。」
「ん? 1年は間違いなく修正していたのを、お前が削除させたのか!?」
「あぁ、そうだ!」
シンは眉間に皺を寄せて、冷徹に言い放つ。
「それなりの理由があるんだろうな!」
「あぁ、誰がかぶりついても良いことにすれば、面白いと思ってな。」
「どこが面白いんだ!?」
「二人が協力してかぶりつくとするだろ……、ハプニングが発生する!」
「お、お前、ハプニングって……」
シンは脳内に浮かんだハプニングを想像してしまい、顔が赤く染まった。
「キスという事か!」
男子生徒の中から嬉々とした声で指摘する声が上がった。
「キャー」
女子生徒からは悲鳴のような声があがった。
「浩輔、私、協力し合わないわよ。」
理那は呆れ、協力しないことを宣言する。
「べ、別に、マウス・トゥ・マウスっていうわけじゃなく、ほっぺに軽くだよ。」
シンは声を荒らげる。
「当たり前だろ! 誰が、許すか!」「お前の脳内はお花畑か!?」
シンは怒り呆れていた。
「それに、女子が持ち上げるペアも有るかもしれんだろ。」
「女子が男子をお姫様抱っこするのか?」
「そうだよ。体格的に逆転した方がいいペアもあるだろうし……、今は多様性の時代だ。ペアであれば全てのペアを平等に扱うべきだろ。」
「お前、多様性、平等と言えば、何でも通ると思うな。体格的に逆転する方が良いペアもあるだろうが、基本的に女子と男子では筋肉の付き方が違う。同じスタートラインに立てば、女子が不利になるのは明白だ。女子ペア、男子ペア、男女混合ペアに分けてレースを開催すべきだ。」
シンは呆れたように息を吐き、淡々と諭した。
「どんなペアでも参加可能にすれば、後は各学年の戦略に任せればいい。負けるような女子ペアを出すような事はしないだろ。男女ペアが一番だろうが、男子ペアでも体重差があれば問題なく参加可能だろ!?」
浩輔は完璧に理由を言い放った。
「選抜メンバーの仕切り役が戦略を練るというわけか!?」
「そうだ。2年は俺が、1年は宗一郎、3年は前生徒会長にかかっているという事だ。」
シンは係担当者に向かう。
「本来なら、生徒会で検討後、発表すべきだったが……、今、ここに出席している生徒だけで決を採る。」
「パン食い競争は男女混合に固執しないペア競技とし、パンをかぶりつくのはどちらかで、二人で協力しても良いという事に賛成のものは挙手。」
男子は即座に挙手したが、女子は少しの間考えてから徐々に挙手していった。
見た感じでは全員が挙手しているように見えるが……。
「では、反対の者は挙手。」
少しの時間をおいても挙手する生徒はいなかった。結果は全員賛成だ!
「……承知した。説明資料通りとする。」
シンの声が一段と低くなる。
「……ただし、二人で協力し合った結果、マウス・トゥ・マウスとなった場合は、確信犯と判断して即失格だ。ハプニングという言い訳は一切認めない。」
「わ、わかったよ。」
「失格者が出た場合は、主犯である浩輔に罰ゲームを課す。失格者も同罪だ。連帯責任で罰ゲームを受けてもらう。」
「おっ、おう、受けて立つぜ!……ちなみに、どんな罰ゲームだ?」
「そうだな……。教師達のテントの前で土下座して謝罪。その後、体育祭だから……腕立て伏せ100回はどうだ!?」
「ひゃっ100回?」
「あぁ、簡単だろ。2分もあれば終わる。」
「2分……1回1秒だぞ……無理だ……。」
「お前、キスさせるつもりか!? 失格者が出なければ罰ゲームは無しだ。問題はない。心してメンバー選出に当たれ!」
「わかったよ……。」
浩輔は肩を落としている。男子生徒から質問があがった。
「女子を落とした失格者も罰ゲームか?」
「女子を落とすのは言語道断、鍛錬不足だ! この際、一緒に受けろ!」
もう、シンは罰ゲームを受けさせたいのか、楽しそうだ。
「……落とされた女子は受けなくていいよね。」
一華が確認すると、シンは優しく頷いた。
「その場合は課さない。」
女子からは安堵のため息が聞こえる。
「だが、キスした女子は同罪だ。確信犯かもしれんからな。一緒に罰ゲームを受けてもらう。」
「不正を防ぐため、判定係は、ペアごとに1人付けろ。問題なくパンを咥えれば白旗、ハプニング発生時は赤旗をあげろ。ただし、判定係は他学年から選出する。見て見ぬ振りしては意味がない。」
「他に何か質問はあるか?」
「はい」
競技係から手が挙がった。
「ミッション内容については決まっていますか?」
「あぁ、後は印刷して封筒に入れるだけだ。ただし、偽物が入り込む可能性を無くすため、当日、生徒会で用意する。競技係は使用する用具のみ準備してくれ。競技ごとに使用する用具は箱詰めしておく。」
「仮に偽物のミッションが紛れ込んだ場合、再度、ミッションを引いてもらう。本物には全て目印を付けておく。コピーはできないし、修正もできないからな。」
表情が強張らせる女子生徒がいた。
偽物のミッションを紛れ込ませるつもりでもいたのか……。先手を打たれたため顔に出たのだろう。
シンはその動揺を見逃さなかった。
(やっぱりな……)
「わかりました。では、クイズの方もでしょうか?」
「あぁ、当日まで、俺と一華が管理する。これも同様に目印を付けておく。」
「他に質問は?」
「ないな。では、係責任者は2年を指名する。今後は係ごとに検討しておいてくれ。散会!」
予定時間を大幅にオーバーした委員会を終え、視聴覚室を出る頃には夕日はすっかり傾き、薄暗くなっていた。
「一華、サンが待っている、急いで帰ろう。」
「うん。」
一華とシンは足早に帰路についた。
浩輔はこの日からお姫様抱っこの鍛錬に追加して腕立て伏せ100回も加えることになった。




