第109話 サンの誕生日
サンは一華の膝にちょこんと座り、背中を撫でられ、気持ち良さそうに喉を鳴らしている。
「去年の今日、サンちゃんを保護したから今日をサンちゃんの誕生日にするね。」
「人間界での誕生日か!?」
「うん、本当の誕生日は分からないから。」
「何をするんだ? 俺達みたいに外食は出来ないだろ。」
「飼い猫OKな猫カフェもあるけど、サンちゃん、誕生日どうする? 何か希望ある?」
サンは黄金色の瞳を輝かせて、ここぞとばかりにリクエストする。
「にゃにゃーん……(お肉食いたいにゃ! 滑り台も行きたいにゃ!)」
「公園はお花見が最後だったもんね。でも、今の時期は、道路も滑り台も熱くて熱傷しちゃうよ……。」
「なら、夜行こう!」
「えっ? いいの?」
「あぁ、サンもたまには外出して鍛錬させないとな!」
「じゃぁ、夕食はお肉ね!」
「にゃーん……(やったにゃ!)」
「一華は仁華に変身しないよな!?」
「うん、このまま行く!」
「にゃんにゃ……(仁華とデートじゃにゃいにゃか!?)」
「シンが仁華とサンちゃん連れている時に浩輔君達と会うと、私がいないとバレるかもしれないからね。」
◇◆◇
夕食に茹でたてのジューシーなお肉を「うみゃい、うみゃい」と平らげたサンは、一華とシンに連れられて、意気揚々と公園へ繰り出した。
アスファルトの熱もようやく和らぎ、静まり返った公園は三人だけの貸し切り状態だ。
一華がリードを外すと、サンは一目散に滑り台の階段を駆け上がって行く。
トットットと頂点まで登ると、肉球を使い滑り降りて行く。
一華とシンは、ブランコに並んで座った。
「***(シンとこうして並んでブランコに乗るの、初めてだね。)***」
「***(そうだな。昼間は子供たちに占領されてたからな!)***」
一華とシンはテレパシーで他愛もない会話をしていた。その時。
「フーッ!!」
突如、滑り台の方から低い唸り声が響いた。
闇の中に見えるのは、この界隈を縄張りとしている筋骨隆々のボス猫。
侵入者であるサンを見上げ、背中の毛を逆立てて威嚇していた。
サンも毛を逆立て低い声で「ウーッ」と唸っている。
「***(ここらのボス猫かな!?)***」
「***(縄張り争いか……!? 一華は後ろに隠れていろ!)***」
シンは瞬時に公園全体を覆う強い結界を張った。防犯カメラも人の目からも遮断した。
「***(ちょっと、話しかけてみる。)***」
一華は、今回も対話を試みようとボス猫に話しかける。
((猫ちゃん、聞こえる? ちょっと遊びに来ただけだよ。猫ちゃんの縄張りを奪いに来たわけじゃないよ。))
ボス猫は、一瞬、一華の声に気を取られた。その時、何かが起きた。
「ウオーッ」
滑り台の上にいるサンが、聞いたことも無いような重低音で唸りを上げながら、滑り台を降りて来た。
ボス猫は威圧感と恐怖で硬直している。逃げると追いかけられる。逃げたいが目を離すとやられると悟り、ゆっくり、じりじりと後ろに下がっている。
「***(サンちゃん、こっちに来れる?)***」
サンは、ボス猫から目を離さず、ゆっくりと追い詰めている。
「***(サンちゃん、追い詰めちゃダメ!)***」
サンが立ち止まると、ボス猫はゆっくりと確実に離れていき、追いかけて来ないと判断すると一目散に闇夜へと逃げ去って行った。
一華とシンは、サンの所まで駆け寄った。……大きくなっている。
そこにいたのは、愛らしい黒猫ではなく、漆黒の毛並みを持つ「黒ヒョウ」だった。
「***(サンちゃん、大きくなってるよ!)***」
「***(黒ヒョウに変身したにゃ!)***」
「***(お前、いつの間に!?)***」
「***(黒猫も黒ヒョウも、俺にとっては同じにゃ!)***」
「***(変わるよー! 私と同じぐらいじゃない?)***」
サンは前足を一華の肩にドサッと乗せた。
「***(サンちゃん、重たい……。)***」
一華の背丈ほどのある巨体を支えきれず、一華は思わずよろけてしまった。すぐさま、シンは背後から腕を回し、一華の体を支える。
「***(一華、大丈夫か?)***」
「***(うん、大丈夫。こんなに大きいとみんな逃げちゃうよ!)***」
「***(サン、もう元に戻れ!)***」
「***(わかったにゃん)***」
サンは一華の肩から前足を下ろして、黒猫の姿に戻った。
シンはサンが元の黒猫の姿に戻ったことを確認すると、結界を解除した。
「***(結界を張っていて助かったー。今頃、大騒ぎだぞ!)***」
「***(あ、もしかして変身したところ、カメラにばっちり映ってるよね!)***」
「***(カメラに映らないよう結界を張っていたから大丈夫だ!)***」
「***(良かった。)***」
「***(さっきの野良ちゃん、サンちゃんの変身、もしかして見た?)***」
「***(大丈夫にゃん。一華が話しかけて目を離したときに変身したにゃ!)***」
「***(じゃぁ、大きい黒猫って思ったかなぁ?)***」
「***(だと、いいんだが……。サン、約束破ったな。)***」
「***(人間界の猫、怖いにゃ! みんな、俺を睨むにゃ!)***」
「***(だから、変身したのか!?)***」
「***(そうにゃ! 一発だったにゃ!)***」
「***(野良猫は生きていくのが必死だから、縄張りを侵されると食べていけなくなるでしょ! サンちゃんは脅かすんじゃなくて、対話しなくちゃダメ!)***」
「***(そうだな! 力でねじ伏せるだけでは、また狙われるぞ。変身できない昼間だったらどうするつもりだったんだ!?)***」
「***(逃げるにゃ!)***」
「***(逃げてたら猫王になれないよ。)***」
「***(力に頼るな。対話して共存する道を選べ!)***」
「***(わかったにゃん。)***」
一華とシンにこっぴどく注意されたサンは、耳をぱたんと寝かせてしょんぼりしている。
「***(あーぁ、せっかくの誕生日にゃのに……。)***」
「***(……サンちゃん、怒られて一日を終わるの嫌だよね。最後に何かしてほしいことある?)***」
サンが可哀想になり、一華はフォローを入れる。
サンは顔を上げて、シンの方をちらりと見る。
「***(シンのパーカーに入って……シン、着てにゃいにゃ……。仕方ない。抱っこさせてあげるにゃ。)***」
もう既に、いつものシンを揶揄うサンに戻っている。
「***(じゃぁ、シンに抱っこしてもらって帰ろう!)***」
「***(……抱っこって……暑いぞ。)***」
一華はサンを抱きあげ、シンに向けて差し出した。シンは仕方なく、サンを抱く。
シンは成長したサンを我が子を抱くように大事そうに抱いて、三人は公園を出て帰ることにした。
「***(……サン、重くなったな……太ったか!?)***」
「***(……太ってにゃいにゃ! 成長したんにゃ! シン、デリカシーにゃいにゃ。)***」
「***(デリカシー? なんだ、それは? 菓子の類か?)***」
「***(菓子だけにって…笑えるんだけど……。サンちゃん、よく『デリカシー』って言葉知ってたね!)***」
「***(テレビで知ったにゃ!)***」
「***(テレビでそんな事言ってたっけ?)***」
「***(二人が学校行ってる間に、テレビ点けて勉強したにゃ!)***」
「***(サンちゃん、テレビ点けれるの?)***」
「***(魔力使えばできるにゃ!)***」
「***(サン、いつの間に……そんな魔力覚醒させたんだ!?)***」
「***(点け、点けって念じてたにゃ! )***」
「***(すごいね、努力してたんだ! 私たちの前では寝てるばっかりだったのに!)***」
「***(努力は見せにゃいにゃ! 隠れてやるものにゃ!)***」
「***(サンちゃん、かっこいいー! 男の子だね!)***」
「***(そうにゃん! サンちゃん、かっこいいにゃん! シンは女の子に太ったにゃって言っちゃダメにゃ!)***」
「***(……っう、気を付ける……。)***」
帰り着くと、サンはシンにお風呂で丁寧に洗われて、一華にドライヤーでフワフワに乾かしてもらった。
最後の最後に、デザートのおやつをもらって、満足してベッドで丸くなった。ぐーすかとベッドでへそ天になり眠りについた。
「おやすみ、サンちゃん。」
一華の優しい声にも答えることなく、深い眠りについていた。




